『知の編集術』
松岡正剛(講談社現代新書、2000)
そもそも学ぶことと遊ぶことは決して対立したものではなく、遊びのなかから学びが立ち現れるのが理想的なわけだが、これは言うは易く行うは難いことである。ところが、本書の著者松岡正剛は、“編集”という概念をキーワードとして、学び−遊びという対立を超えた、ワクワクする知の世界を繰り広げている。松岡は、「編集は遊びから生まれる」といい、子どもの遊びの中には、編集術の極意が宿っていると指摘している。例えば、ごっこ遊びには、情報の特徴の捉え方、表現の仕方があらわれており、宝探しには、情報の探し方、入手の仕方、連絡の仕方があらわれているのである。
考えてみると、編集は、私たちが日々行っている営みである。編集ということばは、簡単にいえば、整理と言い換えてもいいかもしれない。ただの整理整頓ではなく、知的創造の喜びにつながるような整理をどのように行っていくのか、私たち研究者が最も頭を悩ませる問題の一つである。松岡正剛という人は、さまざまな物事を相互につなげることの達人のような人で、私はこの本の全体像を掴みきれていないところがあるのだが、知を快楽につなげていけるか、知が閉ざされていくかの分岐点には、編集の作法の自覚の度合いが絡んでいることは確かのようである。おぼろげな印象であるが、21世紀に注目されるであろう考え方の原点がこの本にはあるように思われる。