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![]() ・オースターは作家だから、この欄には馴染まないのだが、なぜかここに書きたいと思った。『偶然の音楽』という作品があるからなのか、脚本を書き、製作に参加した映画『スモーク』でトム・ウェイツが歌い、『ブルー・イン・ザ・フェイス』にルー・リードやマドンナが登場したためなのか。いやそうではない。キーワードは「アイデンティティ」である。 ![]() ・「アイデンティティ」は自分が一体誰なのかを確認する根拠になるものである。僕はそれがロック音楽の中で共通して歌われるテーマであることに注目した。それは大人になる過程の若者についてであり、性や性別について悩み、不当さに怒る女達についてであり、人種や民族、あるいは階級の違いとそれにまつわる差別や偏見に晒されてきたマイノリティの叫びや主張であって、ロック音楽の中でよく歌われ続けてきた。 ・僕がオースターの小説を読んだのは、『アイデンティティの音楽』を書いていた時期に重なっている。彼の書く小説の主人公はほとんどが若者で、さまざまな理由や状況下で「アイデンティティ」に悩み、惑わされていた。それが理由で大学や仕事を辞め、放浪の旅に出る。そこで奇妙な、そして偶然の出会いや、出来事に遭遇し、時には成長して無事帰還したり、消え去ってしまったりする。その想像力に溢れた世界に魅了されて、熱心に読んだ。 ・若者が主人公である村上春樹の小説と違って、オースターは自分の歳に合わせるように、主人公を変えてきた。そこでも「アイデンティティ」は大きなテーマだったが、それは若者とは違って、すでに確立したものが消失するゆえに起こる悩みや苦悩になった。スーパースターになり、高齢になったミュージシャンの中には、同じようなテーマを歌にする人たちもいる。僕はそんな人たちのアルバムを好んで聴いているが、それをテーマに、また分析して見たいとは思わない。研究者という「アイデンティティ」はとっくに消してしまっているからだ。 ・なお、これまでにオースターについて書いたものは次の通りである。多くは一部に取り上げたものだが、コロナ禍で引きこもっている時に、ほとんどの作品を再読して、改めて紹介している。 ・1997/4.30Tom Waits "Big Time""Bone Machine""Nighthawks at the Dinner" |
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