『作文アンケート教職体験』

松本良夫編集(有信堂、1987)



 学校が多様性をもつ子どもたちの学びと成長を支える場であるためには、そこには「いろんな先生がいていい」はずだし、またいなくてはならないだろう。本書は、教師のさまざまな生き方、自己形成のあり方に、作文アンケートというかたちで迫った興味深い研究書である。この作文アンケートの面白いところは、こまかく時期を区切って、その時々の教師の生活や意識、喜びや葛藤について尋ねていることである。これによって、教職生活が山あり谷ありの歳月を重ねるものであるということや、時代とともに教師であるということが困難になっていることを、生きられた経験から読みとることができる。
 教師として歩むということは、たえず自らの力量不足と向き合うことを余儀なくされることであり、同時に悔やんでも悔やみきれないような指導上の過ちからも避けられない。しかしながら、本書を読みすすめていると、一つひとつの時期において苦しい葛藤を経験した教師であっても、「これまで教職生活を続けてきたこと」については肯定的にとらえている場合が多いことに気づかされるのである。80人中51人がその仕事を続けてきたことを「とてもよかった」と答える職業は、ほかにはあまりないのではないだろうか。しかしながら、本書が出てから十数年の間で、教師、子どもの現実も様変わりしたように思われる。この間の変容を明らかにすることが、私たちの一つの課題である。