『夜光の時計』
八覚正大(新読書社、2000)
毎週金曜日までに一冊の本を紹介することを自分自身のノルマに課しておいたが、やはりというか、シーズン開始とともに遅れをとってしまった。しかし、気を取り直して、GWでもう一度体勢を整えることとしたい。
今週の一冊は、「定時制高校からの21世紀教育へのまなざし」という副題をもつ、教育現場の実践記録である。一人ひとりの生徒へのこまやかなまなざしとともに、教師としての自分自身の心のひだを見つめるスタイルの実践記録は、教師という仕事が教えることをベースとするとともに、自らが学ぶこと、育つことを楕円のもう一つの焦点とすることなしには成り立たないことを、そっとささやいている。一つひとつの章が、教師と生徒の関係論に光をあてているのであるが、生徒とのかかわりを振り返ることによって、教師が自らの育ち直しをしているところが心に残る。
熱血教師だった八覚さんが、病気で入院したときに、「学校においてなくてはならない自分の存在、その必須の存在なしで、学校は平然とうごいている」ことを知り、自分のなかの何かが「音を立てて切れてい」く。しかし、この経験こそが、生涯を教師として生き抜く構えを準備したのである。その構えは<逃げない・溜めない・体使って神経使わない>というものであった。象徴的な死と再生を経験し、成熟した大人であろうと努める教師の物語は、新しい時代の教師像をたしかなかたちで示しているように思われる。