『家族崩壊と子どもたち』

青木信人(講談社、1993)



 著者の青木信人は、1954年生まれ。東大教育学部教育行政学科卒業後、保護観察官として“非行”少年、少女たちとかかわり続けている。保護観察官という仕事は、普段耳慣れないものであるが、主に“非行”に走った少年、少女を家庭裁判所が保護観察処分に付する際、民間のボランティアの保護司と協力し、個別面接を行い、状況に応じて助言や指導を行う仕事であるという。常時、一つの保護観察官あたり150件前後の対象者を抱えているというから大変な仕事である。本書に出てくる事例は、それぞれが家族の深い闇の中で、もがきあがく子どもたちの姿を照らし出しているのだが、中でもシンナーの臭いのする母乳を我が子に飲ませるリカの事例は私には印象的だった。アルコール中毒の父をもち、暴力吹きすさぶ家庭から逃避して、自分に向き合うことなく、快楽に身をゆだねる生き方を選んだリカは、シンナーにはまっていく。妊娠、出産という契機によっても、生き方を変えることができずに、シンナー中毒の状態で傷害事件を起こし、逮捕される。家庭をもつというイニシエーションによっても救われない、心の傷の深さとそうした傷をもつ若者を自分自身と向き合わせることなく、消費していく、病んだ嗜癖社会が映し出されていて、痛ましい。著者がここで描いたのは、1990年代後半の日本の家族の姿の先駆けではなかっただろうか。