・アルプスの景色はどこも壮大だった。季節を過ぎていたとは言え、高山植物をいくつも見ることもできた。けれども、動物を見かけることが少ないのは意外だった。鳴き声をよく聞いたのはマーモットだけだったし、他には雨上がりの朝にいっぱいいた黒いアルプス山椒魚ぐらいだった。鳥もくちばしの黄色いカラスと雀だけ。一見自然に見えるけれども、人の手がものすごく入っているし、現在はその保護に熱心でも、すでに乱獲して絶滅させてしまった生き物がたくさんある。のどかな牧草地が広がる風景も、おそらく数世紀前には鬱蒼とした森だったはずで、アイガーの中を掘って3500mまで鉄道を作ってから今年で100年になることとあわせて、現在のアルプスが人間にとって好ましいものへの作りかえや再生であることをつくづくと感じた。
・今夏のアルプスは観測史上最高の暑さで山頂の氷河もずくずくに溶けていた。その石灰岩を砕いて白く濁った冷水が流れる川には厚い霧がかかっていた。その流れを見ながら、アルプスの氷河はあとどのくらい持つのだろうかと思った。
・今回のツアーは山小屋とホテルに4泊ずつの行程で、一日平均10km前後を歩いたから、全部では7~80kmを歩いたことになる。上り下りのくり返しだから相当きつかったが、観光旅行では見えない世界をずいぶんたくさん経験することができた。街歩きもいいけど山歩きもなかなかいい。今見ておかないとなくなってしまう景色もたくさんあるに違いない。さて次はどこに行こうか。帰ったばかりなのに、もうそんなことを考えたりもしている。
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