は行

※はしぐち おさむ※

◎橋口 収 『〔小説〕銀行頭取』 経済界、2005年

◆自伝的小説。著者は、大蔵省の主計局長、国土事務次官、公正取引委員会委員長を経て、84年に広島銀行頭取、92年に同銀行会長を歴任し、05年7月永眠。 時代は1980年代中葉。中央官庁の幹部から有力地銀の三星銀行の新頭取として招き入れられた主人公の山岡孝雄が、そこで見つけたのは、院政を狙う老獪な権田正征前頭取・現会長、無気力で責任回避に身を任せる役員たち、効率とは無縁な旧態依然の銀行組織。「落日の老大国」という世評に示される停滞ぶりであった。その中で、彼の行内改革が始まる。悪戦苦闘のスタートだ。リーダーシップのあり方、改革の方法が問われる。

※はだ けいすけ※

◎羽田圭介 『御不浄バトル』 集英社、2010年

◆ブラック会社の生態。高額教材を販売する悪徳会社(電信教育センター)に入社した主人公は、過酷な労働と精神的な負担を負いながら、事務職(経理)であるために2年目に入る。唯一つの楽しみは駅ビルのトイレの個室でくつろげる数分間であるが、それも常連連中との争奪戦が待っている。しかし、同業者の業務停止処分の発表などもあって、ついに退職を決意。なんとしても会社都合退職で辞めたいと考え、それをもらうためのバトルが始まる。

◎羽田圭介 『ワタクシハ』 講談社、2011年

シューカツの最前線がよくわかる作品。「企業偏差値」や「ブラック企業」。高校時代にギタリストとして、メジャーデビューを果たした山木太郎。栄光の時期は、瞬く間に終わり、バンドはわずか1年足らずで解散。大学三年になった太郎は、周囲のシューカツに引きずられる格好で彼自身も、シューカツをスタートさせる。最初は、「元有名人=天才少年ギタリスト」としてもてはやされたことで、簡単に内定をもらえると思っていたのに、苦戦の連続……。

※はっとり ますみ※

◎服部真澄 『KATANA(カタナ)』 角川書店、2010年

◆海藻から石油に匹敵する藻油エネルギーが採れ、雑草からもバイオオイルが採れるなど、なんでも資源になることで、国々の間で奪い合うこと、戦争することが意味をなさなくなった未来でのお話。アメリカ大統領のアッカーマンは、かつて日本で豊臣秀吉が行った刀狩りを参考にして、現行の銃をいったん禁止し、致命的なダメージを与えない新タイプの銃に転換しようという壮大な計画をもくろむ。しかし、そのセカンド・ジェネレーション銃を普及させるのに、ある人物の特異な体質が問題視されることになった。

◎服部真澄 『バカラ』 文春文庫、2005年

◆違法なバカラ賭博にのめり込み、数百万円もの借金をつくってしまった週刊誌記者の志貴大希。取材費用として会社に出させた仮払いを、終始、拝借してカジノに費やしている。「カジノで百万の勝ちを経験してしまうと、金銭感覚がおかしくなっていく」。アンダーグラウンド・カジノやオンライン・カジノの実態や、カジノ合法化をめぐる陰謀にも言及されている。大スクープをものにできるのか、それとも借金で奈落の底に落とされるのか?

◎服部真澄 『ポジ・スパイラル』 光文社、2008年

◆ダム、河口堰、旧来の護岸工事。水利と防災という名のもとに天与の自浄作用を無視し、国家を上げて海を悼み続けてきた日本。海を物流に利用するために、沿岸の埋め立てや浚渫が進んだために、海藻を激変させ、漁場としての機能を低下させた。「持続可能な開発」や「温暖化」という言葉を聞かない日はないが、本書は、そうした問題を改善して、海の再生にはなにが必要かを示している。キーワードは、「軽視されていたものこそが地球を救う」。

※はまだ ふみひと※

◎浜田文人 『柵 しがらみ』 集英社、2005年

◆広告代理店の影響力を扱った作品。主人公の武田裕司は、全国第4位の東洋新聞社の記者。スポンサーのご機嫌取り、販売部数や視聴率にしか関心のないメディアに中立性や公共性など論じる資格はないと考えている。広告代理店といえば、スポンサー付きの記事や提灯記事の増加という形で、その要望は各種の記事にも及ぶ。さらには、中京万博といった巨大プロジェクトの開催にも大きな影響力を行使する。本書のメインテーマは、そうした素材を通して、会社という組織とその中での個人の関係に切り込むことである。会社に不正や問題を感じながらも、「この歳で職を失うわけにはいかない」という「地位を失うか、人生を棄てるか」という選択の問題も。

※はまの たかまさ※

◎濱野高正 『いい加減な研修期間』 新風舎、1996年

◆ソフトウエアの開発会社に入社したものの、社長の方針で一切仕事が与えられなかった主人公の新井真司。しかし、試行錯誤のなかで社内における自らの仕事を見出していく。そんなプロセスの大切さが描かれている。新入社員になる前に読むと、きっと大きな収穫を得られるだろう。

※はやし あつむ※

◎林 總 『会計課長 団達也が行く! 物語で学ぶ会計と経営』 日経BP社、2008年

◆ある部品会社を舞台に、主人公の団達也という30歳の熱血漢が試行錯誤をしながら、会計を武器にして、「循環取引」支払代金の横領、在庫を使った利益操作といった、巧妙に仕組まれた不正を正し、経営を立て直していく。管理会計の真髄が「物語」の手法で描かれている。

※はやし まりこ※

◎林 真理子 『コスメティック』 小学館、1999年

◆広告代理店の昭和エージェントで、得意先と制作者の間を結びつける役割を果たすAE(アカウント・エグゼクティブ)をしていた北村沙美。三十歳を過ぎた主人公が、フランス最大手コリーヌ化粧品の日本法人PRマネージャーに転職する。化粧品会社の内幕やキャリア・ウーマンの深層心理などがよく描かれている。

※はら さとる※

◎原 さとる 『崩落』 毎日新聞社、1980年

◆SFタッチの近未来経済小説。安い値段で大量に利用できるエネルギーが確保されれば、人類に多大な幸福がもたらされることになるのでは…。特に、エネルギーの対外依存率の高い日本にとっては。もし、そのような「夢のような話」が実現すれば、一体、どのような事態が起こるのか? 本書に登場する新しいエネルギー源とは、まだ地球上で発見されたことのない「電気石」。それで電池を作れば、電気自動車が商品化され、家庭用電気製品はすべてコードレスになり、排ガスによる大気汚染からも解放される。良いことばかりが予感させられるが、現実はまったく予期せぬことのオンパレードとなるのであった。

※ばんどう まさこ※

◎坂東眞砂子 『やっちゃれ、やっちゃれ! 独立・土佐黒潮共和国』 文藝春秋、2010年

◆財政の苦境、中山間地域の過疎化に悩む高知県で、住民投票が行われ、黒潮共和国として独立することになった。さあ、一体どうなるのか? 住民の反応、日本政府の反応、諸外国の反応はいかに? また、人々の暮らしはどうかわるのか? 戦後の自給自足的な経済に戻るのか。日本連邦への一過程なのか?

※ひさま じゅうぎ※

◎久間十義 『狂騒曲』 角川文庫、2000年

◆「まったく、どこか狂っているとしか思えない」時代。最後にババを引いた人間の数は多く、まっとうな日本人が少なかったバブルの時代。バブル景気とは何だったのか、あのときの騒ぎは何であったのかを考える場合、格好のテキストになるだろう。舞台は、1985年9月―90年3月というバブル経済の真っ只中の東京。主人公の不動産業者である鈴木恭太郎をはじめとする登場人物が、次第に、お金に麻痺していく姿が克明に描かれている。

※ひしだ しんや※

◎菱田信也(作・脚本・ノベライズ) 『再生の町』 TAC出版、2010年

◆財政難に見舞われた地方自治体の具体像がよくわかる。大阪府内の架空の町「なみはや市」を舞台に、財政再建案の作成に奮闘する市役所の職員たちの姿と、地元住民との交流を描く中で、まちづくりのあり方を問いかける作品。行政の縦割りの構造と前例主義を脱皮し、市民参加を促す道筋が示されている。NHK土曜ドラマ『再生の町』をノベライズ化したもの。脚本・執筆協力 山本雄史。

※ひろせ にき※

◎広瀬仁紀 『明日なきエリート』 廣済堂文庫、1988年

◆1980年代初め頃までは、たとえ「窓際族」と冷たく言いすてられても、少なくとも会社の屋内には居ることができた。しかし、80年代後半になると、企業に不要な人間と見なされれば、解雇という形はとらないにせよ、出向という名目で確実に会社の外に追放されるようになるだろうという予感を抱いて書かれたのが、本書に収録された25の短編である。

◎広瀬仁紀 『企業合併』 廣済堂文庫、1994年

◆二つの自動車部品メーカーの合併をめぐり、それぞれのメインバンク間の駆け引きが描かれている。本書は、81年に角川書店から発行された『合併前夜』を改題したもの。

◎広瀬仁紀 『企業内失業』 飛天文庫、1993年

◆総合商社。高学歴の社員が9割方を占める総合商社では、人件費が経営面で大きな負担となっていた。とりわけ「窓際族」と称されるようになる「中高年」の従業員に対する人件費を なんとかして「削減」することが、東和物産にとって死活的な課題となっていた。というのは、列島改造の土地ブームのなかで買い込み、処理し損なった300億円の用地を抱えていたからである。そこで、「人員整理」(強制的な「希望退職」と系列企業への配転)という荒治療に踏み切ろうとするが、社内の反発や怨嗟には激しいものがあった。結局、採られた方策とは、交際費・接待費などの不審を徹底的につくことで、指名退職者を沈黙させることであった。この戦術は成功裏に終わったが・・・。「企業内失業」とか「窓際族」といった言葉が全く意識されなかった時期に、その問題を扱った力作。1980年10月に角川文庫から発表された「最初の書き下ろしの文庫」。原題は、『解雇やむなし!』。

◎広瀬仁紀 『銀行壊滅』 講談社文庫、1981年   

◆銀行業界。銀行の合併をめぐる、政界・大物総会屋を含めたさまざまな思惑が描かれている。     

◎広瀬仁紀 『銀行消滅』 光文社文庫、1992年

◆銀行。二つの都銀間の合併をめぐるストーリー。両行頭取の駆け引きに、首相、元首相、大蔵大臣、全国銀行連合会会長、大蔵省銀行局長などの人物の思惑が交錯して展開される。頭取の女性をめぐるスキャンダルが一つの軸になっている。初刊本は、89年に天山出版から刊行。

◎広瀬仁紀 『銀行常務会零時』 角川文庫、1982年

◆銀行業界。「対等合併」とは名ばかりで、実際には都市銀行に「吸収合併」される地方銀行に勤務する人々の不安・あせりがよく描かれている。彼らの多くが、やがて合理化の対象となって周辺に追いやられていく運命にある。

◎広瀬仁紀 『銀行頭取室』 角川文庫、1980年  

◆銀行業界。大正11年に創設された亜細亜重工。戦時中は、航空機メーカー。戦後は、自動車メーカーに転身。一時は好調であったが、経営不振の状態が続いている。そこに目をつけた都市銀行の三協銀行が、同社を乗取ろうと画策を開始する。主人公は、将来の重役を夢見て、その計画の遂行に全力を投入するものの、最後には「知りすぎた者として、外国に追われてしまう」という運命を辿るエリート社員である。1978年にグリーンアロー社から刊行された初刊本は、広瀬仁紀の経済小説の第一弾に当たる。

◎広瀬仁紀 『銀行派遣役員』 徳間文庫、1983年

◆公には三千数百億となっているが、実際には一兆円近い負債を抱えて瀕死の状態にある亜細亜自動車工業(東洋工業がモデル)。そこに、メインバンクである朝日銀行(住友銀行がモデル)から役員として送り込まれた瀬谷忠雄が主人公。彼のささやかな野望が、メインバンク会長のもっと大きな野望によって粉砕するまでのプロセスが描かれている。初刊本は、78年に徳間書店から刊行。

◎広瀬仁紀 『社長追放ス!』 天山文庫、1990年

◆長期にわたり社長の座に君臨した、ワンマン社長の姿を描いた作品。ゼネラル楽器製造の創業者を父に持つ二代目の武上剛一は、36歳で社長になって以来、すでに14期28年間その座に君臨していた。彼にとっての最大の祈願は、一人息子を後継社長にすることであった。しかし、まだ36歳。少なくとも後十年ほどは、経営者としての修業を積む必要があった。ゼネラル楽器製造は、楽器の製造を主体にし、系列にオートバイ、レジャー、それらの関連企業を傘下におく一部上場の大企業になっていた。社長には、それなりの経験が不可欠であった。ところが、中継ぎ社長が有能であれば、暫定政権のつもりが、長期政権になる可能性が出てくる。大政奉還など夢に終わってしまう危険性があった。初刊本は、講談社から刊行された『社長追放』。

◎広瀬仁紀 『大銀行の内幕』 角川文庫、1983年 

◆銀行業界。都市銀行大手の頭取、次期頭取候補とみなされている常務、その部下の部長といった人物を通して、大銀行の内幕を浮き彫りにした作品。銀行業務に関する知識が多く盛り込まれている。また、広瀬が追及するサラリーマンのドス黒い「出世欲・金銭欲」が描き出されている。

◎広瀬仁紀 『大商戦』 角川文庫、1981年

◆航空機の選定に絡む疑獄事件を題材にし、政治家の腐敗や総合商社のドス黒い商戦の内幕を告発した作品。主人公は、ヤリ手の商社マンである関西商事副社長の肥後高宏。

◎広瀬仁紀 『談合』 角川文庫、1982年    

◆建設業界。銀行・鉄鋼とならんで、「政治献金の御三家」と言われる建設業界における政界との癒着・汚職・談合の世界が描かれている。本書のおもしろさは、トップをめざそうとする政治家たちの謀略と比べれば、「談合会議の駆け引きなどはかわいいものだ」という言葉に集約されている。

◎広瀬仁紀 『地価暴騰ス!』 天山文庫、1988年

◆不動産業界。大企業の巧妙な用地買収の手口が具体的にかつ見事に描かれている。暴力を用いるやり方とは違って、節税の相談にも乗りながら土地を買収していく主人公が登場する。また、実際には、土地を売る側にも、際限のない欲にまかせて値段を吊り上げていくという傾向があり、それも土地高騰の責任の一端を担っているという事実についても叙述されている。本書には、中編の表題作のほか、三つの短編が収録されている。

◎広瀬仁紀 『定年退職ヲ命ズ!』 天山文庫、1991年

◆総合商社。1948(昭和23)年、鉄鋼財の専門商社である東亜物産に入社した四人の男たちが、「花の23年組」と言われるエリートコースを歩みながら各分野で活躍する。物語は、彼らのサラリーマン人生を定年直前に振り返えるという形で、戦後復興期・高度成長期・低成長期と連なっていく、戦後の日本経済と商社活動の歴史を見事に描いている。ライバル意識と友情が絡み合うなかで展開される、出世競争・挫折・家庭環境の叙述にも大変興味が注がれる。

◎広瀬仁紀 『乗取り屋』 上下巻、光文社文庫、1988年

◆横井英樹による名門百貨店白木屋の乗っ取り事件を描いた作品に、城山三郎の『乗取り』がある。本書の主人公である榊原文麿のモデルも同じ横井である。白木屋(本の中では伊丹屋百貨店)の乗っ取りに至る過程、その後「ホテル・ニュージャパン」(本の中ではホテル・ニュー赤坂)の経営者になるが、82年2月にそのホテルが火災に見舞われる。電動の非常警報装置も、スプリンクラーも装備されておらず、33名の死者を出すという大惨事を招くに至ったプロセスを克明に描いている。東急グループの創設者である五島慶太をモデルにした瀬島魁太、小佐野賢治をモデルにした沢野賢吉、児玉誉士夫をモデルにした古垣機山などの人物が登場し、榊原との関係が浮き彫りにされている。初刊本は、84年に光文社のカッパ・ノベルズから刊行。

◎広瀬仁紀 『飛竜の如く 小説五島慶太』 光文社文庫、1996年

◆東急グループの創設者である五島慶太の生涯を描いた伝記小説。初刊本は、85年にカッパ・ノベルズ(光文社)から刊行。

◎広瀬仁紀 『ファイナル・ラウンド』 角川文庫、1979年

◆日米貿易摩擦・自動車戦争の裏側で策動を行うアメリカ海外情報局の動き。それとリンクしながら、折からの国内需要の低迷と20%もの輸出制限による窮地からの脱出を図る自動車メーカー。メインバンクである大同銀行からの口出しを排し、アメリカのコングロマリットであるオリバー社(シュミット財閥の持株会社)との資本提携を企てつつ、現地工場を始動させようとする日本の大手自動車メーカー富国自動車工業の動向を浮き彫りにしている。

◎広瀬仁紀 『ベンチャービジネスの神話』 光文社文庫、1984年 

◆コンピューター業界。コンピュータのハードとソフトを組み合わせたような業務を行うある企業の社長を主人公にして、ベンチャー企業が直面する諸問題(例えば、ハード、つまり生産部門を持たないこと)を浮き彫りにしている。

◎広瀬仁紀 『ホテル企画室』 廣済堂文庫、1989年

◆ホテル業界。1964年の東京オリンピックをめざした「第一次ホテルブーム」、70年の大阪万国博をめざした「第二次ホテルブーム」を経て、オイルショックから80年代にかけての「第三次ホテルブーム」のなかで、パーティー・宴会の新規開拓に励むホテルマンたち。ホテルの収支のなかで、「全体の40%以上を占めるのが、各種食堂、バー、宴会場での食事といった飲料収入であり、宿泊収入は20%程度しかない」と言われているからである。要するに、「結婚披露宴やら企業関係パーティで稼がないことには、とても黒字経営は望めないということであった」。しかしなから、この本に出てくる新設の「企画プロモーション部第二課」に配属されたのは、課長と係長を除けば、入社三年以内の「問題児」であり、「新人類」と呼ばれる若い6人の社員だけであった。彼らは、「鬼」のような常務のほか、課長・係長の厳しいながらも、あたたかい指導のもとで、立派な営業マンに育っていくわけであるが、そのプロセスが痛快である。「新人類」たちもなかなか捨てたものではない、という著者の主張が伝わってくる。著者の広瀬にしては珍しく「ユーモラスなタッチで描かれている」。原題は,1987年に廣済堂出版から刊行された『鬼が棲むホテル』。

◎広瀬仁紀 『本日倒産す』 徳間文庫、1984年

◆ホテル業界。一代で巨大な観光コンツエルンを築き上げたワンマン会長とその娘婿に当たる社長との確執、二流大学卒というコンプレックスに悩みながらも、入社七年目にしてエリート部門と目されるセールス課(担当会社に出入りして、宴会・パーティの注文を取ってくるセクション)の係長の座を射止めたサラリーマン(1971年入社)の活動が話の軸。ホテル東亜が低成長期に当たる1978年前後の時期に資金繰りの不安からメインバンクの策謀によって外資系の世界的なホテル・チェーンであるワールド・インに突如として買収されるまでのプロセスを描いた作品。ホテルの業務、宴会・パーティ獲得のための激しい競争などにも言及されている。初刊本は、78年に徳間書店から刊行。

◎広瀬仁紀 『野望の構図』 文春文庫、1984年  

◆50万人の会員を擁する悪徳な新興宗教と公害企業を相手に、辣腕家の弁護士が、つ いに、公害病の専門病院を建てるまでを描いている。初刊本は、80年に文芸春秋から刊行。

※ふかい りつお※

◎深井律夫 『連戦連敗』 角川書店、2010年

◆日中関係の関係者には必読本。フィルム業界。「日中が協力すれば世界最強」というのが主人公の信念。日本産業銀行上海支店の江草正一は、中国投資家で日本企業の中国進出をサポートしている。日本のフィルムメーカー・浅間フィルムは、従来型の写真(銀塩)フィルム生き残りをかけ、最後の市場を中国に求めようとする。それに対して、アメリカのウエスティンフィルムが妨害工作を本格化させる。巨大市場をめぐる熾烈なバトルが火ぶたを切る。

※ふかだ ゆうすけ※

◎深田佑介 『炎熱商人』 上下巻、文春文庫、1984年     

◆総合商社。フィリピンが舞台。ラワン材の輸入に奔走する日本商社マンの活動を軸に、国際ビジネスの最前線が描かれている。日本社会の「国際化」が話題になり始めたのは、1970年代以降のことであるが、国際社会との付き合いはそれほど簡単なものではない。本書のなかにも、国際感覚の全く欠如した人物が登場する。著者は、国際化という課題に直面し苦悩する日本人の姿を、冷徹な目でクールに描き出している。戦時中の日本人と現在の日本人を登場させることによって日本人の考え方の原点を浮き彫りにさせながら、フィリピン人と日本人との考え方の違いを鮮明にさせている。第87回直木賞受賞作。かつてNHKのドラマ・スペシャルで放映されたことがある。

◎深田祐介 『男たちの前線』 新潮社、1981年

◆インドとアラスカを舞台に、それぞれの土地で活躍する日本人の仕事ぶりを通して、「日本人とはなにか」というテーマに即した二つの作品を収録している。「インド反乱支店」では、西インドにある総合商社安忠物産の支店に赴任した商社マンとその妻−インドに思い焦がれ、「インディラちゃん」という仇名を有している−の現地で遭遇した出来事がユーモラスなタッチで描かれている。現地の風習も。独断的な支店長とその妻が引き起こす問題とは。「アラスカの喇叭」では、アンカレッジで機内食を提供する国際食品という、いわばお弁当会社を運営する日本人社長と総務マネージャの仕事ぶりと苦労が描かれている。

深田佑介 『革命商人』 上下巻、新潮文庫、1979年    

◆総合商社。アジェンダ政権の誕生(1970年)から崩壊までのほぼ三年間余りを射程に、チリで暗躍する日本商社の活動を描いている。当該期におけるチリの国情、駐在員の 生活ぶり、アジェンダ大統領の誕生を阻止するためのアメリカ政府・CIAの活動、彼のもとで実施された国有化・農地改革・大幅賃上げなどの改革などにも触れている。初刊本は、79年に新潮社から刊行。

◎深田佑介 『仮面海峡』 文春文庫、1994年

◆アジアを舞台に展開される商魂と策謀。三ケ月前の父の急死で、ある中堅企業の社長のポストに ついた31歳の主人公。彼のもとに、機械の輸出国である韓国の会社に勤める女子労働者が訪ねてきた。機械の調子が悪く、そのために仕事がなくなったというのである。そこで、常務と一緒に韓国へ出向くのであるがトラブルに巻き込まれていく・・・。そうしたストーリーが展開される表題作のほか、タイ・香港・マレーシア・中国それぞれを舞台とする四つの短編小説が収録されている。

◎深田祐介 『神鷲(ガルーダ)商人』 上下巻、新潮文庫、1990年

◆商社。1958年に総額803億円にのぼる対インドネシア賠償協定が成立した。スカルノ大統領に対して、女性を世話することで賠償貿易を有利に展開しようとする岩下商店(木下通商がモデル)と東邦商事(東日貿易がモデル)の競争を軸にしている。スカルノ(「彼に とって、日本女性は若い時分から夢」であった)に慕われた根本七保子(デビ夫人がモデル)の生い立ち、58年当時のジャカルタの様子、スカルノの生い立ち、インドネシアの国内情勢とその変化、賠償の実際の使われ方、65年の「9・30事件」によってスカルノからスハルトへと政権の移譲が行われる過程、などがダイナミックなタッチで浮き彫りにされている。初刊本は、87年に新潮社から刊行。

◎深田祐介 『トップスチュワーデス物語』 集英社、1990年

◆スチュワーデスを主人公にした二つの話から構成。極東航空客室乗員部には、二大奇人というのがあり、男のヤタロー、女のウタゲといって、スチュワーデスたちに怖れられたパーサーがいる。両人とも仕事の鬼で、厳しさでは甲乙つけ難く、同じグループに配属された途端、ショックで病院送りになった者もいるとか。第一話「トップスチュワーデス」には「ウタゲ」、第二話「なまいきスチュワーデス」には「ヤタロー」が登場する。機内で起るさまざまなトラブルとそれに対するスチュワーデスたちの奮闘振りが描かれている。また、徹底したサービスを行うには、いかなる条件が必要なのかを考えさせられる

◎深田佑介 『日本悪妻に乾杯』 文春文庫、1981年

◆海外駐在員の生活。頭文字を採って「ロベルト」と言われるローマ・ベルリン・東京の三点を 結ぶ宇宙中継番組が縁で、女優と結婚することになった二流電機メーカーの宣伝マンがニューヨークに転勤となり、現地で遭遇する哀歓を描いた作品。初刊本は、78年に文藝春秋から刊行。

◎深田佑介 『バンコク喪服支店』 文春文庫、1989年

◆タイ三愛レイヨンでは、時間がゆったり流れていた。社長自ら現地に溶け込んだ生活を楽しんでいた。しかし、東京の本社から野心的な役員が派遣されてから、何かが変わり始めた。タイの流儀を無視して、日本式の勤務スタイルを現地人にも押し付けようとしたからである。それに抗議する意味で、従業員たちは、本社からやってきた副社長臨席の朝礼に喪服を着用して出席することにした。現地で採用された日本人女性の目から見たタイの日本人企業を、ユーモラスなタッチで描いた表題作(初刊本は、1987年に文藝春秋ら刊行)のほか、ダイエーによる肉牛輸入をモデルにした「火牛の海」、戦争中の政府軍とゲリラ隊の「合同コンサート」を組織した商社マンの話である「ミンダナオ最前線」、という二つの短編小説が含まれている。

※ふくざわ てつぞう※

◎福澤徹三 『Iターン』 文藝春秋、2010年

◆リストラ寸前のサラリーマンが片道切符の単身赴任を余儀なくされる。待っていたのは、借金地獄とヤクザの杯。悲惨のち爆笑小説か? 大宣という中堅広告代理店の課長狛江光雄(47歳)は、北九州支店の支店長になる。しかし、同支店は業績不振で、閉鎖の噂があり、部下は2人だけ。早い話がリストラを見越した左遷であった。

※ふくだかずよ※

◎福田和代 『オーディンの鴉(からす)』 朝日新聞出版、2010年

◆底知れないインターネット社会の闇が描かれている。まるで魔女狩りのような恐ろしさ。閣僚入り間近の国会議員矢島誠一が謎の自殺を遂げる。東京地検の家宅捜査の直前というタイミングであった。真相を追う東京地検特捜部の湯浅雅彦(37歳)と、最若手の安見慎也は、ネット上に溢れる矢島を誹謗する写真や動画、そして、他人が決して知りえるはずのない、彼の行動記録までも目にすることになる。

※ほうじょう こういち※

◎北條恒一 『小説脱税』 ダイヤモンド社、1978年

◆計測用機械の専門商社では、ちょっとした中堅企業になっていた近田商事。そのワンマン社長である近田信二は、脱税の常習犯。巧みな脱税工作によって、それなりの蓄財をしている。しかし、国税局調査部が目を付けていることを知る由もない。脱税をする方と取り締まる方。両者の攻防が興味深く描かれている。巻末に、「実録脱税事件」という「解説」があり、いくつかの事例が紹介されている。

※ほうづき こう※

◎峰月 皓 『俺たちのコンビニ 新米店長と仲間たち』 メディアワークス文庫、2011年

◆『俺のコンビニ』の続編。念願のコンビニを立ち上げた良平。しかし、厳しい現実が待ち受けていた。画一化を図ろうとするチェーン店の本部の思惑とオリジナルな店づくりをめざそうとする店長の思惑。高校生のアルバイト店員が起こした事件がきっかけに、ただでさえ少ない客足が激変し、閉店の危機に直面する。良平たちが打ち出した策とはなにか? 

※ほその やすひろ※

◎細野康弘 『小説 会計監査』 東洋経済新報社、2007年

◆巨大監査法人はなぜ崩壊したのか? 中央青山監査法人に身を置いていた著者は小説の形でその真相を明らかにしている。国内最大手の監査法人であるセントラル監査法人に入所し、38年目に役職定年になった公認会計士の勝舜一(63歳)が、最近起こった、幾つかの経済事件を回顧するなかで、会計監査が直面している諸問題を浮き彫りにしていく。やさしい現代日本経済・経営論でもある。

※ほった よしえ※

◎堀田善衛 『19階日本横丁』 集英社文庫、1977年

◆総合商社。社会主義圏のある都市で日本工業製品展示会が開催されることになり、ロンドン、パリ、シンガポール、カルカッタなどから商社マンたちが集まって来ることになった。場所は、日本の商社マンとその家族によって「占領」されている29階建ての巨大なホテルの19階である。日本の国家予算の二倍にも及ぶ売上高を誇る総合商社の世界が、少しユーモラスなタッチで描かれている。

※ほりえ たかふみ※

◎堀江貴文 『成金』 徳間書店、2011年

◆「世界に風穴をあけるぞ」。90年代のビジネスモデルからの脱却を模索した作品。ホリエモンの小説第二弾。舞台は1999年の渋谷。ITを武器に成り金を夢見た人たちの姿が描かれていく。PCオタク、元カリスマ青年実業家、女子大生などが集うチームアッカ(AKKA)がIT業界の雄・株式会社LIGTH通信の乗っ取りに挑む。

※ほんしょ じろう※

◎本所次郎 『暴かれた航空機商戦 金色の翼』 上下巻、角川文庫、1986年

◆日本の航空会社は、アメリカの航空機をいかに選定するのか。アメリカの航空機メーカ ーと日本の商社間で繰り広げられる、政治家たちをも巻き込んだ激しい商戦の実態を抉り出した力作。高度成長期における日本の航空会社の実態、政府の航空行政の変遷、日航に対する後発の全日空のコンプレックス、航空自衛隊の機種選定に絡む政治家たちの打算・暗躍。その他、1976年に発覚したロッキード事件の内実が見事に描写されている。主人公は、全日空社長の若狭得治をモデルにした全日航の山野良一。

◎本所次郎 『カード詐欺団』 徳間文庫、1999年

◆法律の盲点を巧みに突いた隙間産業というか、裏ビジネスというか、虚業の世界を扱った「カード詐欺団」「開設屋」「紹介屋」という三つの短編小説を中心に、全部で8つの短編が所収されている。商社で働いているごく普通のOLが、ちょっとアルバイトしない、この「カードでお買い物をして欲しいのよ」という同僚からの誘いに乗って、犯罪に巻き込まれていく表題作のカード詐欺をはじめ、こんなビジネスがあるのかと感心さえしてしまうほどである。

◎本所次郎 『仮面銀行』 光文社文庫、1997年

◆かつて、不正・情実融資、乱脈経営、複雑で根深い「お家騒動」の舞台となった平和相互銀行。住友銀行による同行の吸収合併工作をモデルにした作品。前者は光和相互銀行、後者は住井銀行として登場する。「バブル時代に発生したすべての金融事件の源」、と本所が指摘した平和相互銀行事件の解明は、興味深いテーマである。また、銀行の自主再建をめざして大蔵省や日銀に協力するものの、最後は、自分たちの勤める銀行を大手都銀に吸収される事態を招くという、中間管理職の男たちの悲哀・挫折を描いた作品でもある。

◎本所次郎 『企業舎弟』 徳間文庫、1997年

◆金儲け主義がはびこったバブル期の一つの特徴に、企業舎弟こと経済ヤクザが、主に地上げ屋の活動やマネーゲームへの参加という形で、経済活動のいわば表舞台に登場し、大きな経済力を身につけたことがある。それに対して、93年3月から暴対法が施行され、資金源への取り締まりが強化され、指定暴力団がその威力を示して行う一切の営業活動を禁止している。ところが、表面の活動を禁止された暴力団は、その裏では、組の看板をはずしてごく普通の会社を装い、より巧妙なやり方で暗黒街に根を張り続けているとも言われている。例えば、売春による恐喝、仕手グループと結託した特定企業の株の買い占め、グリーンメイル(買い取り)に応じさせるやり方、当座預金の口座を開設したあとで小切手を乱発し、不渡りにさせるという詐欺、その日の事務処理に追われ、現場が戦場と化す閉店間際の混雑期を狙って口座の開設を行い、事務処理のミスを誘って因縁をつけるやり方など、企業舎弟がどのようにして企業にアクセスしていくのかが描かれている。初刊本は、92年に立風書房から刊行。

◎本所次郎 『虚々実々』 光文社文庫、1995年 

◆航空業界。日本航空がモデル。運輸省からの天下りによる「官僚派」と、生え抜きの「民族派」の間で展開されるトップ人事をめぐる抗争や民営化をめぐる駆け引きが、御巣鷹山のジャンボ機の墜落事故とも絡まって、話の中心的な軸になっている。初刊本は、91年に光文社から刊行。

◎本所次郎 『銀行芝居』 徳間文庫、1996年

◆銀行。1996年3月に消滅が決定した太平洋銀行の前身である第一相互銀行(当時の社長は小林千弘)をイメージモデルにして、「絵ころがし」による裏金作りの実態を描いている。原題は『絵ころがしの罠』(世界文化社、1992年)。

◎本所次郎 『極道相場 小説公的資金の内幕』 立風書房、1995年

◆「お客を一人殺さないと、一人前の営業マンとはいえない」。それは、古くから証券業界に根付いた格言である。ところで、「株式売買は自己責任が原則」と言われるが、バブル期には、過大なノルマを課せられた証券マンの騙しによって、巨額の損失を被った人々も多かった。物語は、そんな顧客の一人であったある老婆が、大手四大証券の一社である山大証券本店の玄関前で凍死したシーンから始まる。大企業に損失補填をして人々の証券会社離れを促したのは周知のことだが、個人に損失補填を行ったケースは皆無である。

◎本所次郎 『小説日銀管理』 光文社文庫、1996年

◆戦後まもなくの「ドッジ不況」のさなか、全国の倒産件数がウナギのぼりになっていた頃。売れないトラックの在庫を大量に抱えていたトヨタ自動車は深刻な経営危機に直面する。しかし、日銀がそれを救済するようになる「隠された事情」とはなにか?また、プリンスがトヨタ ではなく、日産と合併するに至った理由とは?

◎本所次郎 『ソフト技術者の反乱』 講談社文庫、1994年

◆1970年に三井グループの共同出資による三井情報開発(MKI)を設立。瞬く間に業界二位の会社に急成長させたが、親会社の批判を受け、78年に代表権が剥奪される。翌79年に56人の社員を連れて退社。その退職金を集めて、日本ナリッジインダストリ(JKI)を創設した西尾出をモデルにした作品。原題は、90年に講談社から刊行された『大いなる志−ソフト技術者の反乱』。

◎本所次郎 『鉄砲』 立風書房、1993年

◆コンピュータ取引を悪用したり、架空名義のダブル株の活用をしたりしながら、鉄砲(一発勝負で分不相応な注文を出したが大損し、清算できずに姿をくらます。要するに注文の出しっ放しで責任をとらない行為を、撃ちっ放しの鉄砲の弾にかけたものである。数年前から、暴力団、地上げ屋、政治家のグループが売買を交錯させて意図的にこれをやるようになった。注文を受けた証券会社や歩合外務員がその損害をかぶることになる)を企てようとする、悪質で大がかりな詐欺グループ。それに対して、「最後の相場師」の異名をとる鬼頭夢十の頭脳を軸に、本所作品でお馴染みの新聞記者・数馬竜太と弁護士・小室由加里のコンビ、それに兜町(その昔、運河に囲まれた島であったことからシマと呼ばれる)にある黒田証券三代目の黒田清一郎、警察、23社の証券会社首脳などの協力で、相場を駆使した闘いが行われる。   

◎本所次郎 『転覆』 講談社文庫、1982年

◆海運業界。1963年の「海運再建二法」をベースに、不況下にあった海運業を再建するため、合併と系列化を進める。そして、その集約化に参加した会社にだけ、計画造船資金の政府融資比率が大きく認められ、利子補給を行う。いわゆる64年の海運再編成によって、海運業界が六つの中核会社に集約されたことは、周知の事実である。ところが、三光汽船(社長は、創業者であり大株主でもある河本敏夫衆議院議員)は、その集約化には参加せず、一匹狼として行動することを選んだ。その三光汽船に狙われたのが、中核6社の一角を占めるジャパンラインである。本書は、三光汽船によるジャパンライン株の買い占め事件がモデル。1971年10月頃からの買い占めのプロセス(最終的には42%を買い占めている)から、児玉誉士夫と目される人物による仲介(脅かしも含む)の成立に至るまでの過程を克明に描写している。実名小説ではないが、登場人物のモデルをそれとなく連想することができる。初刊本は、80年に日本列島出版から刊行された『男たちの闘い』。経済小説としては、デビュー作に当たる。

◎本所次郎 『頭取の影武者 小説「徳陽シティ」破綻の真相』 徳間文庫、1998年

◆乱脈融資のために一千億円近い不良債権を抱え込んだ、徳陽シティ銀行(仙台市)の救済をめざして、北日本銀行(盛岡市)、殖産銀行(山形市)、徳陽シティ銀行の三行を合併させる計画が、OBを絡めた大蔵省、日銀、東北財務局の手によって企てられた。というのは、破綻の危機に瀕していたほかの第二地銀とは異なって、徳陽には、再建を主導することを口実に、大蔵省や日銀のOBが送り込まれていたので、両者のメンツにかけても、徳陽シティ銀行を破綻させることはできなかったのである。ところが、その合併話は、最後の最後にとん挫してしまう。94年6月のことであった。本書は、そうしたプロセスを描いたドキュメンタリー・ノベル。

◎本所次郎 『安売り一代 秋葉原 闇の仕事師』 徳間文庫、2000年

◆秋葉原の「闇の帝王」と呼ばれ、秋葉原にパソコン・ブームを引き起こした、マヤ電機の経営者こと、竹川博久が主人公。御徒町の多慶屋、渋谷の城南電機、行徳のステップといった安売り屋とは異なって、一度も「お客様のために」という言葉を口にしない。山あり谷ありの竹川の半生を冷徹な目でドキュメント・タッチに描いた作品。家電流通の裏側が見事に浮き彫りにされている。初刊本は、97年に立風書房から刊行。

◎本所次郎 『夢を喰らう 大テーマパーク騒動記』 徳間文庫、1999年

◆この小説は、現在は一流企業に成長したドリームランド社(オリエンタルランド社がモデル)が、東京デージーランド(ディズニーランドがモデル)を作っていった紆余曲折の経緯を、主に裏の側面から描いた作品である。今でこそ、日本最大のテーマパークになっているが、本書を読めば、この「夢の国」は、まかり間違えば住宅分譲地になる可能性が大であったことがよく理解できる。初刊本は、1994年に徳間書店から刊行。

※ほんだ ありあけ※

◎本田有明 『おれたちが会社を変える!』 日本経済新聞社、2002年

◆著者の本田有明(ほんだ ありあけ)は、現職の経営コンサルタント。コンサルティングの場で用いている「自社改革の取り組みステップ」の手法が骨格になっている。衰退しかかった老舗の出版社を改革するために、3人のリストラ予備軍の活躍が開始される。しかし、次から次へと改革の動きを遮る壁にぶつかる。社内の慣行・機構や過去のしがらみ、オーナー会長の思い込み・・・。それらの難関を少しずつ克服していくプロセスが面白い。ところで、3人のリストラ予備軍が、様々な苦悩を抱え込んでまで、企業の再生をめざしたのは、なぜか。リストラの対象者にならないためか、それとも、会社に対する愛着の強さのためか。いや、そうではない。それは、社内を活性化する中で、自分自身の働き甲斐・生きがいを見出していったからである。