<教育方法コメント(4)>


第四回:テーマ【わたしの授業のアイディア】



 
 授業のアイディアを書くという課題。難しかったみたいですが、皆さんよく格闘していました。授業を受ける立場と授業を創る立場の間には、ものすごいギャップがあります。教職をとるということは、教育実習を通して授業を創る立場を経験するということです。教育実習はまだまだ先のことと思っていても、あっという間にやってきます。そのとき、突如あわてて準備するのではなく、日頃からこんな授業をやってみたい、こんなことを生徒に教えてみたい、こんなことを生徒とともに学んでみたいと考えることが一番の準備なのです。アイディアは思いつきであってもかまわないし、素朴なものであってもかまいません。授業は、ちょうど料理と似ています。自分のお金(もっているもの)で買える食材(アイディア)を集め、調理して(授業案を創って)味わう(授業をしてみる)。お金(もっているもの)が足りなかったら、働いて(図書館などで調べたり、学んだりして)、新たな食材(アイディア)を集めてくる。スパイスや調味料、さらには食卓のセッティング、飾り、食器へのこだわりなどで、料理のおいしさはぐんと違ってくるでしょう。また、誰と食べるかということもとても重要なポイントです。はじめから料理がうまくできる人なんてどこにもいません。それと同じように、はじめから授業がうまくできる人もどこにもいません。一生懸命準備してみて、失敗をして、そこから学んでいくのです。トライと失敗を重ねるうちに、自分なりのスタイルというのができあがってくるものです。今日は、わたしが授業のアイディアを考えてきました。皆さんを高校生に見立てて、トライしてみようと思います。皆さんは、自分だったらどんな授業を組み立てるか考えながら、参加してください。

(1) 皆さんの授業のアイディア集

 《正統派》

・「私は公民科の免許をとろうと思っているので、資本主義社会についての授業をやろうと思っています。資本主義社会の基本は売り手と買い手、つまり需要と供給だと思います。そこで資本主義社会の知識についてのバックグラウンドを説明した後で、身近な商行為について生徒に考えてもらおうと思います。例えば、売春は何を売って金を得るのか、アルバイトは何を売って金を得るのか、などのことです。」(とく名希望さん)
 →これはおもしろい。経済大学で学んだことを生かして、いい授業ができそうですね。とくに「売春は何を売って金を得るのか、アルバイトは何を売って金を得るのか」というような問いは、アイディアの域をこえて、もう授業の仕掛けの域にまで入っています。それに、高校生にとって生きるとは何かにつながっていく学びができそうで、質の高いアイディアだと思います。
・「海外ドラマの『ビバリーヒルズ高校白書』の話にピストル問題、エイズ問題、人種差別問題、麻薬問題、盗みの問題などいろいろな話題がでてくるので、この中のどれか1つの問題を選び、調べる。授業では、ビデオを見せ、感想をいってもらい、その問題について、みんなで話し合い、考える。またはアメリカと日本の文化のちがいについて考える。」(橙さん)
・「まずテーマは、“平和と武力はつり合うのか?”というもの。平和といえば、ガンジー、ガンジーといえば、インド、インドといえば、カレー、カレーはごはん(メインの料理)かおかずか?という所から、“じゃあ、お好み焼きをおかずにごはんを食べるのは変かどうか?”という所までもっていき、ところでお好み焼きといえば広島、広島といえば原爆、というわけで、今話題のインドの核実験について話してみる。」(Nさん)
→軽快なテンポな魅力。
・「タイタニックの映画で、脱出するときに身分層の高い人ばかりが助かった事を題にして、差別問題について考える。」(Tさん)
・「私は、去年大阪を中心に近畿地方を旅行してきた。だから私は近畿地方を旅行してきた。だから私は近畿地方がどのような形で発展してきたのか、政治、経済、文化などさまざまな面から見つめた授業はどうかなと考える。主に豊臣秀吉以降の時代を中心にしていけばよいと思う。」(Aさん)
・「どんな人でも興味ありそうな話題というところで、食べ物に関することなどで話を引っぱってくるのはどうでしょうか?ex.砂糖、ココアの話→植民地支配 etc.」(Mさん)
・「ダイムラーベンツとクライスラー社の合併に触れ、そこから車の歴史から現代の車による騒音公害にまで発展させる。」(Iさん)
・「自分が思いつくアイディアは、日本人の祖先はどこから来たのかというのをテーマにしてみたい。遺跡発掘が近年、多くがあるが、それらを関連づけて歴史を話してみたい。」(Oさん)


 《実存派》

・「X−JAPANのHIDEが突然この世からいなくなった。実家に帰っていたぼくは『X−JAPANのメンバーが死んだ』というTVのニュースをきいた。ぼくは『YOSHIKI、ついにやったな』とそのとき思った。YOSHIKIは何かの本に『31さいで死ぬ』と語っていたからだ。ぼくの弟は、ボーカルのTOSHIが解散のショックをひきずって死んだのでは?と思ったらしい。『HIDE』ときいて、ぼくらはア然とした。あのHIDEか?あのトチ狂いそうなバンドでただ一人、クールでやさしかった。おまけにソロでもすごく売れまくっていたのに…弟は病気の少女を思いやるHIDEの話をきいて、HIDEのファンになった。命の大切さを知っていたはずのHIDEがなんで自殺?…さようならX−JAPAN。HIDEの死を教訓にファンもそうでない人も命の大切さを知ってほしい。自殺するよりも生きてゆくことのほうがずっとむずかしいが、死んで悲しむ人間がたくさんいるのだから、自殺はやっぱりしちゃいけないと思う。」(Iさん)
・「<X−JAPAN HIDEの死> 僕は中1の頃からのXのファンで今までの生活でとても影響を受けて、励まされたのでこれを選びました。授業の内容は、HIDEの歌詞の世界などを紹介したり、HIDEが行っていた骨髄バンク運動などを絡めて、一生懸命生きて、そして自ら命を断つまでの彼の人生を通して、生きるとは何か、死とは何かを伝えたいと思います。また音楽の持つ力についても考えたいと思う。」(Wさん)
→HIDEへの思いが伝わってきました。生きること、死ぬことについて、ときには、中学生、高校生に語れる教師であってほしいと思います。
・「将来の夢(大学進学、スポーツ選手、料理人など)を考えた上で、今やらなければいけないこと」(Kさん)
・「<人間について> 人間が一人一人違っているということを知ったのは、小学生低学年の頃でした。クラスの女の子について話していた時、『○○さんが好き』という子がいれば、『△△さんが好き』という子がいたり、『××さんが好き』という子までいた。私は、全ての男の子が『○○さんが好きだ』と思い込んでいた。その時に、人間一人一人全く違うと思った。」(Sさん)
→鮮烈な自己発見の経験ですね。
・「僕は18年間の中で、様々な学問を学び、そしてこれから学ぼうとしていますが、どこへ行っても、決して学ぶ(教わる)ことのできないものがあります。それは『恋愛について』です。…恋愛とは何か(どこからが恋愛になるのか)を筆頭に、男と女の考え方の違いや結婚の問題、そして売春や援助交際、ロリコンや同性愛など、単なるつきあいが何だではなく、いろいろなことを教材を通して教えるのではなく、参加者全員で考える」(Aさん)

 《環境派》

・「私は埼玉県所沢市に住んでいるので、やはり身近な問題であるダイオキシンについての授業案を作ろうと思います。今年の4月から所沢市は、燃えるゴミ、燃やさないゴミ、プラスチックゴミ、ビン・カンなどに分かれました。私も母と一緒に、地区のゴミ処理の説明会にでたりして、話しをききました。最初は、なんだかすごくめんどくさい気がしましたが、今では“分けなければいけない”という意識が私の中であります。やはり大きな社会問題でも、1人1人の意識がとても大切だと思いました。そして、大学に入って気づいたことは、ゴミの分別をきちんと行っている地域に住んでいる人たちは、分別をきちんとやろうという意識があるのに、普段ダイオキシンとかをTVとかでしかみない人たちは、まだ他人事のように思っているんだなあと思いました。だから、もっともっと、ゴミの知識など、これからの若い世代の人達にうえつけなければいけないと思いました。」(Yさん)
・「<便利になる日本について> エアコンや車など最近では生活にかかせない物を取り上げ、その便利になった生活の引き起こす悪影響(資源の無駄遣い、大気汚染などの公害問題)などを話し合い、どうすることが本当に一番良いかを話し合う。」(西沢亮太さん)
・「<リサイクル> 世界の資源問題、企業の活動、ゴミ問題」(Oさん)

 《音楽・スポーツ派》

・「僕はあまりかたくるしい話題ではなくて、みんなが簡単に話せることで、そこから深くほり下げていきたい。それがスポーツのことでもゲームや音楽、何でもいいと思います。」(Oさん)
・「僕は音楽が好きなので、音楽を通して、何かを伝えたい。歌うこと、何か楽器を弾くこと、それぞれその人の持ち味みたいなものがでると思う。それを発見してあげて、そこからでてくる長所を伸ばすことを手伝ってあげたい。」(Oさん)
・「私は中学社会科の教師をめざしているので、社会科とからむ内容のものかなあ、と思っています。プリントのアイディア例とかぶりますが、ワールドカップをとり上げたいと思っています。これによって起こる経済効果や民族問題、また上位にくいこんだ国の話など、あらゆる話が展開できると思うからです。スポーツを通して、感動を知ることができるし、内容は決して薄いものではないと思います。」(Mさん)
・「2002年に日韓共同でサッカー・ワールド・カップが開催されることとなったが共同開催は初めてのことであり、共同開催に至るには、日韓の政治的背景が見え隠れすると思うので、これをテーマに近現代の日本が韓国(朝鮮)にとってきた軽率な行動を考える。」(Sさん)
・「サッカーくじをやることで街中にギャンブルがはやりはじめ、本来の目的とちがうものが生まれてしまうのではないか、はたしてサッカーくじは本当の娯楽として広まるのかを話しあう。」(Sさん)
・「僕はプロレスが大好きです。…その裏には、興行をするために様々な人達がアイディアを出しています。プロレスと授業は関係がないですが、プロレスをテーマに経済について勉強したいと思います。」(Tさん)
・「自分が教育実習を行うにあたって、すでにいくつかネタを考えて、授業のシュミレーションを頭の中でやったりしている。例えば、自分が得意で高校生も興味をもっているスノーボードの話をする。ボーダーは五輪のドーピングで失格になったり、ガラ悪いなどと思われがちだが、決してそんなことはなく、みんな一生懸命上手くなりたいと思ってやっていることや、外見だけで判断してほしくないところに、現代の子どもたちと大人との関係を照らし合わせて話し合っていこうと考えた。」(Sさん)


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