『戦争と平和』
トルストイ(岩波文庫)
トルストイの『戦争と平和』は19世紀の作品。私に小説の愉しみを教えてくれたのは、トルストイだった。大学2年の頃だっただろうか、『戦争と平和』をワクワクしながら読み、風邪をひいては下宿の布団の中で再び繰り返して読んだものだった。1週間ほど風邪で寝込んでいると、ちょうどこの分厚い4冊本を読み終える。すると、風邪という通過儀礼とともに、自分が新しく生まれ変わったような気分に包まれるから不思議だった。
平和のなかに暮らす人々が、戦争に巻き込まれていくことによって、まったく違った世界に生きることになる。印象的だったのは、最初の舞踏会の華やかさと、戦地で死ぬゆく登場人物の意識との落差である。「平和」から「戦争」への移行は、かくもあっという間なのかという思いをもった。「平和」のなかにすでに「戦争」の芽は潜んでいる。