『死んでいるかしら』

柴田元幸(新書館、1997)



 今夏は東日本では不順な気候が続くが、それでも夏はうっとおしいもの。今週はうっとおしい気分を爽やかにしてくれること請け合いの一冊をご紹介したい。その名も『死んでいるかしら』。著者の柴田元幸は、東京大学大学院総合文化研究科助教授。堅苦しい肩書きだが、つまりは大学の英語の先生である。彼のエッセイはもう笑いが止まらない。
 この著書のタイトルとなった名エッセイ「死んでいるかしら」の一部を紹介しよう。
 「自分はもう死んでいるのではないだろうか、と思うことがときどきある。…今日中に出さなくちゃいけない試験問題やら書類やらを作り忘れたり、別の用事が入っているのを忘れてダブルブッキングしてしまったり。一日に一度は、『あ、いけね!』という言葉が口をついて出ることになる。/というわけで、まさしくそういう具合に、自分が実はもう死んでいることを忘れていたんじゃないだろうか、と一瞬思ってしまうのである。…」
 〔爆笑なのが、最後の学生の会話である〕
『柴田先生ねー、もう死んでいるのに頑張ってるわよねえー』
『うん、ほとんど感動的だよねー』
『だけどさー、ちょっとさー、見ててつらくない?』
『そうそう、居たたまれないと言うかねー』
『下手に教えてあげてさー、単位もらえなくなっても困るしねー』
『仲間の先生とか、言ってあげればいいのにねー』
『そうよねー』
『でもさー、大学の先生ってさー、よく見るとみんな死んでない?』
『ぎゃはははー』」
 どきん!!、とてもやわらかい物腰でありながら、同僚にするとおっかなそうな先生である。そうそう、昔々うちの妻が柴田先生に教わって、とってもいい授業だったと申しておりました。蒸し暑さを吹き飛ばす一級品の笑いをどうぞ。