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2021年10月11日

ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン
『アメリカを作った思想』(ちくま学芸文庫)


america1.jpg アメリカ合衆国はコロンブスから数えてもまだ、530年ほどの歴史しかない。政治や宗教、あるいは貧困や一獲千金目当てにヨーロッパから移り住んだ人、その人たちによって奴隷として送り込まれた人、そしてもちろん、新住民によって追い立てられ、滅ぼされた先住民などによってできた国である。極めて雑多で多様な人たちによって出来た国だが、20世紀以降、現在に至るまで、世界をリードし、支配してきた国でもある。一体、そのアメリカとは、どんなふうにしてでき上がったのか。この本は、その思想的側面に注目して分析した歴史書である。

ヨーロッパからの入植者が始まった時、北アメリカにはすでに5千万人を越える人たちが1万年以上も暮らしていた。この人たちは、中南米にあったマヤやインカといった帝国と違って、数千にも別れた部族社会で、ことばも暮らし方や習慣も違っていた。入植者たちは先住民に助けられ、また教えられることも多かったが、土地を奪い、殺し、また天然痘などを感染させて、その多くを滅ぼすことになった。しばらくは先住人との対比でしか自らのアイデンティティを自覚できなかった新住人たちが、アメリカ人として自覚し、建国するまでには数百年の時間が必要であったという。

アメリカが作られる過程では、もちろん、ヨーロッパからの新しい思想や哲学、あるいは文学が輸入された。そこからアメリカ的なものが生まれるのだが、この本でまず取り上げられているのはアメリカの独立の必要性を説いたトマス・ペインの『コモン・センス』であり、エマソンやソローに代表される「トランセンデンタリズム」(超絶主義)である。この自由と平等に基づくアメリカ生まれの新しい思想は、当然、奴隷を使う農耕を基本にする南部では受け入れられず、南北戦争が起こされることになる。

「トランセンデンタリズム」はダーウィンの「進化論」をもとに、人間が神によって現在のままにつくられたのではなく、多様な形態で進化してきたことを説き、白人も奴隷も同じ人間であることを主張した。しかしここには対立的な立場もあって、進化の過程で優劣が生じ、白人の優越性が生まれたと主張する「社会的ダーウィニズム」と呼ばれる動きもあった。この「進化論」をめぐる両極端の考えは、今でもなおアメリカを二分する思想の根にあるようだ。

アメリカを代表する哲学は「プラグマティズム」だと言われている。ジョン・デューイによって始められたこの哲学は、「普遍的で時間を超越した真理の探究を放棄し、かわりにある命題が真なのはそれが含意ないし予測する実践上の帰結が実際に経験として現れる場合だと言うことを強調した。」真理や信念はテストされる命題に過ぎない。それは何より実証的、経験的であるべきであり、現実に目を向け、そこから出発すべきだと考えた。「ダーウィニズム」や「トランセンダリズム」に影響されて生まれた「プラグマチズム」は20世紀のアメリカを根元から支える哲学になった。

こんなふうにしてアメリカの歴史を読み解いていくこの本には、今まで読んだことも聞いたこともない本や人の名前が次々登場する。先住民について、奴隷について、そしてもちろん移住者たちについて、今まではあまり注目されなかった文献を丹念に集め、徐々にアメリカ的なものが自覚され、思想が生まれ、国家として確立していく過程が丁寧にまとめられている。アメリカの歴史も「トランセンデンタリズム」も「プラグマティズム」も興味があって、ずいぶん読んできたが、今までとは少しだけ違うアメリカの歴史を知ることができた。




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