私は今年、総合科目という授業で映画を毎週鑑賞している。授業はまだ4回くらいしか行われていないが、なかでも5月3日に上映された黒沢明監督の『赤ひげ』という作品について紹介していきたい。
この映画は、江戸時代中ごろに実在していた<小石川療養所>という、貧民層の人々のための公立医療施設を舞台に繰り広げられるストーリである。主な登場人物は、オランダ医学を学んだ長崎帰りのエリートである保本という若手の医者で、物語は彼が小石川療養所の専属医師に任命されたところから始まる。エリートであった彼にとって、この任地は不服なものであった療養所の院長である通称'赤ひげ'に対し、毎日毎日反発を繰り返す日々であった。しかし、時がたつにつれ赤ひげ院長の人間性にしだいにひかれていき、未熟であった彼自身が大人へと成長していく。いわゆるヒューマンストーリーである。その間、療養所に入院している数名の患者の私生活に関するいくつかのエピソードを中心に物語は進められ、当時の人々(もちろん上流階級の人ではなく一般庶民)のひたむきな姿勢や、その時代を生き抜くことがいかに苦しいものであったかを、リアリティーに私たちに
訴えかけていた。
わたしは、病に苦しみもだえている人々や、彼らの貧しい生活をまざまざと見せつけられ、なんともいえない不気味さと恐ろしさのようなものを感じさせられた。とくに、当時の手術は、麻酔などはあるはずもなく、手足を縄で縛り付けられ、口を布で覆われ、目隠しをされながら行われる。腹を切られている時に感じる痛みに泣き叫けんでいる患者のありさまをみると、身震いがしてならなかったし、思わず目をつむりたくもなった。そういった不気味さとは反対に、こんな貧しい生活の中でも多くの人々が優しい心を持っているところにはすがすがしい感動を覚えたし、'幸せ'に対して非常に謙虚な姿勢を持っている彼らをみて、現代の多くの人々が忘れかけてしまっているひたむきさのようなものも思い出させてくれたような気もした。
早い話が、私はこの映画を見ていろいろと考えさせられ、感動したのわけなのである。しかしながら、どうやら世間のこの作品に対する評価はあまり高いものでなないらしい。(桜井先生は、この作品をお勧めしていたが。)なぜ評価が低いのだろうか?理由はよく分からないが、仮に私がこの映画の残念な点を挙げてみるとすれば、私はこの映画が始まってまもなく、この先の話全体がどういう展開で進んでいくのかの見当が大体ついてしまった、ということが挙げられる。(大まかな話の枠がとても単純。)内容の一つ一つをとってみれば感動するものが多くあったが、やはり話の展開に意外性みたいなものがなかったら、なんだか少し物足りない。
私は、今回この授業で初めて黒沢明監督の作品をはじめてみた。邦画自体あまり見たことがなかったのだ。しかし、これを機に、他の作品にも非常に興味が湧いてきた。近いうちに観てみようかな、と思う。
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