『イワンのばか』
トルストイ(岩波文庫)
『イワンのばか』は、私が大好きな民話である。地道に自分の手と足で働くことしか知らないばかのイワンが、いろいろと迫害されつつ、最後にはあくまとの戦いに勝つというあらすじである。この話の面白いところは、イワンがあまりにもばかだから、迫害されていることにも気づかず、またあくまと戦っているということにも気づかなかったというところにある。この話を精神分析的に読み解くならば、イワンは周りの迫害を迫害と思わないほどの強い自己肯定感と自尊感情をもっていたということになる。イワンは両親から愛されており、自己肯定感が高いから、ばかであるにもかかわらず、やることなすことすべてうまくいき成功していく。ところが、賢かった2人の兄たちは、いろいろ試みるが、どちらも失敗に終わるのである。このことは今まで気づかなかったことであるが、ばか(=愚直)であれるということは、自己肯定感(何はともあれわたしはOKだという自分に対する基本的信頼感)が強いということであるし、またばか(=愚直)でありつづけるということは、自己肯定感を高めるワークをしているということなのである。いじめに対する最も大きな反逆は、いじめられていることに気づかないということである。気づかないふりをするのではない。いじめに気づかないぐらい、自分に集中した生き方をしていくことである。もちろん、これは苦境のなかに生きている子どもに言い聞かせることではない。自分が一つのテーマとして温めていくことである。