『理由』

宮部みゆき(朝日新聞社、1998)



 本書の著者宮部みゆきは、この『理由』で直木賞を受賞。人間が書ける、家族が書ける、社会が書ける作家として、一躍名を上げている。『理由』は、はっきりいって怖い本である。現代に生きるということが、いかにハリボデをあたかもホンモノであるかのようにごまかしながら生きるということであるか、宮部みゆきは丁寧な叙述で掘り起こしていく。宮部みゆきの小説は、社会の闇に迫っているという意味では、松本清張の流れを汲んでいるように思われる。さらに、彼女は、脇役の叙述において、その本領を発揮する。一人ひとりの脇役が、見事な語りによってそのライフヒストリーを開示していくと、あたかもホンモノの人間がそこにいるかのようなリアリティをもってしまうのである。宮部みゆきの小説の人物には、圧倒的な存在感があり、それが一種の怖さを生んでいる。1990年代を書ける作家がここに誕生したと、わたしは驚嘆した。お薦めの一冊。