『日本の公安警察』

青木理(講談社現代新書、2000)



 講談社現代新書からは、ゲリラ的なスリリングな本がしばしば出されるが、この『日本の公安警察』は警察の裏舞台を描き出した、感嘆すべき一冊である。警察の腐敗事件が連日のように新聞紙上を賑わわせているが、この本を読んでいくと、警察問題は、個人のモラルの問題ではなく、構造的な問題であるということがわかる。例えば、公安警察の活動費、本書によると人件費等を除いた純活動費で約四七〇億円が税金から支出されているということだが、その詳細は一切公開されていない。公安の活動内容も、「旧態依然とした共産党対策を前提としたシステムがマンネリ化、硬直化しながら不正も恒常化」しているという状態であるから、何ともコメントのしようがない。
 警察には、「国家の治安」を「保持」する公安警察のほかに、刑事警察、交通警察などがある。これらの中でも、公安警察は最も選民意識の強いエリート部門であり、同時にその秘密性のゆえに不正の温床となっているという。本書を読み進めると、昨年成立した盗聴法案は、公安警察の生き残りのための大きな手段であったということが垣間見えてくる。旧来の左翼対策のシステムのゆえに、オウム事件やグリコ・森永事件などで全くの無力を露呈した公安警察が、盗聴という手段を手に入れることによって、国民の生殺与奪の権利を握る。盗聴法がいかにとんでもない法律であったかがここからもわかってくる。社会に大きな対立がない今、必要なものは、個人の生活を守る刑事警察、交通警察の整備と民主化である。公安警察の肥大化と生き残りではない。1966年生まれの本書の著者青木理の身体を張った力作は、現代の必読書であるともいえるだろう。