『知的複眼思考法』

苅谷剛彦(講談社、1996)



 本書の著者苅谷剛彦は、1955年生まれの東京大学大学院教育学研究科助教授。著書に『大衆教育社会のゆくえ』(中公新書)がある。この本の帯に「全国3万人の大学生が選んだ日本のNo.1ティーチャーが教える思考ノウハウ」という文句がある。怪しげな帯だが、本の中身はわかりやすく、ためになり、社会科学的思考の基本がきっちりと押さえられている。わたしもそうだが、大学の先生はよく学生に「自分の頭で考えなさい」という。それに対して、学生は「自分の頭で考えなさいといわれても、どうすればいいのかわかりません」と答える(か、あるいは黙っている)。すると、大学の先生は「まったく最近の学生は、自分の頭で考えることがまったくできとらん、何のために大学に来ているのか」とブツブツいう。一方で、学生は「まったく大学の先生は、まったくひとがわかるように教えてくれん、これじゃ何のために大学に来ているのかわかりゃしない」と思う。こういう悲しいすれ違いを超えて、著者は、きわめて懇切、丁寧に学生にその思いこみを気づかせ、常識を問い直し、自分の頭を使った(批判的な)ものの考え方、本の読み方の世界に導いていく。著者は序章のなかで次のように述べています。

 「この本でまざしたのは、ありきたりの常識や紋切り型の決まり文句、つまり「ステレオタイプ(決まり切ったものの見方)」にとらわれずに、あなた自身の視点からものごとをとらえ、考えていくための方法です。」

 学生にも読んでほしいし、大学の先生たちにも読んでもらいたい一冊です。