『パラサイト・シングルの時代』
山田昌弘(ちくま新書、1999)
最近、読んだ家族論の本の中で滅法面白いのが、山田昌弘の『パラサイト・シングル』である。黄色い帯には、「寄生する未婚者たち 自立と苦労を厭い、リッチな生活の維持を望む若者たち。彼らが担う日本社会の未来とは?」という、何とも刺激的な文章が並ぶ。時節柄、パラサイトなおとな子ども(無職、三十代)への注目が高まっている現在、この本を手に取らずにはいられない。
さて、パラサイト・シングルとは、学校を卒業したのちも、親と同居し、基礎的な生活条件を親に依存した未婚者のことをいう。そうであるから、独身者であっても親元を離れて自活しているならば、パラサイト・シングルとはいわない。ところで、本書を読んでまず驚かされたことは、日本には、約1000万人のパラサイト・シングルという事実を突きつけられたことである。これらのパラサイト・シングルは、衣食住の基礎的な生活条件を親に準備してもらっており、さらには車なども親の車を実質的に所有している場合が多く、自分の収入のほとんどは可処分所得になる。本書のユニークな点は、パラサイト・シングルという個の生活スタイルの変化を、社会システムへの影響とつなげて明晰に論じているところである。それも社会システムが個の生活スタイルを変容させたという回路だけでなく、個の生活スタイルの変容が社会システムにどのように影響を与えているのかを考察しているところが興味深い。
相対的に豊かな中高年層の下で、パラサイト・シングルが増殖するとき、基礎的な生活を支える必要不可欠な産業は衰退し、必ずしも基礎的な生活にとって必要でない軽薄短小な産業が栄える。わかりやすい例でいえば、住宅や家具などは売れず、パソコンや携帯電話などが売れるということである。ところが、この状態は長くは続かない。あと10年もすれば、親は老いて、逆にお荷物になる時代が来る。ところが、パラサイト・シングルは、経済的にも自立した大人として独り立ちする鍛錬を積んでいない。そのため、親の面倒を見ることもままならず、親殺しが社会問題として浮上するかもしれない。著者は、だんだん水温が下がっていくのがわかっているにもかかわらず、気持ちのいいお風呂から出るふんぎりがつかない人間をアナロジーとして、この問題を描いている。
私たちの親の世代は、子どもにいろんなことをしてあげることを子どもに愛情を注ぐことだと考え、私たちを育ててきた。しかし、してあげたい気持ちをこらえることが、子どもへのほんとうの愛情になる、そういう時代が来ているようだ。