か行

※かいのしょう まさあき※

◎甲斐莊正晃 『女子高生チエのMBA日記』 プレジデント社、2010年

◆『女子高生チエの社長日記』の続編。女子高生の社長ということで、マスコミに注目されるようになったちえ。経営の勉強をするために、ビジネススクールの聴講生になる。そして、少しずつ経営の知識を身につけていく。ケーススタディで、ちえが社長を務めている山本産業の事例が取り上げられることも。ところが、会社で発生した大トラブルで、会社・山本産業は崩壊の危機に直面。はたして、その帰結は?

※かじ まさかず※

◎加治将一 『借金狩り』 新潮社、2005年

◆「多重債務者500万人、政府はなにも手を打とうとしない!」。作家の岸谷真司に、1760万円の印税を差し押さえるという東京地裁の命令が通告される。最近出した『借金消滅』と『借金狩り』という二冊の借金問題の本が結構売れていたのである。しかし、いったい、誰がなぜ? やがて、借金問題の相談相手に罠を仕掛け、食い物にしていくワル=悪徳業者の実態が浮かび上がってくる。

※かじやま としゆき※

◎梶山季之 『黒の試走車』 角川文庫、1973年

◆自動車業界。モータリゼーションが本格化する以前の、新車開発をめぐるライバル社同士のしのぎを削る攻略劇と暗躍が、産業スパイを軸にして描かれた作品である。梶山の「出世作」でもある本書が書かれたのは、1957−58年の「週刊誌ブーム」の折りに、いわゆる「トップ屋」として最も活躍していた時期のことである。初刊本は、61年に光文社から刊行。

◎梶山季之 『小説GHQ』 集英社文庫、1981年

◆終戦直後の闇に包まれたGHQの内部のみならず、当時の時代状況、人々の生活ぶりなどを見事なタッチで浮き彫りにした力作。戦後直後の日本の社会・経済を知るための格好のテキストになるだろう。初刊本は、76年に光文社から刊行。

◎梶山季之 『罠のある季節』 文春文庫、1977年

◆製薬業界。ある製薬会社が行う、アメリカ式のタンポン型生理用品の開発・販売を軸に、それをめぐって展開されるメーカー、媒体、広告代理店間の駆引きが描かれている。

※かずみ きわむ※

◎香住 究 『連鎖破綻 ダブルギアリング』 ダイヤモンド社、2003年

◆生保業界を舞台にした壮絶なドラマ。03年3月、株価は8000円台で低迷する。逆ザヤ・資産暴落・乱脈経営などがたたって危機に瀕していた大手生保・清和生命会社は、損保最大手の東和海上火災との統合に失敗。業界第二位の第丸生命との縁組、外資系投資銀行ゴールド・マックスへの救済先の依頼計画が極秘に進んでいたとはいえ、座して死を待つしかない状態に陥っていた。もし清和生命が倒れたら、りそあホールディングスやみずきフィナンシャルグループも崖っぷちまで追い詰められてしまう。生保と銀行の「連鎖破綻」である。そのような状況下で、高村怜一郎社長の密名を受けた社長室次長の各務裕之は、最後の賭けに出る。厚生特例法という生保独自の破綻処理も、視野に入れられていた。元大手生命保険会社課長と元大手新聞記者による共著。

※かつら のぞみ※

◎桂 望実 『県庁の星』 小学館、2005年

◆役人根性全開の、ある県庁のエリート・野村聡が、「Y県職員人事交流研修者」として田舎のスーパーに1年間の研修に派遣される。当初は、「1年間我慢しよう」ということだけ。野村の教育担当は、離婚暦のある一児の母・二宮泰子。「マニュアルも組織図のない」スーパー。事実上動かしている「裏店長」は、パートのおばさんにすぎない二宮その人であった。何でも杓子定規に考える傾向の強い野村は、スタッフからは「県庁さん」と呼ばれ、いいかげんにあしらわれていた。ところが、「スーパー=世間の現実」を目の当たりにした主人公は、「構造改革」のための意見書を提出する。「プラン⇒ドゥ⇒チェックという三つの基本を絶えず行えば、改革は確実に進む」という信念のもとで。当初は…。しかしながら、周りの人々も、野村の熱意に動かされ、徐々に彼が起こす渦の中に巻き込まれていく。と同時に、野村自身の心の中にも大きな変化が生まれていく。06年2月に、織田裕二・柴咲コウ主演で映画化。

◎桂 望実 『ハタラクオトメ』 幻冬舎、2011年

◆100キロの体形で食いしん坊のOLゆえ、「ごっつあん」という愛称で呼ばれる北島真也子。中堅の腕時計メーカー(創業55年)に就職して5年が過ぎる。ふとしたことから「女性だけのプロジェクトチーム」のリーダーになる。新製品の開発に必死に取り組み、企画案を提示するものの、男社会のルールに邪魔されることに。見栄、自慢、メンツ、根回し、派閥争い……。男たちは、仕事以外のことで忙しい。が、なんだかんだいっても、男はとても単純かも!

◎桂 望実 『Lady,GO』 幻冬舎文庫、2009年

◆キャバクラの世界を垣間見ることができる。南玲奈は、恋も仕事も絶不調の派遣社員。 なかなか派遣先が決まらず、ギリギリの生活を余儀なくされている。お金がなくなり、仕方がなく、キャバクラ嬢になる羽目に。コンプレックスの塊のような地味で暗い女の子が場違いな職場で奮闘する姿が描かれていく。キャバクラ嬢の成長とは、どのようなものなのか?

※かとう ひとし※

◎加藤 仁 『会社卒業』 徳間文庫、1992年

◆モーレツに働き、会社の業績を上げても豊かさを実感できないだけではなく、管理職の選別強化のもとで厳しい立場に追い込まれる、バブル期における中高年のサラリーマン像を描いた作品。

※かどた やすあき※

◎角田泰明 『ガン新薬戦争』 角川文庫、1984年   

◆製薬業界。ガン治療の新薬の開発をめぐる企業内部の人間模様や、政財界を巻き込んだ暗躍を描写し ている。

◎角田泰明 『擬装重役』 徳間文庫、1985年      

◆ビール業界。日本最大の洋酒メーカーが、大手三社による寡占体制下にあるビールの製造に参入した。そうした挑戦が引き起こすさまざまな軋轢についてのストーリー。国産ウィスキーの欺瞞性を指摘した場面も興味深い。

◎角田泰明 『白い野望』 徳間文庫、1983年 

◆医学界、製薬業界。ある総合病院の医師が主人公。病院と製薬業界の関係、院長の椅子をめざしたどす黒い抗争などが、記述されている。

※かなざわ きょうこ※

◎金沢京子 『談合』 (日本文芸社、1995年)

◆銀座のホステスである著者の経験を通して得た情報を参考にして書かれた経済小説。建設業界では当たり前になっている談合が、橋梁業界でも存在することが言及されている。

※かなざわ まこと※

◎金沢 誠 『逆転首脳人事』 徳間文庫、1997年

テレビ局は、これまで郵政省の免許制度に守られ、新規参入が極めて困難であったために競争意識が希薄であった。が、将来的にはシェア三割を奪うと予測されている、「地上波より安く、効率よく情報を送れる」衛星デジタル放送の出現によって大きく揺れ動きつつある。

※かなざわ よしひろ※

◎金沢好宏 『社長解任動議』 ダイヤモンド社、2004年

◆1987年当時はジリ貧であったが、その後二代目の社長木田啓二によって、パソコンと携帯電話の両事業を核にして急成長した情報機器商社アドバンス。実態はといえば、木田社長の個人商店であった。10年後の97年、同社に対し、巨大総合商社・扶桑物産が、アドバンスの借入金の多さを口実に、室町銀行と協力し乗っ取りを企てる。彼らのもくろみは、木田社長の交代。主人公であるアドバンスの取締役パソコン事業部長畑山智久は、木田を守るのか、それともかつての勤務先である扶桑物産の側に立って彼を見捨てるのか。拒否すれば、会社を倒産させるという。困難な選択!

※かまた まさあき※

◎鎌田正明 『全壊判定』 朝日新聞出版、2009年

◆東京湾岸にある築20年の中古マンションが震度5の地震で被災し、全壊判定が下される。建替えか補修か退去か…。パニックに陥った120世帯は、それぞれの生活事情を背景に好き勝手な反応と行動を見せる。住民たちの人物描写が実にリアル。エゴのレベルは、おもしろさを通り越し、恐怖心さえ感じさせられる。そのようななか、入居して1ケ月で、たまたま理事長に選ばれた主人公の女性が絶望のなかでリーダーシップを発揮するのであるが…。マンションの建て替えに関わる人たちにとって、良きテキストになるだろう。デビュー作。

※かみのごう としあき※

◎上之郷利昭 『西武王国 堤一族の血と野望』 講談社文庫、1985年

◆私鉄業界。流通業界。堤 康次郎によって創設された西武グループは、現在、堤 清二の率いる流通グループ(西武百貨店、西友)と堤 義明の率いる鉄道グループ(西武鉄道、国土計画、プリンスホテル)の二系列から構成されている。本書は、その現状について多くの情報を収録したノンフィクション。

◎上之郷利昭 『新・西武王国 宿命の対決 堤清二対堤義明の新経営戦略』 講談社文庫、1987年

◆私鉄業界。流通業界。西武グループの現状を扱ったノンフィクション。

※かわばた ひろと※

◎川端裕人 『リスクテイカー』 文春文庫、2003年

◆国際為替市場の裏側に迫る、実にスリリングな物語。トレーダーの心の動き。90年代末のニューヨーク・世界を舞台に、ヘッジファンドの仕組み・考え方・行動様式が見事に描き出された作品。アジア通貨危機、ロシア危機に伴うLTCMの破たんなどの裏側にも肉薄できる。96年5月にコロンビア大学のビジネススクールを卒業したばかりのタナカ・ケンジとジェイミー・コダーイ、そして大学院で物理学を学んでいるロバート・ヤンが立ち上げたフェッジファンドの「乱気流(タービュレンス)ファンド」。ウォール街に挑戦状をたたきつける。彼らが仕掛ける最終戦の意図とはなにか? 

※かんべ むさし※

◎かんべむさし 『課長の厄年』 光文社文庫、1992年

◆厄年(42歳)を迎える頃から迷いと苦しみの生活を余儀なくされるようになった本州紡績の課長(寺田喬)は、1年半ほどスランプの苦しみを経験したのち、そこから脱却する。この作品は、ユニークなその脱出方法を描いている。

◎かんべむさし 『人事部長極秘ファイル』 光文社文庫、1999年

◆代々の人事部長に引き継がれていた、東亜建材産業株式会社の問題社員に関する極秘の調査報告書を軸に、さまざまなサラリーマン・ビジネスウーマンの人間模様が描かれている。

※きじま こういち※

◎鬼島紘一 『告発』 徳間書店、2000年

◆大手ゼネンコンが、旧国鉄用地の入札を不正に独占していくプロセスを克明に描いた作品。

※きたざわ さかえ※

◎北沢 栄 『ダンテスからの伝言』 全日法規、1998年

◆バブル崩壊後の銀行とノンバンクの関係がよくわかる。いい融資案件は銀行が手がけ、問題案件はノンバンクにやらせるという構図。銀行は、融資先を紹介する見返りに、「紹介料」として3%程度をノンバンクから受け取る。「会社の命令だからと従っているうちに犯罪に巻き込まれた」。窮地に陥った主人公は、ダンテス計画という復讐劇をスタートさせる。あなたならどうする!

◎北沢 栄 『バベルの階段』 総合法令、1994年

◆金融自由化、プラザ合意、円高、内需拡大、低金利、カネ余りと続く80年代の時代の流れのなかで、ある都市銀行が、いかにバブル経済の渦中に突入していくのかが余すところなく描かれている。不動産会社・証券会社とともに、バブル劇の主役を演じたのは銀行であるが、本書は、銀行の立場からなぜバブルが起き、そしてはじけたのかが見事に浮き彫りにされてる。

※きただけ のぼる※

◎北岳 登 『虚飾のメディア 小説・巨大テレビ局』 ダイヤモンド社、2004年

◆テレビの報道番組の作り方、社内力学、外部プロダクションとの癒着、視聴率の動きに翻弄されるテレビ局の体質、視聴率操作事件などが浮き彫りにされている。質のいい番組作りと視聴率獲得のはざまで揺れ動く、関東テレビ報道局プロデューサーの小林昭介が主人公。

※きのした たろう※

◎樹下太郎 『サラーリーマンの勲章』 文春文庫、1983年

◆いわゆる「サラリーマン小説」。「複雑な計算の上に成り立っている」サラリーマンのさまざまな様相を浮き彫りにした短編小説を集めた作品。

◎樹下太郎 『非行社員絵巻』 文春文庫、1985年

◆28歳になる王様電機の独身サラリーマン花見八郎を主人公にして、高度成長期のサラリーマンを描いた「ユーモア・ナンセンス小説」。65年当時の「サラリーマンは、給料は少なかったけれど、結構気楽だったと思う・・・。自由があった。上役にさからうことができた」、という著者の言葉が印象的である。初刊本は、66年に文芸春秋から刊行。

※きばやし しん※

◎樹林 伸 『ビット・トレーダー』 幻冬舎、2007年

◆4年前、息子の勇太を電車の脱線事故で失った主人公の矢部恭一。彼自身はもちろんのこと、妻と長女も、それぞれ、喪失感に苦しみ、家族の絆も崩壊の危機に瀕していた。そんな矢部には、外車ディーラーとしてのサラリーマン稼業に加え、もう一つの顔が。妻にも内緒で借りているとあるマンションで、愛人を囲いつつ、株式投資に励む「デイ・トレーダー」としての顔であった。デイ・トレードにまつわるノウハウが満載されている。

※きむら たけし※

◎木村 剛 『通貨が堕落するとき』 講談社、2000年

◆北海道拓殖銀行や山一証券が破綻した1997年の金融不安の状況、大蔵省や日銀の対応ぶり、大蔵官僚の苦悩。世紀末における大蔵省とそれを取りまく情勢変化、問題先送り構造がどのような手段をもちいて克服されていくのか、などの点が見事に描かれた近未来小説。

※きりの なつお※

◎桐野夏生 『ポリティコン』 上下巻、文藝春秋、2011年

◆大正時代に、東北の寒村に生まれたユートピア「唯腕村(いわんむら)」。1997年、村の後継者・高浪東一が、村にやってきた美少女・中島真矢と遭遇したところから物語は始まる。過疎化、高齢化、農業破たん、食品偽装、外国人妻、脱北者など、現代日本が抱える諸問題の縮図であるかのように、ユートピアはやがてディストピア(絶望郷)に変わっていく。

※きよおか ひさし※

◎清岡久司 『小説談合 ゼネコン入札の舞台裏』 講談社文庫、1994年

◆建設業界。大型公共事業の入札をめぐり、建設族の議員を巻き込んで展開されるドス黒い駆け引きが克明に浮き彫りにされている。主人公は、ある建設会社の「談合マン」。談合の実態や入札に至る過程が詳細に描かれている。著者は、ゼネコン(戸田建設)の常務として、実際に談合に加わってきた人物。初刊本は、89年に三一書房から刊行された『小説ウォーターフロント』。

※きりの なつお※

◎桐野夏生 『OUT』 上下巻、講談社文庫、2002年

◆第51回日本推理作家協会賞の受賞作。クライム・ノベルとか、ミステリー小説といった名前を冠されている桐野の作品。深夜、弁当工場で単純肉体労働に従事する女性たちにスポットを当てた「OUT アウト」。この本では、世の中の「いわば本流」から外れたところで生活する、「下層階級」の人々の心情が見事に描かれている。主人公香取雅子の毎日は、「自分のことだけ考えなくてはならない」ほどキツイ単純労働の繰り返し。仲間の一人がやってしまった夫殺しの隠蔽に協力したことから、特別な動機もないまま、衝動的かつ場当たり的に、ますます「アウト」な行動へと進んでいく…。初刊本は、1997年に講談社から刊行。05年前後に噴出した「下流階級」に関する議論を絡み合わせれば、本書の意義が一層明確なものになるだろう。

※くじ つよし※

◎久慈 毅 『新規事業室長を命ず ベンチャービジネス・失敗と成功の岐路』 ダイヤモンド社、1998年

◆真の起業家精神とは。ベンチャーキャピタルとはいかにあるべきか。企業内ベンチャーを育てるには。なぜ、日本ではベンチャーが成功しないのか。そんなことを考えさせられる「ビジネス・シミュレーション小説」。アメリカでベンチャー企業を立ち上げたものの、苦闘9年の末、失敗し帰国した主人公の上村瞭三を待ち受けていたのは左遷。しかし、彼の手腕と失敗経験はやがて認められるところとなり、大手総合商社東都物産の「新規事業室長」に抜擢される。

※くにみつ しろう※

◎邦光史郎 『圧殺の環 ─食糧輸入が止まる日』 祥伝社ノン・ノベル、1979年

◆日本の食糧事情。高度成長の過程で、日本は工業生産を大いに発展させたが、同時に食糧自給率のは、低下の一途を辿った。もし、外国からの食糧輸入が途絶したら? 世界の穀物市場を牛耳る「穀物メジャー」、日本人の米離れ、もっぱら機械と化学肥料に依存する日本農業などについても言及されている近未来小説。

◎邦光史郎 『大阪立身 小説・松下王国』 上下巻、集英社文庫、1983年

◆家電業界。二股ソケットの製造・販売から始まって、巨大な電気メーカー・松下電器を創設した松下幸之助の半生をモデルにした立身小説。明治から大正にかけての大阪の風情や商人の世界がよく描かれている。なお、彼の妻の弟である井植歳男は、のちに三洋電気の創設者となっている。  

◎邦光史郎 『会社喰い(マージャー)』 光文社文庫、1984年    

◆家電業界。アメリカ企業による日本の家電メーカーの企業買収を扱ったもの。10年後のビジネス界を「予測」した近未来経済小説。

◎邦光史郎 『黄色い蝙蝠─日本経済崩壊の日─』 集英社文庫、1984年

◆「経済大国」と言われて繁栄を謳歌しつつある反面、「資源のない貿易立国で、しかも食糧自給率38%」といった弱点を有する日本経済。本書はその構造的な弱さを浮き彫りにした近未来経済小説。アメリカ・ヨーロッパでも、アジアでもないという日本の中途半端な状況を「コウモリ」という形で表現している。欧米諸国が日本商品のボイコットを始めた場合、日本は一体どうなるのか?初版は、77年に祥伝社から刊行。

◎邦光史郎 『巨大商社』 上下巻、徳間文庫、1986年

◆総合商社。旧態依然の取り引きを続けている真珠業界に大商社が介入する、という「事件」を軸にして展開される両者の関係・確執を描いたもの。初刊本は、64年に講談社から刊行。

◎邦光史郎 『社外極秘』 集英社文庫、1985年

◆電機業界。1961−62年という高度成長期の直中における家庭電器産業の機密攻防戦を描いた産業スパイ小説。各メーカー入り乱れての熾烈な裏工作、すさまじいスパイ活動を浮き彫りにしている。なお、63年に三一書房から刊行され、ベストセラーとなった本書は、62年の直木賞候補作でもある。今は亡き田宮二郎主演で映画化されている。

◎邦光史郎 『重役紹介会社』 ケイブンシャ文庫、1985年

◆名門ながらも今では二流メーカーに成り下がった亜細亜電器の社長に、日本重役紹介会社を介してスカウトされることになった酒巻俊夫を主人公とする「近未来小説」。本書が実際に執筆されたのは、1965年のことらしい。その頃に、2−30年後の技術や社会状況がこうなりはしないだろうかと空想したものが本書なのである。

◎邦光史郎 『小説エネルギー戦争』 光文社カッパ・ノベルス、1980年 

◆エネルギー問題。太陽エネルギーの開発をめぐって生じる、政界をも巻き込んだ利害抗争が描かれている。また、「太陽・地熱・石炭・水素」といった石油に代わる新エネルギーの開発計画、世界の石油事情、石油メジャーなどについての叙述がある。

◎邦光史郎 『小説ダイエー王国』 徳間文庫、1990年

◆スーパーマーケット業界。ダイエーの創設者である中内功の半生をダイナミックに描いたもの。城山三郎の『価格破壊』と読み比べてみると、ダイエーの歴史がよく理解できるだろう。

◎邦光史郎 『小説トヨタ王国』 上下巻、集英社文庫、1990年   

◆豊田佐吉と長男喜一郎の物語。

◎邦光史郎 『深海魚族』 集英社文庫、1985年

◆鉄道会社。大阪万博や本四架橋をめぐる巨大な利権がらみの抗争が描かれている。

◎邦光史郎 『住友王国』 上下巻、集英社文庫、1982年   

◆住友家の400年史。生きた日本経済・経営史の資料としても活用できるだろう。初刊本は、73年にサンケイ新聞社出版局から刊行。

◎邦光史郎 『世界を駆ける男』 上下巻、集英社文庫、1995年

◆電機業界。同じ著者による『虹を創る男』は、三洋電機の創設者である井植歳男の半生記であった。その続編ともいうべき本書は、彼の後継者となった次弟の井植祐郎(1968年に二代目社長になる)と三弟の薫(三代目社長)を中心に、三洋電機の世界進出の模様および現地工場がある香港、台湾、韓国、アメリカ、ガーナ、ケニア、イギリスなどの状況が描かれている。

◎邦光史郎 『泥の勲章』 徳間文庫、1986年

◆高度成長期における石油化学業界を描いた作品。初刊本は、63年に講談社から刊行。

◎邦光史郎 『西陣模様』 徳間文庫、1986年

◆着物業界。零細な織物職人がひしめく京都の西陣を舞台に、ある帯地屋を女主人公にして繰り広げられる。伝統と革新という問題を描いている。初刊本は、66年に三一書房から刊行。

◎邦光史郎 『虹を創る男』 上下巻、集英社文庫、1992年

◆電機業界。主人公は、三洋電機の創始者井植歳男である。本書を読むと、義兄である松下幸之助のもとで、彼が「社員第一号」として、松下電器の黎明期から発展期においても大きな貢献をしたこと、第二次大戦後の公職追放令によって、松下の専務という職務から離脱せざるをえなくなり、三洋電機を創設(1946年)したことがよくわかる。また、折に触れて、大正から戦後にかけての社会・経済の動向に関する叙述がみられる。初刊本は、88年に集英社から刊行。   

◎邦光史郎 『日日これ夢 小説小林一三』 集英社文庫、1993年

◆電鉄業界。「箕面有馬電気軌道株式会社」(のちの阪急)の社長であった小林一三の物語。鉄道を施設して沿線に住宅地を整備する、つまり「住宅地と電鉄のドッキング構想」を実行した人物。初刊本は、86年に淡交社から刊行。

◎邦光史郎 『武器商社』 光文社文庫、1985年 

◆総合商社。つぶれるはずはないと信じ切っている中堅商社。だが、ある日突然経営がおかしくなり、乗っ取られる。そのとき社員たちは、どうするのか。著者の言葉として、解説で書かれている「高齢化社会といっても、一足飛びに老人社会が来るのではなく、むしろその前段階に生じる中高年社会こそが、大事な問題」、という指摘が印象的である。

◎邦光史郎 『三井王国』 上下巻、集英社文庫、1981年 

◆幕末の越後屋から三井財閥の形成までを描いたもの。三井財閥の歴史がよく理解できる。   

◎邦光史郎 『三菱王国』 上下巻、集英社文庫、1982年

◆三菱財閥の創始者岩崎弥太郎の生涯を描いている。三菱財閥を知るための格好の資料。

◎邦光史郎 『やってみなはれ 芳醇な樽』 集英社文庫、1991年

◆洋酒業界。国産の本格的なウィスキーを発売したサントリーの創業者鳥井信治郎の生涯を描いている。サントリーの歴史のみならず、明治・大正・昭和の時代の流れがよくわかる。

◎邦光史郎 『夜の主役 地下銀行』 徳間文庫、1980年  

◆闇の金融業者の世界。1968年に日本テレビ系で放映されたドラマ『夜の主役』の原作。

※くくの やすなり※

◎久野康成、井上ゆかり 『もし、かけだしのカウンセラーが経営コンサルタントになったら』 文化出版社、2010年

◆リーダーシップには、「目的の達成」を第一に考える父性型リーダーと、「組織の調和」 を第一に考える母性型リーダーの二つがある。平時には前者、有事には前者が威力を発揮する。主人公の宮崎亜衣(27歳)は、田宮研二・TCF会長のもとで働いているマネジメントセラピスト(カウンセラー)。一般に「社員フォロー」と呼ばれている彼女の役割は、@社員が会社の中でやっている仕事を通して、キャリアプランを達成できるように手伝うこと、A経営者の伝えたい言葉の本質を全社員に伝えていくこと、B個人がやりたいことを明確させて、それを組織のベクトルに近づけていくこと。

※くりやま まこと※

◎栗山 誠 『東京ディール協奏曲』 集英社、2007年

◆都市銀行を5年勤めて退職した27歳の水原雄一が、求職活動中にふと目についた某社の「給与・待遇」欄。そこには、「上限なし数千万円+独立できるスキル」と書かれてあった。会社名はファイラボ(ファイナンシャル・ラボラトリー)。社長の霧谷司の第一印象は「想定できない突然の質問、怪しい、おかしい、類型化できない人」であった。そこでの業務は、企業にアドバイスして手数料・成功報酬を稼ぐことがメインであるが、何でもコンサル屋の個人商店。巨大資本を相手に、熾烈なバトルが開始される! 

※くろかわ ひろゆき※

◎黒川博行 『疫病神』 新潮文庫、2000年

◆産廃ビジネス・産廃業界の実態と「ややこしさ」がよく描かれている。人がモノを作る限り、産廃問題は避けて通れない。にも関わらず、法も行政も整備が遅れている。産廃の最終処分地(埋め立て地)の確保は、どこでも大きな頭痛の種である。適した土地が見つかったとしても、所有権、水利権、地元有力者の懐柔、水路の改修、堰堤工事、50センチにも及ぶ申請書類の作成、同業者による妨害工作、現地までの搬入路の確保、環境問題など、解決すべき問題が山のように出てくる。なかには、カネの絡むさまざまな揉め事・調整事が出てくる。「産廃は金になる」ので、産業廃棄物の処分地を求めて、ゼネコン、土建屋、コンサンタント、不動産屋、地上げ屋、地方議員、極道たちがうごめく。解説者の後藤正治の言葉を借りれば、「ワルばっかりが出てくる物語」ということになる。

※くろき りょう※

◎黒木 亮  『アジアの隼(はやぶさ)』 祥伝社、2002年

◆アジアを舞台にした、国際金融の現場と実務を知るための格好のテキスト。新興国市場(イマージングマーケット)として急成長するアジア。そこには多くのビジネスチャンスが転がっている。反面、規制監督、インフラ、市場の高度化という点で、まだまだ未成熟な状態にある。賄賂も公然とまかり通る。そこは、欧米の基準が全く通用しない独特な世界なのだ。ベトナムの国情やアジア通貨危機の実態がよくわかる。

◎黒木 亮 『エネルギー』 上下巻、日経BP社、2008年

◆日本の国内問題を解決する場合でも、多くの関係者の利害調整は難しい課題となるが、各国の利害・思惑が一層複雑なものになる国際問題を処理する場合、利害調整の範囲とレベルは一層複雑なものになる。国際的な商品の代表選手とも言うべき石油の確保は、まさにそうした課題を一つひとつ克服したうえで初めて実現できる。当事者にとっては、「産みの苦しみ」も半端なものではない。一筋縄ではいかないのが石油開発なのである。本書を読むと、われわれが常日頃使っている石油の背後にどのような国際的なメカニズム、原油を確保するために血のにじむような人々の努力・忍耐・苦悩が横たわっているのかがよくわかる。石油を軸にして、1997年〜2007年における国際経済・国際政治の現状を的確に学ぶことができる壮大なテキストになる得る作品だ。「国際資源戦争」の最前線を描いている。

◎黒木 亮 『貸し込み』 上下巻、角川書店、2007年

◆バブルの時代、銀行は、利殖はもちろんのこと、相続・節税対策など、あらゆる理由を探し出し、貸し込んだ。ごり押し融資も多かった。大手都市銀行の大淀銀行(のちの東洋シティ銀行)は、脳梗塞患者に対し21億円もの巨額の過剰融資を行なう。訴えられた大手都市銀行は、元行員の右近祐介にすべての責任を負わせようとした。濡れ衣を着せられた主人公の右近祐介は、「はらわたが煮えくり返る思い」をしながらも、驚愕と怒りのなかからも、嫌疑を晴らし、銀行の悪行を告発しようと証言台に立つことを決意する

◎黒木 亮 『カラ売り屋』 講談社、2007年

◆狙いを定めた企業と徹底的に戦う「カラ売り屋」の活動を描いた表題作。その他に、国の財政支援を当てにした「村おこし屋」、主に新興国市場で働き、国際金融のプロと称される一流の「エマージング屋」(途上国専門バンカー)の姿を描いた作品、銀行の管理下に置かれている渚ホテル(南紀)の再生をどのように行うかをめぐる「再生屋」の考え方。全部で四つのテーマを、それぞれ鋭い切り口から描いた作品集。

◎黒木 亮 『虚栄の黒船 小説エンロン』 プレジデント社、2002年

◆全米第7位の巨大企業は、2001年12月2日に破綻した。投資銀行のアナリストたちによれば、「エンロンを分析することは不可能だ」ったと言われるように、それは謎に包まれた存在であった。しかし、株価が上がっている限り、誰もそんなことを気にしなかったのも事実である。本書は、ケネス・ケイによる1985年の創設から、世界初の「ガス・メジャー」への発展、電力自由化に伴う電力トレーディング・ビジネスの展開、トレーディング・ビジネスへの傾斜、そして破綻に至るまでのエンロンの歴史がドキュメントタッチで描かれている。

◎黒木 亮 『獅子のごとく 小説投資銀行日本人パートナー』 講談社、2010年

◆登場人物の仕事ぶりを通して、アメリカ系投資銀行の業務内容や内部での権力争いの実態がよくわかるようになっている。S学院大学ラグビー部でフルバック(ジャパンBに選ばれた)をやり、大手都銀の東立銀行に就職した逢坂 丹(おうさかあかし)。実家である中堅の貿易会社を破たん処理されたことで、同行の特に檜垣力に復讐を誓う。留学したあと、アメリカで投資銀行のエイブラハム・ブラザーズに転職。ひたすら勝つことにこだわって違法すれすれのあくどい手段も厭わない「獅子」となっていた。そして、バブル真っただ中の87年、東京支店に舞い戻ってきた。

◎黒木 亮 『シルクロードの滑走路』 文藝春秋、2005年 

◆本書の主な舞台となるのは、中央アジア最深部、アカエフ大統領時代の小国キルギスタン。1991年に、旧ソ連から独立。人々の生活感覚は、未だ市場経済には馴染んでいない。先進国にはびこる「効率」とはおよそ無縁の世界。そのような国で、航空機ファイナンスという、いわばグローバルな契約意識と複雑な手続きが要求される商取引がなされるとしたら、どのようなことになるのか。この本は、そうした興味深いテーマを扱った経済小説である。

◎黒木 亮 『トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て』 祥伝社、2000年

◆ロンドンの金融街シティを舞台にして、巨額融資をめぐる「邦銀VS米投資銀行」の息詰る攻防戦を描いた作品である。在ロンドンの現役国際金融マンである著者のデビュー作。主人公は、邦銀のエリート行員で、ロンドン支店次長の国際金融マンである今西哲夫。借り手や社会に貢献できることを生きがいに感じている人物。次から次へと起こる難題もさることながら、それらに妥協点を見出しながら解決していく様が圧巻。

◎黒木 亮 『リストラ屋』 講談社、2009年

◆パンゲア&カンパニーの北川靖が登場する『カラ売り屋』の続編にあたる作品。カラ売りとは、証券会社経由で機関投資家から企業の株を借り、市場で売却し、値段が下がった時、市場から買い戻して借りたお金を返却し、利益を上げる手法である。日本市場を担当する北川が目をつけたのは、業績不振で最近、ボストン・インベストメンツに買収された極東スポーツ。新たに経営者となったのは、徹底したリストラ屋として家電メーカーを再建した蛭田明(46歳)。カラ売りを仕掛ける方とターゲットになった企業との攻防劇が見事に描かれている。

※けんざき まなぶ※

◎剣崎 学 『都銀暗黒回廊』 小学館、1998年

◆総会屋との訣別は、バブル崩壊後の銀行再生問題のなかで一つのテーマとなっていた。平成不況の真っ只中日本興京銀行の総務部一課次長に昇進した須藤省吾を主人公に、総会屋を排除するため苦闘する須藤の姿を追求した作品である。のちに『腐蝕銀行』(小学館文庫、99年)として文庫化される。

※げんじ けいた※

◎源氏鶏太 『英語屋さん』 集英社文庫、1983年

◆1950年上半期の第25回直木賞受賞作品である「英語屋さん」をはじめ、平凡なサラリーマンの風間京太を語り手として展開される、同じく平凡なサラリーマンの10の話が収録されている。

◎源氏鶏太 『課長さん』 角川文庫、1983年

◆主人公の北原洋太郎が新たに総務課長となるという話から始る。本書は、課長というポストに焦点を当て、高度成長期初期の頃のサラリーマンを描いている。初出は、1960年1月から翌年3月までの『婦人倶楽部』(講談社)の連載。

◎源氏鶏太 『三等重役』 新潮文庫、1961年

◆本書は、1951年8月23日号から52年4月13日号の『サンデー毎日』に連載され、話題を呼んだサラリーマン・ユーモア小説の代表作。公職追放によって、戦前からの経営者が多数第一線から離脱し、タナボタ式に生まれた、「ありていに言えば、よく社長になれた」と揶揄された戦後派の経営者たちを称する「三等重役」という言葉が流行語になる。

◎源氏鶏太 『重役の椅子』 角川文庫、1967年

◆農業国から工業国へと経済の重心が大きくシフトし、働き盛りの労働者が不足する高度成長期。社長(塚越)派・専務(立花)派、という二つの派閥を有する極東商事を舞台に、社長派の旗頭である取締役総務部長(実力重役)の急死がもたらす波紋と人事異動の哀歓を描いた作品。

◎源氏鶏太 『新・三等重役』 全3巻、新潮文庫、1961年

◆源氏鶏太の代表作・出世作である『三等重役』が書かれてから8年の歳月が流れている。 大株主に弱い重役の姿をユーモラスに描いている。主人公は、世界電機工業(本社は大阪にある。資本金5億円)の沢村四郎専務(43歳で独身)。それなりに人望・能力があり、将来の社長候補ではあるが、どことなく頼りないところがある。特に、創業者の前社長夫人で、同社の最大の株主である宮口鶴子(芦屋に住んでいる)の前では、社長の坂口ともども、借りてきた猫のようになってしまう。「雇われ重役」という意識があるからである。ただ、彼には、「忠臣」とも言うべき箱田章子(社内随一のオールドミス)がいる。彼女のサポートで、鶴子が引き起こすいろいろな難題を見事解決していく様子が、本書のメインストーリーとなっている。   

◎源氏鶏太 『人事異動』 角川文庫、1966年

◆高度成長期のサラリーマン社会。サラリーマンにとっての最大の関心事である人事異動がもたらす波紋、出世欲にかられるサラリーマン根性のあさましさが見事に描かれている。

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◎黄田 聰 『利権空域』 プレジデント社、1979年

◆安定成長期という時代背景のもと、「冬の時代」を迎えた商社間で展開される、航空機の激しい売り込み合戦の裏側を描いた作品。  

※こうだ まいん※

◎幸田真音 『藍色のベンチャー』 上下巻、新潮社、2003年

◆深くて濃い藍色であるにもかかわらず、吸い込まれそうなほどの透明感を持った一枚の皿。著者と湖東焼きとの出会いである。幕末期に作られたその世界を描き、幸田にとって最初の経済歴史小説となった。堅実な呉服古着商として財をなしたあと、やがて湖東焼と称されるようになる焼き物に手を染めるようになった絹屋半兵衛と彼の妻・留津(るつ)の半生、桜田門外の変で亡くなった大老・彦根藩主井伊直弼(鉄三郎)との関係、封建制度のもとでの商いの難しさ・醍醐味などが描かれている。

◎幸田真音 の悲劇』 講談社、2001年

◆かつてアメリカ系証券会社に勤務し、相場の現場で活躍していた主人公の篠山孝男。52歳になったいまは、キャピタル警備保障のガードマンとして勤務している。彼の相棒は、まだ23歳の藤木達也。オンライン・トレードで株の売買を行っている。表題作の「eの悲劇」をはじめとする4つの短編小説が、連作という形で収録されている。いずれも、ガードマンとしての視点から、企業や銀行で働く人の生き様を浮き彫りにしている。

◎幸田真音 『CC:カーボンコピー』 中央公論新社、2008年

◆業界中堅の広告代理店ナガサワ・アド・エージェンシーに勤める山里香純が主人公。広告業界の業務内容や仕事の仕組み、代理店に広告を出すスポンサーとの関係などがよく分かる。また、ナガサワでは、すべての社員が発信するメールに「cc:」をつけることが義務づけられている(顧客とのコミュニケーションを会社としても常に把握しておく必要があること、私用のメールを減らすことが導入の目的であった)。そのことがストーリの展開に大きな意味を持っている。

◎幸田真音 『傷』 文藝春秋、1998年

◆ビッグバンで揺れる日本の金融界の内幕に迫る金融ミステリー。

◎幸田真音 『偽造証券』 新潮文庫、1997年

◆「自分の思うことを思う通りに主張し、やりたいことに体当たりでぶつかっていけるパワーがある…。つまらない自己弁護や理由探しなど必要ない」。そのような街=ニューヨークを舞台にして、働く女性たちの実態を取材することになった三輪祥子。経済小説の作家としてデビューしたばかりの彼女は、大量の有価証券とともに姿を消したとされている元エリート債権トレーダー・倉丘純一の失踪劇に遭遇する。しかも、その裏には大掛かりで組織的な犯罪が隠されていたのだ。

◎幸田真音 『周極星』 中央公論新社、2006年

◆明確なロードマップなどないままに、市場経済化を進め、高度成長を実現させた中国。、混沌さと不思議なバイタリティ。至るところに、儲けのネタが転がっている。本書の主人公は、中国=上海という極を舞台にして、数奇な運命に翻弄される一組の男女。

◎幸田真音 『小説ヘッジファンド』 講談社文庫、1999年

◆コンピュータで武装し、デリバティブを駆使する「現代の相場師」とも言うべきヘッジファンドの実態を描いた作品。為替のディーリングの仕組み、デリバティブの具体的な姿、ディーラーの考え方などが具体的かつ平易に解説されている。原題は、1995年に講談社から刊行された『回避』であるが、この本が書かれた頃(1994年末)は、ヘッジファンド、デリバティブといった言葉は、ほとんど馴染みがなかったという点を付記しておきたい。著者のデビュー作でもある。

◎幸田真音 『代行返上』 小学館、2004年

◆年金問題に関する世間の関心が高まっているが、企業年金については意外と知られていない。複雑でわかりにくいという声も多い。企業年金に関して、代行返上が問題になっている。それは、企業が国に代わって行っていたこと、つまり代行していた部分を国に返上することである。代行返上のメカニズムとはなにか、なぜそんなことが必要なのか、それが株式市場にどんな影響を与えるのか、年金改革とはどういうことなのか、そもそも、企業年金とは誰のためのものなのか。本書では、おもしろいストーリー展開のなかで、そうした点が明らかにされている。

◎幸田真音 『タックス・シェルター』 朝日新聞社、2006年

◆「タックス・シェルター」とは、租税回避のこと。バハマやケイマンといった海外の税避難地(タックス・ヘイヴン)に銀行口座を開くことや、特別目的会社(SPC)を設立するといったことも、よく知られている。中堅証券会社である谷副証券のワンマン社長谷山福太郎。彼は、財務部長である実直な主人公の深田道夫に莫大な個人資産の管理を極秘に委託していた。ところが、社長は急死。ケイマンに残されていた財産の管理で、深田は途方に暮れる。ヒロインは、バツイチで、母の助けを借りながら、一人娘のいずみを育てている宮野有紀。東京国税庁の調査部国際税専門官である。租税回避商品など、国際的な租税回避行為に関する調査を行うのが業務。やがて、運命の赤い糸にたぐり寄せられるように、出会い心を通わせるようになる深田と宮野。

◎幸田真音 『投資アドバイザー有利子』 角川書店、2002年

◆「とかく敷居が高いと思われがちな『経済小説』ではなく、誰でも楽しく読め、それでいて自然に金融や市場の世界をのぞき見ることができる」作品をという「注文」に応じて書かれたとか。経済小説の原点に立ち返ったような作品でもある。長い長い不況に加えて、史上まれに見る超低金利が続き、閉塞感ばかりの世の中で、どのように個人資産を運用していけばよいのか。ところが、ちゃんと相談に乗ってくれるところがないのである。そこで、証券会社の窓口で活動する主人公の財前有利子(ざいぜん ありこ)が登場する。喧嘩早いが涙もろくて人情家の有利子が資産運用の願望を持った人々の味方として、持ち前の正義感でさっそうと難問を解決していく様は爽快である。

◎幸田真音 『日本国債』 上下巻、講談社、2000年

◆「国債と地方債、それに旧国鉄債務などを加えた日本の長期の公共債の残存総額は現在600兆円あまり。つまり日本の国内総生産のほぼ120%に匹敵する金額と言われてますけど、アメリカの雑誌で、ほんとは公表されている数字としてあがってないもの、たとえば空港とか鉄道とか、公的資金が投じられている公団や第三セクターの負債総額の実態を加算すると、全部で.GDPの2.5倍くらいあるんじゃないかとまで言い出している専門家までいます」。そのように、「市場との対話」もなく、ただ垂れ流し的に累積されてきた膨大な国債の存在故に、すでに「日本の家計は火の車」になっているという事実は、周知の通りである。本書は、おもしろいストーリーを展開させるなかで、国債の入札の仕方(シンジケート団という「大蔵省の飼い犬」のような組織による引受、クーポンと呼ばれる表面利率など)がよく理解できるように考案されている。

◎幸田真音 『バイアウト』 文藝春秋、2007年

◆「いまどき株式公開買い付けを怖がっておっては、上場企業の経営者などやっておられませんがね」といった言葉が平然と語られるほど、企業買収やM&AとかTOBといった現象が身近な出来事になっている。この作品は、企業買収に際し、攻める方と守る方の攻防と買収したいと考えているライバル間でのバトル・思惑が描かれている。

◎幸田真音 『舶来屋』 新潮社、2009年

◆エルメス、グッチをはじめとする多くの高級ブランドを初めて日本に紹介した「サン・モトヤマ」の創業者・茂登山長市郎の半生を描いた伝記的経済小説。ヨーロッパの高級ブランドの商人の目から見た戦後史でもある。ブランド物に対する世の中の意識の変化やメーカーの考え方の変遷がよ窺える。ラグジュアリー・ブランドの原点は、そもそも大衆を対象にするビジネスではなかったのであるが…。

◎幸田真音 『Hello, CEO』 光文社、2007年

◆主人公の藤崎翔(かける)、27歳。外資系クレジット・カード会社に勤務。しかし、本社の組織改革・リストラ計画によって、信頼する上司や同僚とともに会社を辞め、ベンチャー企業を立ち上げる。そして、最年少でありながら、なぜか翔が最高経営責任社になってしまう。斬新なアイディアがドンドン出てきて、新会社はスタートするが…。「冷静な頭脳と、熱いハートと、なにより一歩前に踏み出す勇気さえあれば、会社なんて誰にでも作れる時代なの!」。

◎幸田真音 『マネー・ハッキング』 講談社文庫、1999年

◆アメリカ系の投資銀行でディーリング業務に携わっていた著者が、ハラハラドキドキの筋仕立てで、ディーリングのやり方、電子ブローキング、先物取引・オプション取引・スワップを組み合わせたデリバティブの仕組みなどをやさしく読者に伝えてくれる。原題は、96年に講談社から刊行された『インタンジブル・ゲーム』。

◎幸田真音 『凛冽の宙』 小学館、2002年

◆不良債権にあえぐ金融界が外資にカモられる姿が克明に描かれている。100億円の不良債権をたった5億円で買い上げられるのはなぜかという話のなかで、「直接償却」「間接償却」「損失先送り商品」「サービサー」「バルク買い」といった不良債権処理の仕組みが、ハラハラドキドキのストーリー展開のなかで説明されている。

※こうの しゅういちろう※

◎河野修一郎 『豊饒の食卓』 朝日新聞社、1993年

◆「日本における農薬市場は極めて大きい・・・。欧米諸国と比較して単位面積当たり数倍、作物によっては十倍もの農薬を投下する」。しかし、「米国環境保護局が、殺虫剤の90パーセント、除草剤の60パーセント、殺虫剤の30パーセントはなんらかの発ガン性があると発表し」ている。本書は、農薬メーカーの開発部長を主人公に、そうした農薬の毒性をするどく批判している。

※こざかい しょうぞう※

◎小堺昭三 『企業参謀』 角川文庫、1981年

◆主人公の高野卓也は、太平洋戦争末期に特攻隊員として出撃するが、視界不良のため作戦が中止され、生き延びることになる。虚脱感にとらわれた、戦争直後の怠惰な生活のなかで、アメリカのシアーズ・ローバックという通販のカタログ集に、偶然目を留めた。その瞬間から、何かに目覚める。そして、十分な資金という「武器」を持たないにもかかわらず、持ち前のアイディアと行動力を駆使し、今度は経済戦争のなかで装いも新たな「特攻隊員」として華々しい活躍を演じる。  

※こじま なおき※

◎小島直記 『東京海上ロンドン支店』 上下巻、新潮文庫、1982年

◆損保業界の歴史。黎明期の東京海上火災を扱ったもの。各務鎌吉(かがみけんきち)と平生釟三郎(ひらおはちさぶろう)という二人の人物が存亡の危機をいかに解決していったのかが描かれている。

◎小島直記 『野村王国を築いた男 奥村綱雄のトコトン人生』 集英社文庫、1984年

◆証券業界。昭和12年から株式業務に参入した野村証券を、「世界の野村」に押し上げた奥村綱雄の生涯を描いている。彼が生きた大正・昭和の時代の流れも理解できる。

※こずかた おさむ※

◎こずかた治 『悪のマルチ商法』 徳間文庫、1997年

◆立糸教という宗教団体の教祖である真木霊山。彼が統帥するエルックという団体が考案したマルチ商法の実態が描かれている。

◎こずかた治 『迂回融資』 徳間書店、1998年

◆合同銀行の副頭取島啓司(筆頭株主の女婿)が、小会社のノンバンク・ゼウィンの専務として出向している宗田益男に向かって、数社に対する「迂回融資」を命令するところから物語が始まっている。それらには限度額以上を貸し付けているにもかかわらず、未だ業績不振で債権回収不能になりかけているのである。

◎こずかた治 『仕手相場』 徳間文庫、1993年

◆商品先物取引。取引の対象となるのは、本書の主役となる生糸や乾繭をはじめ、小豆、砂糖、金銀・プラチナなどの貴金属である。それらのほとんどは、日本国内では生産されなかったり、生産されても極めて少量であったりで、市場の需要を満たすには不十分なものである。商品先物取引の世界は、一般では通用する好き嫌いや正義感といった感情が一切存在しない独特な世界なのである。

◎こずかた治 『続・仕手相場 会社清算』 徳間文庫、1995年

◆前作の『仕手相場』の続編で、同じ登場人物がでてくる。仕手戦に敗北した大桑商事の危機、星田達のプロの相場師達に弄ばされて破滅に追いやられる大桑商事オーナーの瀬島、落ちぶれたトップを見限り自分の懐を肥やそうとする大桑商事の幹部社員達の動き、違反行為を指摘して「取引員の資格剥奪」を迫りつつ、同社を破滅に追い込もうとする取引所の理事達の策謀、会社清算に群がる「ハイエナ」たちの欲望、従業員やオーナーの利益を保全しながら、会社の清算を円滑に行おうとする雇われ社長森田の奇策などが見事に描かれている。

◎こずかた治 『倒産方程式』 徳間文庫、1995年

◆森川俊は外国人戦没者の霊を祀る大日円光仏教という教会の教祖である。彼は、それぞれに得意な知識と頭脳を有した元暴力団の幹部級の人材を十数人集めてグループを結成し、暴力団や裁判所とは異なったやり方でいろいろな相談事を解決することを生業にしていた。南九州市に本拠を置く是枝食品(是枝省吾が社長)の子会社である是枝商事(省吾の弟である是枝昭重が社長)から融通手形が持ち込まれたことをきっかけにして、その会社および社長の個人名義の財産までも喰い物にしてしまう。

◎こずかた治 『破産宣告』 徳間文庫、1999年

◆南九州一のディスカウントショップ阿古商店のオーナーである阿古義男は、人並みはずれたケチで、出入り業者に無理難題を押しつけて、個人的な蓄財に励んでいた。本書は、そうした阿古の阿漕な行動や、彼と彼のエゴイスティックな妻の気まぐれの犠牲になって、広告代理店アドプランの経営者徳倉真一が倒産の憂き目にあう過程を描いている。   

※こすぎ けんじ※

◎小杉健治 『特許裁判』 集英社文庫、1999年

◆最近、知的所有権(発明・デザイン・小説などの精神的創作努力の結果としての知的成果物を保護する権利の総称)の戦略的価値を軽視しては生き残れないということを、企業も国家も認識し始めるようになりつつある。それでは、もし特許裁判をメシの種にしているような訴訟慣れしたアメリカの企業から特許侵害で裁判を起こされたら、いったいどのように対処すればいいのであろうか。本書の中心的テーマは、そこにある。

※こばやし しんいち※

◎小林真一 『はぐれ狼が奔る』 きらめく星座社、2007年

◆世紀物産の牧山春彦は、稀にみる「熱血商社マン」。東欧支配人として輝かしい成果を上げるものの、スキャンダルをでっちあげられたことで、上司に反旗を翻す。会社のウミが表沙汰になることを恐れた社長一派の慰留で、裁判で訴えることはしなかったが、会社を辞め、自分で会社=日本マーキュリー社を興す。健康食品・ダイエット食品などの輸入・販売で、大成功。そうしたプロセスがコミカルなタッチで描かれている。

※こみや かずよし※

◎小宮一慶 『それぞれの序奏 小説巨大銀行誕生』 実業之日本社、1996年

◆銀行。1996年4月、国際業務では断トツの東京銀行(本の中では東都銀行)と国内では最強グループを率いる三菱銀行(本の中では丸の内銀行)が合併した。本書は、それに至るまで の過程および合併に伴う不安などを、東都銀行に務めるさまざまな人たちの視点から浮き彫りにしたものである。

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