た行

※たいら あすこ※

◎平 安寿子 『あなたにもできる悪いこと』 講談社文庫、2009年

◆ピカレスク小説。トラブル・コーディネーターの仕事に関わる檜垣と畑中里奈のコンビが登場する6つの短編小説の連作。里奈がもちこんだ仕事を檜垣の思いつきと口舌で難局を乗り切っていく。働き方、騙し方、アイディアの出し方もいろいろ。

※たかすぎ りょう※

◎高杉 良 『いのちの風─小説・日本生命─』 集英社文庫、1987年

◆生保業界。ある社長の息子の生涯を描いたもの。日本生命の元常務・弘世源太郎がモデル。激変する生保業界の状況がよく理解できる。初刊本は、85年に集英社から刊行。

◎高杉 良 『生命燃ゆ』 集英社文庫、1990年

◆石油化学業界。「昭和電工」の大分石油化学コンビナートは、鉄鋼業における高炉に匹敵する石油化学の中核設備であるナフサ分解(エチレンプラント)部門への進出(1969年竣工)を意味するものであった。本書では、その建設に奔走し、コンビナートのコンピュータ制御や 中国の大慶との技術交流に心血を注ぎ、45歳の若さで糖尿病と白血病を患って他界したエンジニアの活躍が描かれている。垣下怜がモデル。初刊本は、83年に日本経済新聞社から刊行。中国語にも翻訳されている。

◎高杉 良 『王国の崩壊』 集英社文庫、1990年   

◆百貨店業界。かつて「ワンマン帝王」という異名を有した「三越」社長岡田茂の横暴と、その解任劇(1982年9月)を描いたもの。社内に張り巡らした「スパイ網」を駆使し、専制体制を作り上げた「寺本」のもとで、人心は乱れ、社員の士気は停滞していた。そうした状況下の雰囲気がよく描かれている。本書の主人公は、経営者の悪しき命令にも従わざるをえない立場のエリート中堅サラリーマンである。その彼が、愛社精神とトップに対する忠誠心を有しながらも、社会正義と企業論理との板挟みにあって苦悩する姿が浮き彫りにされている。

◎高杉 良 『男の決断』  新潮文庫、1995年

◆企業合併と人事権を扱った経済小説の短編二つと、経済小説のネタになった四つの話の解説的なドキュメントを収録。

◎高杉 良 『会社蘇生』 講談社文庫、1988年   

◆商社。宝石・カメラ・ゴルフ・テニス用品などの高級ファッション・レジャー商品を扱う老舗の総合商社「大沢商会」がモデル。負債総額11000億円以上を抱えての倒産(1984年)から西武流通グループの支援を受けて再建されるまでの過程を、保全管理人(のちに管財人となる)となったある弁護士の視点から描いている。初刊本は、87年に講談社から刊行。

◎高杉 良 『管理職降格』 徳間文庫、1994年

◆本書は、一連の高杉作品とはやや異なっている。「銀座デパート戦争」。名門百貨店である大松屋銀座店の法人外商第一部第二課長の津川直二郎を主人公にして、彼の家庭(横浜の貿易会社に勤める妻の真弓、中三の紀子、中一の直弘の四人家族)と会社の両面から、「管理職降格と家庭崩壊」を描いたものである。初出は、1984年に『あした吹く風』と題して地方紙やスポーツ紙に連載されたもので、86年に講談社から刊行。90年、テレビ朝日制作の二時間ドラマとして放映される。

◎高杉 良 『虚構の城』 講談社文庫、1981年 

◆石油業界。高杉のデビュー作。主人公のエリートサラリーマンである田崎は、「定年がない、出勤簿がない、残業代を受け取らない、首切りがない、組合がない」と言われ、「人間尊重の大家族主義」を標榜する大和鉱油で、労働組合のような「従業員の親睦会」を作ろうとする。仕事に追われ、組合の結成を認めない会社のいき方に疑問を持ったこともない田崎であったが、「石油業界最大手の大和鉱油に組合が存在しないなんて、不自然とは思いませんか」という一言に、ちょっとした疑問を抱いたことがすべての始まりであった。しかし、それがきっかけで、「危険思想の持ち主」と決め付けられ、左遷される。結局、外資系の陽光石油に転職するが、ここでも「前科一犯」のレッテルが張られてしまう。「日本的経営」の弱さを如実に示した作品と言えるだろう。「出光興産」がモデル。

◎高杉 良 『銀行人事部』 集英社文庫、1984年

◆高卒女子の就職戦線を描いた表題作の「銀行人事部」をはじめとする八つの短編を収録。

◎高杉 良 『銀行大統合』 講談社、2001年

◆97−98年に幾つかの大型金融機関の破綻を経験した金融界では、日本版ビッグバンのもと、外国金融機関や国内異業種企業との間で、激しい競争が始まっている。そして、2000年以降、「四大金融グループ」(みずほ、三井住友、三菱東京、UFJ)の形成を軸に、事態が大きく流動化している。そうした金融再編の引き金を引いたのは、第一勧業、富士、日本興業の三行が「みずほフィナンシャルグループ」を創設させたことである。第一勧業銀行は、一勧グループ、富士銀行は芙蓉グループの総帥的存在であった。日本興業銀行には、「長信銀のステータス」と高いプライドがあった。それぞれに重みのある行名を消し去り、「過去に例がないビジネスモデル」となる、持株会社による経営統合に踏み切るまでには、さぞかし長い紆余曲折があったのではと勘ぐってしまう。しかしながら、その歴史的な合併劇の舞台裏をドキュメント・タッチで描き上げた本書を読めば、合併話の浮上から三行頭取による大筋合意までに要した期間がわずか「24日」、それから合併の調印までなんと三ヵ月半と、当事者自身たちが驚くほど、実にスピーディに事が運ばれたことがよくわかる。原題は、『現代』2000年6月号ー11月号に連載された『決断のとき』。なお、『プレジデント』2001年4月2日号に、本書の主人公に当たる日本興業銀行頭取・西村正雄に対する高杉のインタビュー記事が、掲載されている。

◎高杉 良 『金融腐蝕列島』 上下巻、角川文庫、1997年

◆銀行。大蔵省と銀行と政治家によって作られたバブルの後遺症の深さ、バブル崩壊後における金融システムの救いようのない閉塞ぶり(銀行員の蒸発や自殺も含めて)、銀行のトップ・大蔵官僚・政治家の腐敗ぶりが見事に描かれている。協立銀行鈴木会長のモデルは、住友銀行の磯田一郎か?また、大手都銀のMOF担の業務、総会屋の活動、腐り切った政治家たちの実状(経世会の面々の腐敗ぶりが実名で登場する)、与党の黒幕とヤクザの結びつき、不良債権の実態、広域暴力団によるいやがらせ(電話攻撃・ビラ・宣伝カー)の実態、ヤクザの経済力・影響力、住専問題の本質などにも言及されている。1997年に角川書店から刊行された初刊本は、第一勧業銀行などの総会屋問題の発覚を予想した小説として、爆発的に売れた。

◎高杉 良 『広報室沈黙す』 上下巻、講談社文庫、1987年    

◆損保業界。本書に出てくる世紀火災保険では、会社を私物化する会長の渡辺弘毅も、次期社長となる甥の加藤俊彦も、非常識なわがままぶりを見せている。主人公の広報課長である木戸徹太郎は、そうしたトップのシリぬぐいをしながら、記者クラブの横柄な記者たちとも付き合わなければならない。かかる企業の矛盾の一端を担うミドルの活動と苦悩を通して、サラリーマンの哀歓を描き出している。初刊本は、84年に講談社から刊行。「スクープされたときの広報の対応」や「新聞記者との付き合い方」といったキメの細かい叙述が評判を呼び、「広報マン必読の書」と言われたようである。

◎杉 良 『混沌 新・金融腐食列島』 上下巻、講談社、2004年

◆銀行大統合の舞台裏。統合を仕掛ける銀行と仕掛けられる銀行の受け止め方、預金量の大小がそれぞれの銀行員に与える優越感・驕りと劣等感・ひがみ根性。大銀行の人材不足。1999年8月、産銀・朝日中央・芙蓉の三行が経営統合の合意を取り付け、世界一のメガバンク(資産150兆円)誕生が明らかになった。それに続いたのが、住之江銀行とさつき銀行との経営統合。そうした再編の波のなか、乗り遅れた大銀行(協立銀行)のあせり。残っているのは、協立、東亜、あけぼの、ヤマトの4行。協立が飛びついた新たな「メガバンク構想」とは。それは、すでに統合に向けて準備を進めていた東亜銀行とあけぼの銀行の統合構想に割り込み、三行の統合を図ることであった。もちろん、三つの銀行には、それぞれ独自な思惑とカルチャーが・・・。

◎高杉 良 『指名解雇』 講談社文庫、1999年

◆1993年1月8日の各紙で報じられたパイオニアの指名解雇は、企業とサラリーマンに多大なショックを与えた。「パイオニア・ショック」、と呼ばれたこの出来事を契機にしてリストラが本格化することになる。本書は、ミドル受難のシンボルとも言うべきこのパイオニアの指名解雇をモデルにしている。初刊本は、97年に講談社から刊行。

◎高杉 良 『社長の器』 講談社文庫、1992年

◆自動車業界。冷徹で攻撃的な兄は、多国籍企業の社長(ミネベア社長の高橋高見がモデル)であるが、猜疑心が強くて、人を信用しないタイプの経営者。他方、柔和で温情的な弟は、自動車会社(日産がモデル)の下請け会社二代目社長であり、国会議員でもある。弟の方は、父親の所有する小さなプレス工場を持ち前の努力で一流の部品メーカーに育て上げるが、死後、兄に経営権を剥奪されてしまう。そうした全く性格の違う二人の社長を通して、「リーダーの器」とはなにか、を考えさせられる。88年に講談社から刊行された『闘う経営者』を改題したものである。

◎高杉 良 『首魁の宴 政財界腐敗の構図』 講談社文庫、1998年

◆隔週刊経済誌『帝都経済』の主幹である杉野良治こと、「スギリョー」は、ペンを武器にして政財界に大きな影響力を有する人物である。「鬼のスギリョー」に凄まれて、なお反発するほど根性の据わった経営者は皆無であった。もし、申し出を断れば、『帝都経済』でこっぴどく叩かれることを覚悟しなければならない。恐喝まがい、詐欺まがいの悪事を働きながら、司直の手が伸びないのは、大物政治家に担保しているためである。本書に特定のモデルはいないが、書かれていることは、すべて事実によって組み立てられている。高杉の『濁流』の続編とも言うべき作品。

◎高杉 良 『呪縛 金融腐蝕列島U』 全3巻、角川書店、1998−99年

◆朝日中央銀行(ACB)は、朝日銀行(A)と中央銀行(C)が合併して成立した大手都市銀行である。本書は、バブル崩壊後の困難な環境のもと、ACBの改革を阻んでいる呪縛からの解放をめざして立ち上がった四人のミドルの活動を描いている。初出は、1998年6月29日から99年8月19日までの『産経新聞』での連載である。なお、99年に東映で高杉が参加した脚本により、同名の映画が製作されている。

◎高杉 良 『小説会社再建』 集英社文庫、1991年

◆造船業界。経営危機に陥った佐世保重工(SSK)。かつて大型タンカーで名を売り、過去の栄光に酔いしれているうちに、時代の流れに対応できなくなっていたのである。特に、その営業力がもろかった。もちろん時代背景として、オイル・ショック以後の造船業の構造不況化という問題も存在した。SSKの再建問題が漂流していたとき、調停役を引き受けたのが、経済界の重鎮である日本商工会議所会頭の永野重雄。物語は、永野がかつて愛媛県の来島どっくを再建させた坪内寿夫のもとを訪れ、SSKの経営を依頼するところから始まっている。1978年のことである。原題は、87年に角川書店から刊行された『太陽を、つかむ男』。坪内の手による佐世保重工の再建劇を実名で描いた作品である。   

◎高杉 良 『小説巨大(ガリバー)証券』 講談社文庫、1991年

◆本書の対象となる89年頃、野村、大和、日興、山一は四大証券と呼ばれていたが、実態は、「一強三弱」であった。というのは、圧倒的な強さを誇る野村がガリバーのような存在で、証券業界を仕切っていたからである。それゆえ、「大蔵省証券局など『野村証券霞ヶ関出張所』と呼ばれている」ほどである。本書でも、野村証券ならぬ「丸野証券」の傍若無人さ、と丸野証券に対する「三弱」証券会社の証券マンのコンプレックスが、あますところなく描かれている。バブル崩壊後に表面化する、「証券スキャンダル」で明らかになる損失補填などについても紹介されている。初刊本は、90年に講談社から刊行。

◎高杉 良 『小説ザ・外資』 光文社、2002年

◆「クレスベール証券事件」や新生銀行の成立を素材に、不良債権で弱体化した日本の金融界を、外資の「ハイエナ・ファンド」が狙い打ちし、「食い物」にしようとしている実態を描いた作品。克明に描き出されているM&A(合併・買収)業務に関する叙述は大変おもしろい。成果が出なければすぐにクビになってしまうために、外資系企業でも、上司に対するゴマすりや同僚同士の足の引っ張り合いがあることがよくわかる。

◎高杉 良 『小説ザ・ゼネコン』 ダイヤモンド社、2003年

◆建設業界。ゼネコンと呼ばれる総合建設会社の仕事内容、メインバンクのポジション争い、海外業務の実態はもちろんのこと、政治家との癒着、談合、闇会社との関わり、などが描かれている。物語は、都銀中位行の大洋銀行の企画本部調査役、1987年5月現在38歳の山本泰世が、準大手のゼネコン、東和建設に出向するところから始まる。社長室審議役となった山本は、社長のブレーンとして重宝がられるが、ゼネコンならではの暗部をも直視せざるを得なくなる・・・。

◎高杉 良 『小説消費者金融 クレジット社会の罠』 講談社文庫、1996年

◆消費者金融業界。この業界の水先案内人とも言うべき玉木英治がモデル。原題は、94年に講談社から刊行された『座礁』。なお、カード破産を扱った小説に宮部みゆき『火車』がある。

◎高杉 良 『小説新巨大証券』 上下巻、講談社文庫、1997年

◆「ヒノピン」こと日野 一を主人公にした『小説巨大証券』の続編。ただし、時期はバブル崩壊後の92年頃になっている。バブル期に行われた「飛ばし」(一定の利回りを保証したうえで、買い戻し条件付きで、有価証券を企業に販売すること)や「にぎり」(顧客企業に対し、一任勘定で一定の運用資金に対する利回りの保証を約束した勧誘)などの「後遺症」が表面化し、証券業界は苦しい状況におかれることになるが、そうしたなかで苦悩する「ヒノピン」の姿が克明に描かれている。初刊本は、95年に講談社から刊行。

◎高杉 良 『小説日本興業銀行』 講談社文庫、全5巻、1990−91年

◆産業金融の領域で大きな役割を演じた日本興業銀行が辿った、波瀾万丈のドラマを実名で描いた作品。上下に関係なく「そっぺいさん」というニックネームで親しまれた中山素平(61年11月−68年5月の頭取)が主人公。戦後復興期から高度成長期にかけての日本の産業史を彩るさまざまな出来事が、興銀という視点から浮き彫りにされている。いずれの出来事にあっても、実にさまざまな選択肢があり、そのなかから一つの路線が定められるまでには、多くのドラマが存在したことがよくわかる。まさに「歴史の流れ」が見事に描かれていると言うべきであろう。初刊本は、86−88年にかけて角川書店から刊行。

◎高杉 良 『辞令』 新潮文庫、1996年   

◆音響機器業界。大手音響機器メーカーの宣伝部副部長であった主人公の広岡修平は、仕事ができるし、人柄もいいということで定評があった。しかし、エコー・エレクトロニクス工業は、「小林ファミリー」の同族会社で、会長夫人は、32歳の次男を要職に就けるべく、人事にも勝手な口を挟んでいた。同族企業におけるトップの横暴、「子会社に行っても、敗者復活戦がある」とはいうものの、不公平な人事評価で人生が左右される、という企業の矛盾がよく描かれている。初刊本は、バブル景気の真っ最中である88年に集英社から刊行。

◎高杉 良 『白い叛乱』 集英社文庫、1983年   

◆製薬業界。製薬会社のプロパー(外交員)が主人公。薬学部や薬科大学を卒業し、薬剤師の資格を有したプロパーが多いにもかかわらず、製薬会社における彼らの地位は、総じて低い。医師たちのプロパーに対する態度は、極めて横柄である。

◎高杉 良 『人事権』 講談社、1992年

◆主人公は、中堅損保・栄和火災海上の秘書室次長で、ワンマン会長の石井三郎付けの相沢靖夫。初出は、『時事通信・金融財政』91年9月2日号から92年10月5日号にかけての連載。 

◎高杉 良 『新聞辞令』 集英社文庫、1988年  

◆主に、人事異動を扱った5つの短編を収録。

◎高杉 良 『青年社長』 上下巻、ダイヤモンド社、1999年

◆弱冠24歳で外食ビジネスを立ち上げ、のちにワタミフードサービスを創設することになった渡邊美樹(59年生まれ)の活躍を描いた実名小説。92年に新しいブランドとして、「二十一世紀の定食屋」をめざす、「居酒屋和民」を発足させている。冷凍食品を排し、手作り料理を提供。

◎高杉 良 『祖国へ、熱き心を』 講談社文庫、1992年  

◆敗戦後の日本の奮闘をアメリカに印象づけ、東京オリンピックの実現に奔走した日系実業家フレッド・和田 勇の活躍を描いたドキュメント・ノベル。

◎高杉 良 『組織に埋れず』 講談社、1996年

◆世界一のマンモス旅行社である日本交通公社(JTB)に勤務し、多くのアイディアと新製品の開発に尽力した、1949年生まれの丸山敏治が主人公。初出は、96年2月号から7月号に掲載された『小説現代』。

◎高杉 良 『その人事に異議あり』 講談社文庫,1993年

◆アパレル業界。下着メーカー「アモーレ」の広報ウーマン竹中麻希(32歳のバツイチ)が主人公。主人公の恋愛を軸にしつつ、下着メーカーの広報活動、広報ウーマンたちの仕事・生活ぶり、ファッションショーの舞台裏、息子(松岡浩太郎)に社長の座を譲りたいと思っている創業者社長の思惑と、その波紋などが描かれている。本書は、91年に集英社から刊行された『女性広報主任』を改題したもの。

◎高杉 良 『大合併 小説第一勧業銀行』 講談社文庫,1992年

◆銀行業界。1971年に成功した第一銀行(頭取井上 薫)と勧業銀行(頭取横田 郁)の合併劇を「実名」で描いている。大蔵省幹部とのつながり、それをスクープした日本経済新聞による発表(3月11日付けの朝刊)の舞台裏、合併発表後の具体的な詰めの作業、シンボルマークが「ハート」の形に決定されるまでの過程、合併後に「世界一」の銀行になるまでのプロセスなどについても、興味深く書かれている。初刊本は、89年に講談社から刊行。

◎高杉 良 『大逆転! 小説三菱・第一銀行合併』 講談社文庫、1983年 

◆銀行業界。1969年、『読売新聞』の元旦朝刊で、三菱銀行と第一銀行(明治6年に創設された日本で最古の銀行)の合併がスクープされた。しかし、これはわずか13日で幻に終わってしまう。本書の主人公は、第一銀行の常務であった島村道康である。彼は、合併を推進しよ うとする頭取に「たった一人の反乱」を試み、東亜ペイントに左遷されるが、それでも反対運動を止めようとはしなかった。

◎高杉 良 『対決』 集英社文庫、1985年 

◆石油化学業界。セントラル硝子がモデル。前中小企業庁長官の三田が、中央化学工業の社長として天下るところから物語は始まる。しかし、そこでは、逆らう者を簡単に左遷してしまうほどの絶大な権力を有した労組委員長の久保田による「恐怖政治」が行われていた。久保田の息のかかった重役たちは、新社長の追い落としにかかる。が、三田を援助し、会社正常化のために、一人の男が立ち上がった。主人公の人事課長代理小津である。彼を軸として、企業内帝王と戦う中間管理職の活躍が、浮き彫りにされている。

◎高杉 良 『大脱走(スピンアウト)』 角川文庫、1986年   

◆コンピュータ業界。1981年に、碓井 優を中心とする80名のシステム・エンジニア(SE)が、石川島播磨重工(IHI)を「脱藩」し、「コスモ・エイティ」を創設する話。ほとんどの登場人物が実名で描かれている。ちなみに、80人の集団脱走を最初にスクープしたのは、『サンデー毎日』 (1981年6月28日号)である。

◎高杉 良 『濁流』 上下巻、講談社文庫、1996年   

◆政財界のフィクサーを自認し、カネのためなら手段を選ばないという実在の経済誌主幹が主人公。どんな弱みを握られているのか、彼の主宰するパーティには、中曽根元総理をはじめとする政界のお歴々が出席する。財界人の多くも、批判的な記事を書かれないように、「センセイ」といって、彼を奉っている。哀れなまでにだらしのない、日本の経営者たちの姿が浮き彫りにされている。

◎高杉 良 『懲戒解雇』 講談社文庫、1985年 

◆化学業界。旧財閥系で、日本でも最大手の合成繊維メーカーに務めるあるエリートが、会社を私物化している常務に、にらまれた。その瞬間から、過去にまで溯って素行や交際費の使い方までチェックされ、懲戒免職にされかかる。主人公は、その理由を文章で提出させ、逆に、地位保全の仮処分を地裁に申請する。会社を相手取って訴えたわけである。本書は、「エリートの反乱」ということで、マスコミにも大きく取り上げられた実際の事件をモデルにして書かれている。

◎高杉 良 『挑戦 巨大外資』 上下巻、小学館、2007年

◆ 外資系企業にあっては、定年に至るまで同じ企業に勤務する社員はまれだとみなされている。ところが、三十年もの間、最高財務責任者(CFO)として君臨した男がいる。大手製薬・消費財メーカーであるワーナー・パーク社の日本法人CFO池田岑行(みねゆき)、本書の主人公である。彼のボスに当たるCEO(最高経営責任者)は、その間十人も交代している。にもかかわらず、池田自身は常に第一線で、財務戦略を立案・実行し続けた。「奇蹟のCFO」と称された所以である。かくも長きにわたって、池田が幹部社員として活躍できたのは、なぜか。また、2000年に、ワーナー・パーク社がライザー社に買収されるはめに陥ってしまうのは…。

◎高杉 良 『挑戦つきることなし』 徳間文庫、1997年

◆本書は、「クロネコヤマトの宅急便」の産みの親である小倉昌男をモデルにして、ヤマト運輸の歴史を描いたものである。初刊本は、95年に徳間書店から刊行。

◎高杉 良 『破滅への疾走』 集英社文庫、1992年

◆自動車業界。日産の、かつての労組委員長塩路一郎がモデル。この人物について、高杉は、すでに『労働貴族』を書いているが、真実に肉薄していないという理由で、改めて本書を書いたと言われている。同じ塩路をモデルにした小説に、清水一行の『偶像本部』がある。それらを読み比べて見るのもおもしろい。初刊本は、84年に徳間書店から刊行。

◎高杉 良 『バンダルの塔』 講談社文庫、1984年

◆石油化学業界。イランと日本の合弁会社(IJPC)によって、イランに石油化学コンビナートを建設するというプロジェクトが開始されたのは、1969年のことである。しかし、73年のオイル・ショックや79年のイスラム革命によるパーレビ体制の崩壊などにより、ほとんど95%まで出来上がっていたと言われたコンビナートの建設工事は中断され、結局破局に至る。初刊本は、81年に講談社から刊行。

◎高杉 良 『反乱する管理職』 講談社、2009年

◆生保業界。老舗の生保で、正義を貫いた人物の物語。「僕はゴマ摺りにはなりたくないね」。生保が破たんするまでの経緯と破たん後の再建のプロセスがよくわかる。また、老害経営者の弊害も描かれている。

◎杉 良 『腐蝕生保』 上下巻、新潮社、2006年

◆生保業界。生保の業務内容、最前線での仕事の実態、セールスレディの考え方、社員総代の実情などが記されている。主人公は、わが国最大手の生保会社である大日生命保険相互会社の中間管理職の地位にある吉原周平。97年、ニューヨーク駐在員の任務を解かれた彼は、法人営業本部国際法人部課長に就任。上野支社の江戸川支部長、東京本部総合企画部副部長を歴任。同社のトップになったのは、「自分の利益しか考えない人」。そんなトップに批判を繰り返す吉原の命運はいかに。決してトップの器とはいえない人物が社長になったとき、組織はどうなるのか! 「腐るほど逸材がいる」ように思われるにもかかわらず、実際にはしかるべき人材がいないという状況がよく描かれている。

◎高杉 良 『炎の経営者』 上下巻、講談社文庫、1989年

◆化学業界。「日本触媒化学工業」の社長八谷泰造をモデルにした実名小説。高度成長を推進した重要産業の一つと言われている化学工業であるが、当初、その将来性を明確に位置づける者はほとんどいなかった。たった一人で、大阪の場末にあたる桃谷の裏長屋にある小さな研究室で硫酸触媒の研究に取り組んだことから始まる。アメリカの技術に依存しない「国産技術」に立脚した、当時としてはまさに「夢」としか考えられていなかった近代的石油化学工場へと発展を遂げた、日本触媒化学工業の戦後史が扱われている。こでも、高杉に特有の社業に全生命を賭けた「男のロマン」が描かれている。

◎高杉 良 『燃ゆるとき』 新潮文庫、1993年 

◆水産加工業界。「東洋水産」の社長森 和夫をモデルにした実名小説。同社は、1953年に築地魚市場の片隅に建てられた六坪の掘っ建て小屋と、五人の従業員から出発する。マグロの輸出業務から、やがて魚肉ハムとソーセージ、さらには「マルちゃん カップうどんきつね」に代 表されるような即席麺の製造(食品加工業)に着手。水産加工業界トップメーカーの一つに成長していくプロセスが理解できる。初刊本は、90年に実業之日本社から刊行。

◎杉 良 『勇気凛々』 角川書店、1998年

◆料理店「天平」の跡とり息子であった主人公の武田光司は、文華放送で局随一の営業マンとして活躍する。ところが、電波ジャーナリズムは底が浅いと思った彼は、4年後、辞表を出して、トイレ洗剤メーカーのサンポールに移り、自転車の輸入と販売に手を染める。自転車屋を1軒1軒相手にするよりも、効率的ということで、スーパー、特にイトーヨーカ堂との取り引きが始まる。昭和47年に独立し、ホダカ物産を設立。1年後に、自転車の組立工場兼配送センターを設置。メーカーの藤原自転車と業務提携し、販路はもっぱらイトーヨーカ堂頼みであった。イトーヨーカ堂の成長と共に、会社も成長。バブルを乗り切ったホダカ(越谷市)は、92年に創立20周年を迎えた。

◎高杉 良 『欲望産業』 上下巻、徳間文庫、1987年   

◆消費者金融業界。いわゆるサラ金業界の実態が描かれている。大手都市銀行のほとんどはこれまで庶民を相手にせず、いわば「銀行の怠慢」によって、今日の消費者金融が成り立っている。その領域で「徒花」を咲かせたのが、サラ金である。本書は、大手都銀の頭取候補と目されたが、サラ金大手の富福に副社長として舞い下りてくる大宮を主人公にしている。公私混同が著しい社長の下で、彼は体質改善をめざそうとするが、それは絶望的な試みであった。原題は、84年に徳間書店から刊行された『逆襲するエリート銀行家』。

◎杉 良 『乱気流 小説・巨大経済新聞』 上下巻、講談社、2004年

◆発行部数300万部を誇る巨大経済新聞社の「経済産業新聞」が舞台。リクルート事件が露見した88年から03年に至るまでの時期を視野に、幾つかの経済事件(リクエスト事件、イトセン事件などの名前で登場する)・ニュースの報道の裏側を大手経済新聞の記者の目を通して描写した作品。バブル崩壊後に発覚した証券会社の損失補てん問題に関するスクープの裏事情をはじめ、新聞社の内部事情、新聞記者の心情、「私の経歴書」にまつわる話、子会社の「経産ビジネス」との関係、内部告発者の告発話などがよくわかる。初出は、『週刊現代』2003年4月19日号〜04年10月30日号での連載。

◎高杉 良 『労働貴族』 講談社文庫、1986年

◆自動車業界。日産のガンと言われた労組の委員長「塩路一郎」をモデルにした実名小説。彼は、日産の関連会社を含めた23万人の従業員の頂点に立つと同時に、自動車会社を網羅する自動車総連の会長を務めた人物である。自分にたてついた人物を簡単に左遷し、銀座のクラブでは労使担当重役に直立不動で出迎えさせる、と言われるほどの権力を有する。「塩路天皇」と称されたこの一人の「労働貴族」のために、会社の経営がいかに歪められたのか。初刊本は、84年に講談社から刊行。

※たかとう かずお※

◎高任和夫 『エンデの島』 光文社、2007年

◆「奥ノ霧島」という架空の島で展開されている経済・社会のシステムに、日本の理想的未来像をダブらせて物語を作り上げている。ちょっと不思議な経済小説。「非良心的な行動が褒美を受け、良心的な仕事をすると経済的に破滅するのが今の経済システム」というミヒャエル・エンデの言葉がモチーフになっている。主人公は、57歳の作家・門倉。出版社から依頼されたインタビューもしくは紀行文の執筆のため、かつては流人の島であった奥ノ霧島に出かけ、そこで発見した世界に大いなる関心を引き寄せられる。「島にないもの」は、大型スーパー、内地資本のホテル。「あるもの」は、若者の入植者、地域通貨、芸術家を目指す若者の宿泊所、島民ファンドによる無利子融資、自給自足の生活、地熱発電、温泉スタンド、島のグランド・デザイン…。

◎高任和夫 『架空取引』 講談社、1997年

◆扶桑銀行小会社のノンバンクである扶桑総合リースは、他のリース会社と同様バブル期のあたりから、本業のリース業そっちのけで、銀行と遜色のない金融業そのものに変貌していた。しかし、バブルがはじけると、30兆とも40兆とも言われる不良債権がノンバンク業界に重くのしかかった。扶桑総合リースも同じようなものであったが、かなりの程度営業の重心はリース業に移されていた。とはいえ、過当競争によるリース料のダンピングがひどく、業績が芳しいとは言えなかった。そうした折り、8年前の架空取引の責任を押しつけられ、懲罰的な人事で地方勤務を余儀なくされた主人公の甲斐が、本社の審査部長として呼び戻されたところから物語が始まる。

◎高任和夫 『過労病棟』 講談社文庫、1995年

◆銀行。過労、ストレス、過飲からくる「マロリー・ワイス症候群」にかかって吐血し、入院することになったエリートの銀行支店長。彼が経験する入院生活の状況、それまでの人生に対する回顧、病院内で感じたさまざまな心情・空虚感が描かれている。初刊本は、1992年に講談社から刊行。

◎高任和夫 『起業前夜』 講談社文庫 上下巻、2005年

◆有能で、私心がなく、部下からの信頼感も厚い主人公の猪狩雄二。と同時に、「いつも得体のしれない閉塞感にとらわれている。出口がないと日々感じている。この作品は、彼が独立を決意するまでのドラマが展開される。実際には、深刻な事態が発生しているのに、「みな、みてみぬふりをしているのだ」。猪狩は、会長に直訴し、改革案を提示するものの、待っていたのは、山形支店への「左遷」の通告であった。

◎高任和夫 『銀行検査部25時』 講談社文庫、1994年

◆銀行。本書によれば、検査役とは、「支店長やそれに準ずるポストを経験したものの、上に上がり損ねた人たちの居留地」で、いわばほどよい「上がり」の地位と評されている。銀行内部の不正を摘発するのも、検査役の仕事である。本書を通して、検査部の業務内容を垣間見ることができるが、どちらかと言うと、40歳代のサラリーマンの心情を描き出した作品として読んだ方が、作品の意味をよく理解できるように思う。初刊本は、90年に講談社から刊行。

◎高任和夫 『告発倒産』 講談社文庫、2003年

◆1年前に大手百貨店である伍代デパートの総務部長になった倉橋信彦(47歳)は、ごく普通のサラリーマン。趣味と言えるものはないが、真面目で、人が嫌がる裏方の仕事もこなす人物だ。ところが、総会屋に対する利益供与罪で逮捕。しかし、会社は、責任を担当者である倉橋たちに押し付けてしまう。だが、倉橋の亡き妻の十歳年下の妹との事実の解明と復讐劇が開始する。会社の行き着くところは、スキャンダルの発覚⇒倒産であった。

◎高任和夫 『債権奪還』 講談社、2004年

◆債権奪還というタイトルに示されるように、主人公が知り合いの債権を奪還する話が登場する。2億円の債権を第三者が5500万円で銀行から購入し、元の所有者に6500万円で売却する。元の所有者は今まで通り、ビルを使えるという形で。しかし、どちらかというと、早期退職に応じ、酒びたりの毎日を送っていた50代半ばの元・銀行マン藤倉が生きがいを見出していくプロセスが主に描かれている。

◎高任和夫 『商社審査部25時 知られざる戦士たち』 徳間文庫、1990年

◆総合商社。総合商社の審査部という、地味ではあるが、重要なセクションに勤務する男たちの活躍を通じて、商社の活動の一端を見事に描き出している。初刊本は、85年に商事法務研究会から刊行された。彼の処女作である。

◎高任和夫 『敗者復活戦』 講談社、2008年

◆老朽化した同じ大型団地に住み、テニスのサークルに属している三名の男が、それぞれの「敗者復活戦」に挑む。その三人とは、@3億円の負債を残して失踪した「親友」を探す監査部部長補佐の商社マン・彦坂祐介、A退職後に暇をもてあまし、人間に絶望し、酒びたりの日々を過ごし、アルコール依存症と診断される元エリート銀行員・雨宮英夫、B食品会社に勤め、定年後に2年ほど運転手をやり、いまは趣味を中心に毎日を謳歌し、300万円で100日間世界一周の航海に出る自由人の河合健太。はたして、かれらが見出した敗者復活戦の中身とは、どのようなものになるのか?

◎高任和夫 『粉飾決算』 講談社文庫、2002年

◆総合商社が舞台。法務部から関連企業部に左遷された主人公の芦田慎ニは、専務の鬼沢から与えられた社命を全うするなかで、不良債権にからむ企業悪とたちむかい、自分自身の行き方を見つめなおしていく。関連子会社にはびこる腐敗、暴力団相手の不良債権の回収、不動産投資に絡んだ商社と裏社会の黒い結びつきなどが、浮き彫りにされている。「一つの会社や一つの部署にしがみつかない新しい生き方」とはなにかが、問い掛けられている。初刊本は、1999年に講談社から刊行された『密命』。

◎高任和夫 『燃える氷』 上下巻、講談社文庫、2006年

◆次世代エネルギーとして注目をあびるメタンハイグレード。そのテーマに切り込んだ作品が本書である。さて、 メタンハイドレートとは、なにか? 炭素原子1個と水素元素4個から成るメタンを主成分とする天然ガスともいえる。海底堆積物のなかの有機物、つまり生物の遺骸などを、微生物が分解することによって生成されたメタンが、水と結合して固体の結晶となったものがメタンハイドレートである。換言すれば、「メタンを内包した氷、もっと刺激的な言い方をすると、「燃える氷」となる。陸地では永久凍土の地域、海なら深海という「高圧低温の場所」にしか存在していない。

※たかどの まどか※

◎高殿 円 『トッカン−特別国税徴収官』 早川書房、2010年

◆税金と税務署と特別国税徴収官(略してトッカン)のことがとてもよくわかる本。納める側と納めさせる側、双方の苦悩や心理の動き。東京国税局京橋地区税務署に所属する新米徴収官・鈴宮深樹(通称ぐー子)は、冷血無比なトッカン・鏡 雅愛の補佐として、滞納者の取り立てに奔走する。

※たかむら かおる※

◎高村 薫 『レディ・ジョーカー』 上下巻、毎日新聞社、1997年

◆企業に対する商品攻撃=企業テロ、身代金の要求、株価を操作してひと儲けするという話が複雑に絡んで物語が展開していく。5人の男たちが構成する犯行グループのターゲットは、一兆円企業・日之出麦酒。名前はレディ・ジョーカー。「人質は350万キロリットルのビール」人質もないまま、まさかの現金奪取を強行しようとする犯行グループの意図とはなにか? そして、どのようにしてお金をむしりとるのか?

※たきざわ あたる※

◎瀧澤 中 『日はまた昇る 「フクザワ」の構造改革』 ぶんか社、2002年

◆混迷の日本経済を大改革するため、福沢諭吉が現在の日本に復活したらという、大人の寓話。与党の新人二世議員である花房太郎の前に、ある日、福沢諭吉の「幽霊」が現れ、「どうなっておるんだ。いまの日本は!」と叱りつける。花房は、国と地方の税収が約80兆円しかないのに、借金が約7000兆円に達することなど、国のフトコロ具合やバブル崩壊などを福沢に説明。そこで、福沢は、ムダを作っている「仕組み」を変えること、つまり構造改革を提起する。その骨子は、国や他人に頼らないこと、「独立自尊」の精神であった。中身は、「当たり前のことを言い、当たり前のことを行う」、そして、国民を信じようといった点に尽きた。このようにして、福沢と花房の二人三脚による構造改革がスタートする・・・。20年後に総理になっている花房のもとで、日本の未来像が、最後に描き出されている。

※たきざわ りゅうたろう※

◎滝沢隆太郎 『内部告発者』 ダイヤモンド社、2004年

◆最近よく話題になるのが、内部告発である。正義のために内部告発をするものの、秩序を乱す行為としてしか見られない日本社会の現実。しかし、内部告発によってしか変えられないという企業社会のもう一つの現実が浮き彫りにされている。2003年に五大グループへの再編を終えた損保業界が舞台。ある経済誌が、中堅損保(業界第6位)の渋谷火災の闇金融に対する不正融資を暴露する。社内中枢からの内部告発と感じ取ったワンマン会長は、前副社長の沖田希一に対して損害賠償請求を起こす。経済誌の記者に面会し、ほんの少し会社の内部事情を洩らしたことで、後ろめたい気持ちを感じていた沖田は、新米の若い弁護士羽根田潤とともに渋谷火災との裁判闘争に挑む。役員服務規則には、退職後の守秘義務が定められ、誓約書にサインをしていたことで、沖田は、当初不利な状況におかれたが、最後には、大きなどんでん返しが用意されている。損保業界の仕組みや最近の外的環境、裁判の仕組みなどがよくわかる。第1回ダイヤモンド経済小説大賞受賞作。

※たけうち けんれい、あおき としゆき※

◎竹内謙礼、青木寿幸 『会計天国』 PHP研究所、2009年

◆会社で使える会計のノウハウをユーモアなタッチの小説に仕立て、わかりやすく読者に説明している。経営コンサルタントによる経済小説。経営コンサルタントの北条健一は、自動車事故で死亡。天国の入り口で、天使のKに出会い、三角クジをひかされ、残念賞となる。その中身とは、「現世への復活チャンス券」。人生を踏み外しそうな5人に対し、1時間以内で適切なアドバイスを行って5人すべてを幸せにするという課題をクリアできれば天国。アドバイスは、彼の得意分野である会計に関するものが中心になるという設定だ。

◎竹内謙礼、青木寿幸 『投資ミサイル』 PHP研究所、2010年

◆企業の活性化と再生がテーマ。会社で役に立つ事業計画書の作り方や事業とお金に関する知識が学べる本。紙袋とビニール袋がメイン商品であるため、エコバックの普及もあって、売れ行きが落ち込み、大いに危機的な状況に陥っているホリデイ産業。メインバンクが同社に送り込んだのは、なんとロボットの取締役。ロボットの上司の理詰めの指導によって、新規事業を担当する課長の道明(どうみょう)美穂(30歳)は、V字回復への突破口を探っていく。

※たていし かつのり※

◎立石勝規 『国税局調査部 脱税を追え!』 徳間文庫、1994年

◆1年間に摘発される税金のがれは、件数で百万件、金額では2兆円に及んでいる。脱税には、二重帳簿、ニセ領収書、架空名義などさまざまな手口があるが、元国税局担当記者の手による本書は、そうした脱税の実態、それを追求する税務調査官、事件を追いかける国税庁クラブの記者たちのそれぞれの人間模様を描いている。初刊本は、89年にかんき出版から刊行。

※たなか しんじ※

◎田中伸治 『会社再生ガール』 青月社、2010年

◆企業再生コンサルティントによるビジネス小説。旅館の乗っ取りとそれに対抗するコンサルティング会社との攻防劇。過剰な債務に苦しむ老舗旅館の山本屋。しのびよる整理屋の魔の手。山本屋の後継ぎ息子・山本義清の大学時代の先輩で企業再生プランナーの相馬明日美が立ち上がる。「第二会社方式」を活用して会社を再生させるという実践的スキームとは、どのようなものか?

※たなか ふみお※

◎田中文雄 『クローン人間』 廣済堂文庫、1997年

◆近年における遺伝子工学の進歩にはめざましいものがある。遺伝子工学が進歩すれば、ガンの治療薬ができたり、植物が品種改良され砂漠を緑に変えたり、工場廃液を食べるバクテリアが開発されたりといった具合に、人類の将来にとって大きな福音となる可能性が指摘されている。しかしながら、クローン人間という得体の知れない未知の生物が生まれるという危険性もはらんでいる。すでに哺乳類のクローンが作られ、次はクローン人間の誕生か、とさえささやかれるようになっている。この作品は、クローン人間を作り出そうとしたある医師と、彼を取り巻く事情を描いた近未来小説である。

 ※たに かつじ※

◎谷 克二 『国際金市場を封鎖せよ』 徳間文庫、1994年

◆1986年10月にアイスランドのレイキャビックで行われた米ソ首脳会談では、両国の核兵器全廃が合意されることが期待されていたが、物別れに終わった。一ヶ月後、79年にソビエトが軍事介入を開始したアフガニスタンで、ソ連軍と反政府ゲリラとの間で、激しい戦闘があった。とりあえず、ソ連軍の侵攻を抑えたものの、武器の在庫は枯渇していた。そこで、ゲリラの指導者がスイスに行き、イラン経由で熱戦ミサイルをはじめとする武器を購入することになった。アフガンを舞台にして複雑な国際情勢を描いた国際小説である。原題は、87年に徳間書店から刊行された『双頭の鷲のごとく』。

※たはら そういちろう※

◎田原総一朗 『小説テレビディレクター』 講談社文庫、1982年

◆テレビ業界。TVドキュメンタリーのスタッフの活動を通して、彼らの困難・挫折を描くドキュメンタリー・ノベル。彼自身もかつては東京12チャンネル(現在のテレビ東京)のディレクターであった。

◎田原総一朗 『電通』 朝日新聞社、1984年  

◆広告業界。広告会社およびイベント・プロデューサーという二つの顔を持つ電通の全体像を浮き彫りにしたルポルタージュ。

※ちよだ けいし※

◎千代田圭之 『ゲノムの反乱』 徳間文庫、2000年

◆遺伝子組み換え技術の発展という現状をふまえて、「造物主を恐れぬ不遜で浅はかな人間が、遺伝子操作という禁断の地に足を踏み入れ、いま自然から復讐されている」という実態を、2007年という近未来の状況のなかで描き出した作品。なお、著者の千代田は、47年生まれの現役のジャーナリスト。デビュー作は、環境汚染問題に真っ正面から切り込んだ「パニック小説」という趣をそなえたサスペンス作品でもある『暴発の臨界』(徳間書店、1999年)。

◎千代田圭之 『爆発の臨界』 徳間書店、1999年

◆環境問題をテーマにした経済小説を書いている千代田のデビュー作。気象予報で紫外線情報が流される、2005年を舞台にした近未来小説。地球環境を守ろうとする努力と、企業の利潤のためにそれを葬り去ろうとする勢力との対決を描くなかで、多くの環境問題にも言及している。

※ちよだ てつお※

◎千代田哲雄 『生餌(いきえ)』 ダイヤモンド社、2004年

◆新規契約の減少と逆ザヤで苦境に陥っている業界最下位の豊和生命保険。同社に対し、元官僚が代表を務めるという「ピュア・ファンド」から支援の手が差し伸べられた。ところが、それを契機に怪しげなファンドへの投資を余儀なくされる。会社が食い物にされていくことへの懸念が高まるなか、、ピュア・ファンドの重鎮から、そして最後には信頼していた直属の上司からも「要注意人物」というレッテルを貼られてしまう主人公の経営企画室次長の野島康志は、ある決断をする。経済小説に新境地を見出し、01年に千代田圭之から本名である千代田哲雄での執筆に転じた。

◎千代田哲雄 『小説 国民収奪税』 祥伝社、2005年

◆社債を発行するには、金融庁が世界で指定した「指定格付け機関」8社のうち、2社以上の格付け機関から格付けを得ることが義務付けられている。主人公の梅木達也は、格付け会社のプロスペクトの主席アナリスト。「正しいと思ったことは、たとえ圧力がかかっても曲げずに貫け」が信条である。しかし、プロスペクトで情報漏れが発覚。発表前に格付け情報を知ることができれば、株で大もうけをすることも可能であった。真相を究明する梅木は、その事件の裏に「新税(財産税)の導入」に絡む大きな陰謀が隠れていることを発見したと思ったのであるが…。

◎千代田哲雄 『破局の舞』 ダイヤモンド社、2005年

◆日本有数の企業グループ・邦和が総力をあげて推進する巨大な国際プロジェクト。リスク管理の面からその企画をサポートするのが、同グループ内の危機管理会社であるセーフティ・ホーワのリスク対策部チーフアドバイザー飯沼義明(元警視庁捜査二課の警部)。本書の主人公である。為替市場で日本売りを画策するなど、邦和グループのプロジェクトのみならず日本そのものに打撃を加えようとする国際財閥・テーラー一族。両者の間で繰り広げられる息詰まる攻防劇がこの本のメインストーリーである。

※つじい たかし※

◎辻井 喬 『いつもと同じ春』 新潮文庫、1983年

◆百貨店業界。辻井喬とは、西武セゾングループの代表である堤清二のペンネームである。ただし、本の中では、西武百貨店のことはあまり出てこない。話の中心となるのは、百貨店の社長である彼の私生活と心の動き、創業者である父への感情とその思い出、妹・その元の夫(父の会社の経理担当の常務から転身して、保守政党の代議士となる)やその家族に対する感情などである。

※つもと よう※

◎津本 陽 『最後の相場師』 角川文庫、1988年

◆是川銀蔵をモデルにして、時代小説作家として知られている津本が書いた経済小説。読者は、株式投資の醍醐味をこころゆくまで楽しむことができるだろう。原題は、83年に日本経済新聞社から刊行された『裏に道あり 「相場師」平蔵が行く』。

◎津本 陽 『地獄への階段』 光文社文庫、1988年

◆実際に起こった取り込み詐欺事件を主題にして、当事者たちのこころの動きを描いた作品。不動産詐欺にひっかかり相互銀行の貸付主任をクビになった神野泉(35歳)と、取り込み詐欺の責任を取らされて大手電機の営業係長の職を棒に振った菱田隆三(34歳)。ともに、詐欺にひっかかった二人が、土地ブームの波に乗って社業を発展させる世界不動産で遭遇。今度は独立して、電気関係のバッタ屋(倒産見切り商品などを安く買い込んで現金客相手に売りさばく)の稼業を土台にし、やがては、自分たちが詐欺師になっていく…。めざすは、取り込み詐欺の完全犯罪!

◎津本 陽 『真紅のセラティア』 中央公論社、1981年

◆元和歌山大学学長の香山時彦(作品のなかでは、浅山和彦として登場する)による制癌剤KCGの開発をモデルにした物語。著者がこの作品を書いたのは、「KCGというすぐれた制癌剤が、世間から不当な待遇をうけ、無視され埋もれてしまった経緯を世間の大勢の人々に知ってもらいたいという願いに押され」たためである。

◎津本 陽 『土地狂騒曲』 角川文庫、1993年

◆高度成長期における土地の売買、未だ「明晰なビジネス社会とは対蹠的といっていい混沌」とした不動産業を扱った作品。「昭和27、8年頃までは銀行の担保物件としても最低位に置かれていた土地」の価格が面白いほどに、まるで「夢」を見ているように高騰していく様子がよく描かれている。

◎津本 陽 『不況もまた良し』 幻冬社、2000年

◆「経営の神様」という異名を持つ松下電器元会長、松下幸之助の生涯を描いた伝記小説。本書の中に散りばめられた印象的な言葉とは?まず、「なぜ出世したんやろ」という問いかけに対して、「いつのまにか、こうなったんや」と。「どんなぐあいにうまくやって成功したんや」に対して、「あたりまえのことをやってきただけや」と答える幸之助。「良い品は、値打ちが分かってもらえれば、きっと買い手があらわれる」といった信念。業界の通念にとらわれない発想。問題に直面したら、「いままでとはちがう角度から、問題を見直してみるしかない。そうしたら、いままで思いつかなかった新しい見方がひらける」。「成功とは、成功するまで続けることだ」。原題は、『サンケイスポーツ』1999年11月1日から2000年5月31日に掲載された『不景気また良し 松下幸之助伝』。

※てるま かずし※

◎照馬和志 『ボス、在庫が大変です!』 碧天舎、2002年

◆大手電子機器製造会社のコンピュータ周辺機器専業の子会社「SSIテクノ」のマレーシア工場が舞台。そこへ単身赴任した主人公の加山邦彦・海外生産統括課長(39歳)の奮闘ぶりが描かれている。生産現場を改善させるための具体策として、参考になるだろう。1995年頃までアジアの戦略拠点である、シンガポールにある事務所によって管理されていた。しかし、現地工場での過剰在庫体質を是正するため、部品の調達をマレーシア国内で行い、生産も在庫管理もマレーシア工場の自社工場に集中させようにする。だが・・・。

※とくまる そうや※

◎徳丸壮也 『小説デミング賞 己の尊厳をかけて甦れ』 東洋経済新報社、2001年

◆日本的経営という会社組織の実情、「本来の品質管理のためではなく、全社一丸の管理経営を推進するための手段として導入された」全社的品質管理(TQC)の実態(デミング賞はその目標にされた。それが「自己の存在を組織の中に埋没させて、残業に文句も言わず黙々と仕事に励む」滅私奉公の精神を産み落とし続けてきた)。自動車会社に勤務し、日本的経営という組織の圧政と闘い、勝利を収めた南原志郎という主人公を通して、このTQCの呪縛から脱却するための道筋が描かれている。脱却の原点とは、自分自身が人間としての尊厳を取り戻すことであった。