『現代<子ども>暴力論(増補版)』
芹沢俊介(春秋社、1997)
『現代<子ども>暴力論』から教えられたことは多かったが、その一つは、イノセントという概念であった。芹沢は、暴力の起源はイノセントにあるという。イノセントとは無垢であるということ。無垢であるとは責任がないということである。生まれたての赤ちゃんは、イノセントである。なぜなら自分自身の生に責任がないから。しかしながら、親を鏡として、自分を知り、自分を受け入れることを学ぶことによって、イノセントであるということを手放し、自分の存在、行動に責任をもつことができるようになる。大人になるということは、自らのイノセントを責任に置き換えていくことなのである。ところが、自分の存在を受け入れられなかった子どもの場合、イノセントを手放すことができない。そして、そのイノセントが暴力となり、表出する。芹沢は少年犯罪をこのようなプロセスとして読み解いている。子どもへのしつけがなっていないという言説があるが、子どもを責任もつ存在に育てるためには何よりも無条件の愛が必要なのである。早期教育という名の暴力には大いなる危険を感じる。将来のことは決して予測できないし、コントロールできない。子どもへの最大の贈り物は無条件に受け入れることである。これは『五体満足』の乙武さんを見ていてもよくわかる。子どもを産むという行為自体が図らずも大いなる暴力であり、子どもは未知の世界に投げ出された不安の中にあるということをイノセントの概念は教えてくれる。