『嗜癖する人間関係』
A・W・シェフ(誠信書房、1999)
前回に続いてA・W・シェフの本。本書では、アルコール嗜癖や薬物嗜癖などのような物質的な嗜癖と同様に、性的嗜癖、ロマンス嗜癖、人間関係嗜癖というプロセス嗜癖もまた、人間を破壊し、死に至らしめる病気であると論じられている。物質的な嗜癖の問題性が誰にでもわかりやすいのに対して、人間関係嗜癖というのは、現代の社会のプロセスに巧妙に組み込まれており、その問題性に気づくのが難しい。例えば、恋愛嗜癖であったと思われるイギリス皇太子妃であったダイアナは「恋多き女」と言われ、マスコミの格好の標的になることはあっても、その病の深さと本人の悩みをきちんと受けとめてもらえることはなかった。さらにややこしいことに、ほんとうはこれらの嗜癖の向こうにあるのは、親密さへの回避なのであるが、恋愛、セックス、人間関係とそのいずれもが親密さを求めているようであるから、本人もこの問題に気づきにくい構造になっている。シェフは、人間関係嗜癖の根っこにあるものは、自分自身と親密な関係をもつことの回避であるという。そうであるから、個々の嗜癖の治癒だけではなく、自分自身との親密さを回復するワークを並行して行わなくてはならない。本書では、これらの嗜癖がどのようにして作られるのか、そして嗜癖にとどまることでどのような問題が生じるのか、回復の手だてはどのようにすればいいのかが、わかりやすく説得的に論じられており、『嗜癖する社会』以上にお薦めの本である。