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●最近読んだ本 |
1月6日 |
村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』文藝春秋 若杉冽『原発ホワイトアウト』講談社 輪島裕介『創られた「日本の心」神話』光文社新書 |
![]() ・ストーリーとしてはよくできていると思う。けれども、60代の半ばになった村上春樹がなぜ、30代の男の自分探しの巡礼の旅を書いたのかがぴんとこなかった。もちろん、彼の小説の主人公はこれまでもずっと10代から20代の若者だったから、むしろ少しだけ年長になったと言うことができるかもしれない。ただし、前作の『1Q84』や『ねじ巻き鳥』、あるいは『海辺のカフカ』と違って、『ノルウェイの森』の焼き直しのような感じがしたから、物語に引き込まれることも、主人公に同一化することもなかった。 ・そう思った原因は、ポール・オースターの最近の小説を夏に読んで、自分と同じ歳の男を主人公にして、老いに伴う「消失感」をテーマにしていた点に共感したことにある。アイデンティティを模索する、あるいは確立させないままにするといった話ではなく、アイデンティティの荷をおろす物語。高齢者と言われる歳になったのだから、村上春樹も老人を主人公にした小説を書くべきだ。同世代の読者として、そんな不満を持った。 ![]() ・で、その結果が、新潟の柏崎原発のメルダウンとなる。原因は送電線の爆破と強い寒波の襲来によるのだが、反原発のデモを力によってねじ伏せ、知事を汚職の疑いで逮捕して、柏崎原発の再稼働を強行した報いでもあった。事故が起きたのは12月28日で、メルトダウンはこの正月中に進行した。まさにリアルタイムで読んだわけで、その意味でもおもしろかった。 ・福島原発事故は「アンダー・コントロール」されているなどと言った嘘を世界に向けて公言し、原発の再稼働を政策に盛り込もうとする。その内実を暴露したこの本は、ずいぶん話題になったが、もう話題にされることもない。この本のように、もう一回原発事故が起こらないと、本気になって反省して方針展開することはないのかもしれない。最近の情勢を見ているとそんな気持ちになるが、この本の最後では、とてつもない事故に発展する危険性のなかでおろおろしながらもなお、原発の存続を考える政治家や官僚のつぶやきが描写されている。 ![]() ・演歌は戦後に形作られた音楽である。ブルースやジャズ、そしてクラシック音楽やロックにいたるあらゆる要素を採り入れて、日本人の心の歌として流行らせてきた。この本を読むとその過程が、あの歌手、あの作詞家、作曲家によるこの歌と、事細かに紹介され分析されている。 ・演歌は「和洋折衷」「和魂洋才」の産物だが、それこそが「日本人の心」なのだと言える。つまり、外からどれほど異質なものが入りこんでも、それを自分の口に合うよう味つけを変えてしまう。その意味では、ニュー・ミュージックだろうがJ・ポップだろうが、日本人は何でも「演歌」にしてしまうと言ってしまってもいいかもしれない。 |
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