な行

※ながい するみ※

◎永井するみ  『ミレニアム』 双葉社、1999年

◆2000年1月1日コンピュータ・システムに致命的な障害が発生する可能性を最初に指摘したのは、アメリカの有力なコンピュータ雑誌である『コンピュータ・ワールド』の93年9月6日号に掲載された「最後の審判の日」という記事である。この2000年問題への対処という時代状況のなか、業界最大手のソフトハウスであるエターナル・ソフトハウス社に勤務する32歳のヒロイン・真野馨が、上司を殺害した犯人像に迫る。

※ながおか てつお※

◎長岡哲生 『極秘資金』 講談社、2008年

◆巨大企業にのみ、国から特別に付与されるという「超巨額資金」(基幹産業特別資金)をめぐる物語。「嘘のような本当のような変な話」! 果たして、詐欺なのか、それとも本当の融資なのか? 元雑誌編集者で、経営コンサルタントの著者のデビュー作

※なかがわ かずお※

◎中川一夫 『電波乗っ取り』 日本経済新聞社、1979年

◆「日本の放送局を買いたい。方法はあるかい?」。ある日、東京産業新聞の記者である白石重次郎は、かつてハーバード・ビジネス・スクールで一緒に学んだロバート・アイゼンバーグからそのような申し出を受けた。ところが、日本の電波法では、無線局の免許が与えられるのは日本国籍を持つ者に限定されている。そこで、考え出したのが、間接支配。瀬戸内の地方都市に君臨する山科一族による新聞(高姫新聞)・放送系 の大企業グループ=情報コンマグリット。そこに介入しようと、アメリカの金融資本の魔の手が伸びる。第1回日経・経済小説懸賞募集入賞作。

※なかぞの えいすけ※

◎中薗英助 『小説円投機』 講談社文庫、1983年

◆銀行。国際スパイ小説のベテランである著者が、銀行の国際業務を見事なタッチで描いている。古い歴史を有する為替銀行である東京銀行(旧横浜正金銀行)を想起させる大同銀行を舞台にして、1977年頃における円の為替相場の動向、国際金融の実務(スワップ、ユーロ・ダラーの発生)、その国際的な背景を浮き彫りにしている。初刊本は、80年に日本経済新聞社から刊行。

※ながた としや※

◎永田俊也 『県立コガネムシ高校野球部』 文藝春秋、2010年

◆異色の青春金満野球小説。年収40億円の財力にものを言わせて県立高校の弱小野球部の部長に就任した女性実業家の小金澤結子。甲子園出場という目標をかざして、大胆にお金を使ってチーム力を強化する結子のやり方にヘキヘキするものの、部員たちも徐々に勝利する喜びを知っていく。高校生に実社会の厳しさや人生で大事なことを伝えるという役割を果たしている作品でもある。

※なかむら やすひこ※

◎中村靖彦 『シカゴファイル2012』 日本放送出版協会、2009年

◆世界的な食糧争奪戦は、すでに始まっている。中国やインドをはじめとする新興国での需要の急増、気候の変動に伴う不作、投資ファンド(コモディティ・ファンド)の暗躍、バイオ燃料への転用などによって、食糧品の不足は、一時的な現象ではなく、構造的なものになりつつある。国民は、多少の不安を感じてはいるものの、まだ本当に心配している雰囲気は感じられない。食と農に関する2012年の予測図を描いた本書は、そうした現実に警鐘を鳴らすべく書かれた作品である。

※なつき しずこ※

◎夏樹静子 『家路の果て』 講談社文庫、1984年 

◆不動産業界。マイホームの夢と現実、業者の思惑、住宅ローンの落とし穴などについて述べられている。家探しの苦労、マンション建設に伴い生じる諸問題、住宅ローンのあれこれ、欠陥住宅などについての叙述もある。

◎夏樹静子 『遠い約束』 文春文庫、1980年  

◆生命保険業界。自分の死後に支払われるはずの保険契約、つまり「遠い幻の約束」とも言える生命保険にまつわる物語。「社会推理小説」と言われる本書の初刊本は、77年に文芸春秋から刊行されている。ちなみに、日本における一人当たりの平均生命保険加入金額および国民所得に対する保有契約高 の比率は、当時、世界一であった。

※なつぼり まさもと※

◎夏堀正元 『銀座化粧館』 日本経済新聞社、1976年

◆戦前を中心に、資生堂の歴史を実名でドキュメント風に描いた作品。

◎夏堀正元 『終身社長室』 徳間文庫、1984年

◆本書の主人公は、月居勘一(つきおりかんいち)。観光業界に新風を巻き起こした小川栄一をモデルにしている。彼は、水戸高校第一期生であり、安田信託銀行(本のなかでは東和銀行として登場)貸付課長として活躍したあと、実業家に転身、戦後藤田観光を興す。夏堀は、「一流であるがゆえに主流になれなかった人物とか、時代の主潮からドロップアウトしていきながら、そのことでかえって時代の核心を鋭く見抜いていたすぐれた人物を、好んで描いてきた」作家である。初刊本は、78年に光文社から刊行。

◎夏堀正元 『摩天楼―消えた商社』 光文社文庫、1986年

◆第二次オイル・ショック前後におけるさまざまな国際紛争や軍事的緊張の本質・背景、さらには国際石油戦略や石油それ自体に対する見方が、登場人物の言葉で語られている。1980年1月半ば、日本人としては数少ないプロのオイルマンに成長していた主人公の片倉雪彦(39歳)は、ニューヨークを拠点に、オリエンタル・オイルという名の小さな石油会社を動かしていた。同社は、米国オリエンタル興産が石油のトレーディングやスポット買い(当用買い)のために作った子会社である。いわば石油商戦の修羅場のようなその種の業務は、「大企業でぬくぬくと育った豚のような社員」ではとてもじゃないけど、対処できないのである!

◎夏堀正元 『龍を見た』 徳間文庫、1986年

◆カメラから時計、そして現在ではコピー機の名で知られている会社に、理研化学、リコーがある。本書は、リコーの創業者であり、高度成長期に財界の鬼才と注目された市村 清をモデルにした作品である。銀座の一角にある円筒形ガラス張り三愛ビルをつくった人物でもある。市村は、作品のなかでは三村精作として登場する。彼もまた、著者の夏堀が好んで描く一流半の男の哀しみを滲ませている。初刊本は、77年に光文社から刊行。

※なんば としぞう※

◎難波利三 『小説吉本興業』 文春文庫、1991年

◆演芸界。上方の演芸、日本の大衆芸能とともに歩んできた吉本興業の歴史が描かれた作品。とりわけ、華々しい戦前の吉本の活躍ぶりにも、多くのページが割かれている。エンタツとアチャコに始まる漫才が、日本の人々にどれほどの笑いをもたらしたのかについては、計り知れないものがあるが、その仕掛け人こそが吉本興業なのである。本書は、吉本の歴史を、創業者の吉本吉兵衛の妻となるせいの弟である林正之助の生涯を軸にして描いている。

※にれ しゅうへい※

◎楡 周平 『異端の大義』 上下巻、毎日新聞社、2006年

◆同族企業の危機と再生を扱った作品。数奇な運命に翻弄される主人公は、巨大な総合家電メーカーの東洋電器産業に勤務する高見龍平。エリート社員でありながらも、上司への直言で恨みを買うハメに陥る。しかし、左遷やいじめにもめげず、やがて危機に陥った東洋電器の救世主として活躍する。

◎楡 周平 『ガリバー・パニック』 講談社文庫、2001年

◆九十九里の海岸に身長百メートルの巨人(土木作業員の上田虎之助)が突如として出現したことで引き起こされた騒動の全貌がコミカルなタッチで描かれている。非日常的な巨人の出現を通して、現実社会の歪みや問題性を浮き彫りにした「風刺コメディ小説」である。と同時に、虎之助がビジネスの道具として使われることによる経済的効果にも言及。初刊本は、1998年に講談社から刊行。

◎楡 周平 『再生巨流』 新潮社、2005年

◆運輸会社。企業再生・活性化・起死回生に必要な条件とはなにかを考えさせてくれる。業界一位の巨大運輸会社である、スバル運輸東京本社内に新設された、新規事業開発部部長に就任した吉野公啓が主人公。それまでにも、数々の新風を巻き起こし、同社の活性化に貢献してきた。が、部下など、自分の手足となって働く道具ぐらいにしか思っていなかったこともあって、会社での評判は芳しいものではなかった。人材を育てず、自分の夢だけを追いかけてきたのである。今回の異動は、「ダメ社員」の営業マンとアシスタントを含め総勢3名の弱小部署。そこで年間4億円を売り上げろという。これは、体のいい左遷人事ではないか。吉野は、保身に走る上司に囲まれつつも、君臨する社主を味方に引き入れ、大胆な「ビジネスモデル」を提起し、死に物狂いで邁進する。

◎楡 周平 『フェイク』 角川文庫、2004年

◆銀座の高級クラブの裏側を扱った作品。主人公の岩崎陽一は、高級クラブの新米ボーイ。低賃金で長時間労働を余儀なくされていた彼に、雇われマダムの上条摩耶が「おいしい話」(?)を持ちかける…。「暴力的な手段を用いず、知能を使って大金をせしめようという詐欺師・ペテン師など小悪党が織りなす、化かし合い、だまし合いを描いたコン・ゲーム小説」である。また、真面目ではあるが、情けない青年=ダメ男の成長物語ともいえる。

◎楡 周平 『プラチナタウン』 祥伝社、2008年

◆財政破綻寸前の田舎町の町長に就任した元商社マンが、「逆転の発想」で町の再生に挑む。「お願いだ。鉄ちゃん、あんだ、町長さなってけねえべが」「ちょうちょうだあ! この俺が?」 商社マンとして多忙な生活をしている主人公の山崎哲郎は、中学時代の同級生のクマケンこと熊沢健二に、宮城県の故郷・緑原町の町長になってくれと懇願され、そこから始まる起死回生の再生ドラマを演じることに。

◎楡 周平 『ラスト・ワンマイル』 新潮社、2006年

◆運送業。暁星運輸という主に小口宅配をメインとする運送会社に勤務する横沢哲夫。上司の寺島正明部長と一緒に、全国に8000店舗を展開しているコンビニチェーンの本部を訪れると、いきなり従来の独占的取り扱い契約の見直しを提案される。さらに、最大手のコンビニチェーンからも同様の申し出がなされる。しかも、併売の相手は、価格競争力で同社を凌ぐ郵政だという。加えて、ネット上でショッピングモールを運営している「蚤の市」からは、大幅な値下げの要求がなされる。暁星運輸は、存亡の危機に陥ったのである。それを克服できる切り札とはなにか?

※のざわ ひさし※

◎野沢 尚 『破線のマリス』 講談社、1997年

◆首都テレビ(MBC)プライムタイムの報道番組『ナイン・トゥ・テン』の特集コーナー「事件検証」を担当するのは、遠藤瑤子。この作品でヒロインを演じる、有能なビデオ編集ウーマンである。テレビ画面は525本の横線(正確には破線)で構成され、タイトルの意味はテレビ画像に示されたマリス(悪意、犯意)ということになる。第43回江戸川乱歩賞受賞作。井坂 聡監督により映画化。

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