『家族という名の孤独』

斎藤学著(講談社、1997)



 斎藤学は、家族関係論に焦点をあてて、現代人の心の闇に光をあてている精神医学者であり、本書の中では、アルコール中毒などの嗜癖にかかわる事例をふれながら、人が人に惹かれるということについて考察している。恋愛結婚でピピッと反応し合い、一目惚れになるということがある。そういうときは注意が必要だと、斎藤学はいう。共依存の可能性が高いからだ。共依存というのは、お互いに自分自身の問題に向き合わないために、相手を利用し合う人間関係のことである。共依存の関係は、お互いが傷つくばかりで、相手のせいにして自分自身に向き合うことがないために、人間として成熟することがなく、人生を棒に振ってしまう。本書から一つの事例を紹介しよう。暴れて手がつけられなかったある少女は、四度、違った男と生活をともにするが、そのすべてが、暴力をふるったり、アルコール中毒になったり、どうしようもない最悪の男であった。少女の生育歴を辿ってみると、アルコール中毒の父親のいる緊張と暴力に満ちた家庭に育ったことがわかる。少女は父親みたいな男だけは避けようと考えていたが、いつも父親そっくりの男を選んでしまうのだった。著者は、人は癒されないかぎり、傷ついた人間関係を繰り返すものだという。家族は温かいものだという偽りの物語に自らを合わせるのを辞め、自分の感情を生き直し、自分を癒していくことが、家族という美名のもとに世代継承される歪みの歴史を断ち切る唯一の方法であることが本書から伝わってくる。