『さらば、悲しみの性−産婦人科医の診察室から−』
河野美代子(高文研、1985)
著者の河野美代子は、1947年広島生まれの産婦人科医。現在は、河野産婦人科クリニックを開業し、そこで診察をしている。先週の河野美香とは、また別の人である。この本は、性について高校生たちに訴えた、古典的な名著である。「人工中絶の手術台の上で涙を流さぬ少女はいない。だのに、なぜ、若い性の悲劇は跡を断たないのか!? やむにやまれず、医療の現場から発する警告と提言!」と帯にあるように、著者は、傷ついた性にともに涙を流しながら、少女たちを支えてきた。この本が出たのは、1985年、ちょうどバブルの前である。この頃は、まだ援助交際ということばもなかった。そして、15年経った今、先週の本の帯には「“中絶手術なんて風邪”程度にしか感じない高校生が急増中」とある。この15年間で、性の解放は飛躍的に進んだ。しかしながら、著者のいう「女性は−自分のからだを大切にせよ。自分のからだに責任をもて。男性は−女性のからだを大切にせよ。女性のからだに責任をもて」という大原則は、一体少しでも浸透しただろうか。消費社会のスピードに抗いながら、性について学び、考えていくことが急務であることをこの本は教えてくれる。