『未来の学校建築』

上野淳(岩波書店、1999)



 この本は、子どもたちがその生活の約三分の一を過ごす学校について、建築の観点から問題提起した示唆に富む一冊である。学校は子どもたちが勉強をする場であるとともに、生活をする場である。しかしながら、今の学校建築は、子どもたちが快適に生活を営める場になっていないと著者はいう。具体的には、勉強部屋と食事室を兼ねる無機質な教室、蛇口がむき出しの水道場、不潔でじめじめしているトイレなど、子どもの生活の質はそこでは守られていない。何よりも子どもたちがほっと安心できるような小さな空間がそこにはない。このような中で、著者は、学校に入り、子どもたちの生活の様子、移動の経路などを観察し、そこから学校建築を立ち上げようと試みている。
 教育活動は、観念的なものではなく、きわめて具体的なものである。とくに、子どもの日々の生活にとって、どこかに隠れ場があるのかどうか、安心していられる場所があるのかどうか、それが決定的な問題であるといえる。自分自身の経験を顧みると、小学校時代には、放送室、中学校時代には、校庭の隅のちょっとした段差のあるところ、昼休みにはそういう場所に身を潜めることによって、自分を守り、育ててきたことと思い出す。開放的な場所、いつも人から見られている場所では、自分の心を育てることは難しい。子ども自身が空間の再定義をできるような場を提供することが今、必要なことではないかと思う。つまり、枠を提示した上での非教育こそ、教育か。