『夢野一族』
多田茂治(三一書房、1997)
帯に「明治・大正・昭和を駆け抜けた夢野久作と父杉山茂丸、三人の息子たち。日本の近・現代を貫く杉山家三代の光芒が閃く」とあるこの本は、福岡のアウトロー杉山茂丸以下三代の歴史を追った本である。そもそも『ドグラマグラ』というとてつもないおどろおどろしい心理小説を書き上げた作家夢野久作の父が、玄洋社を創立した頭山満と並ぶ明治期の右翼巨頭の1人杉山茂丸であると知ったときに、衝撃を受けた。さらに玄洋社は当初自由民権運動に参加していたのだが、次第に国権、そして大陸進出の担い手となっていく。こうした人間模様をみていくと、五十五年体制で確立された右翼と左翼という見方とは全く違った地平が明治期には存在していたことを思い知らされるのである。この本は、杉山家三代を通して日本近代史の裏舞台を照射したライフヒストリーであり、読み物としても面白い一冊である。