『嗜癖する社会』
A・W・シェフ(誠信書房、1993)
著者のA・W・シェフは、フェミニズムの視点から嗜癖問題を論じているセラピストである。セラピストというと、心理的な思考に偏りがちだと思われるが、シェフは、人間の心のありようを通して、社会のシステムを問い直すという社会的なパースペクティブをもった論を展開している。シェフは、アルコール嗜癖や薬物嗜癖、恋愛嗜癖、セックス嗜癖などの嗜癖問題が、個人の問題にとどまらず、アメリカに代表される現代社会システムの病理であるという。この嗜癖化した社会においては、嗜癖は社会への適応であり、嗜癖問題に悩む人は、社会への過剰適応に抵抗する身体を通して、しらふな(まっとうな)生き方を切りひらく可能性をもった者であると捉えられる。シェフは、人をコントロールする願望をもつとともに自分の感情を抑圧して魂を死に至らしめる嗜癖システムがまさに“白人男性システム”であることを洞察し、アルコール中毒を支えてしまう共依存者のように“白人男性システム”を支える女性たちのシステムを“反応的女性システム”と名付けている。嗜癖者の自己中心性を描写するとともに、嗜癖社会における自己中心性の蔓延について言及するシェフの論には説得力がある。シェフの構えは、私自身の身体感覚とも近く、自分自身を癒しながら、社会を変えていくための根幹的な理論にようやく出会えたという喜びをもって、この本を読みすすめている。