『五体不満足』
乙武洋匡(講談社、1998)
本書の著者乙武洋匡は、早稲田大学の学生。両手両足がほとんどなく、彼自身のことばを借りて言えば、「じゃがいも」のような手と足しかなく生まれた著者は、ハンディキャップにもかかわらず、たくましく人生をきりひらいていく。この本は、そういう著者の自伝である。読みやすい本でベストセラーにもなっており、自伝は読んでもらえればいいのだが、この本の中で印象に残ったことを二つばかり挙げたい。一つは、著者の母親との出会いの場面。病院の医師や看護婦、周りの人々が手足のない息子を見て、卒倒するのではないかと心配し、1ヶ月遅れの母子対面となったとき、母は「まあかわいい」と思ったという。最高の第一印象でこの世界に受け容れられたことが、著者の伸びやかな人生の起点になっているのである。もう一つは、乙武君のいたクラスがいつも共同性が発達した、子ども同士のつながりの強いクラスになったことである。もちろん、乙武君の明るさというものもあるだろうが、障害者を中心に据えることでクラスがまとまるというのは、大いに考えられることである。古来の日本社会では、まわりよりも弱い者を中心に据え、その人をみんなで支え合うことにより、集団を形づくってきたと聞いたことがある。あるいは、幼少の子どもを中心に家族の名前を呼び合う習慣(お兄ちゃん、お姉ちゃん、お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃんなど)など、ここから来たのかもしれない。異質を排除する世界は息苦しい。みんな平等というスローガンが人を苛むことだってある。弱さを神々しさとして受け容れ、大切にすること。これが住み良い社会ではないのかと、思わされた。