『魂のアイデンティティ』

西平直(金子書房、1998)



 本書の著者西平直は1957年生まれの教育思想家、博士論文が『エリクソンの人間学』(東京大学出版会、1993)として出版されている。本書『魂のアイデンティティ』では、一人の不登校の少年が青年を経て、大人になるまで、彼とともに歩んだ著者の思索の物語である。現代版の『エミール』といったらよいだろうか。最終解決(例えば、自殺、あるいは宗教への盲信)に急ぎたがる鋭敏な感性をもつ少年の傍らで、そのしんどさをもちこたえつづける著者のありようは、混迷の時代における大人の生きざまを示しているように思える。本書は大人と子どもの関係論のテキストとしてはもちろんのこと、アイデンティティ研究の読書案内としてもすぐれた一冊である。

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