『大系日本の歴史12 開国と維新』
石井寛治(小学館ライブラリー、1993)
新年度が始まった。この時期における私の快楽の一つに、ほかの教員の方々のゼミナール・テキストを読むということがあるのだが、今年は経営史、経済史のプロフェッショナルである石井寛治先生のテキストを手にとった。
石井先生は、1938年生まれ、東京大学経済学部長を経て、現在東京経済大学経営学部教授である。経営史、経済史のみならず、政治史、思想史についても造詣が深く、通史を書けるたぐいまれな歴史家である。
本書を読みすすめていくと、尊皇・佐幕、攘夷・開国が錯綜している幕末の政治状況がたいへんわかりやすく整理されていることに感銘を受ける。また、一人ひとりの人物がきめ細やかに描かれているとともに、幕末における、薩長と江戸幕府の実力が経済的な側面から実証されており、読み物としての面白さとともに説得力もある文章に仕上がっている。もちろん、著者の前書きにあるように、その後の研究の進展等から問い直す必要のある箇所がいくつかあるとは思われたが、これは歴史叙述にはつねにつきまとう問題である。
東京経済大学で社会科、地理歴史の教職免許取得を志す学生には、ぜひともお薦めしたい一冊であり、ゼミナールである。