『えうれか』

轟寿男(海鳥社、2000)



 “えうれか”というのは、ギリシア語で「分かった!」という意味らしい。ギリシアの有名な数学者であるアルキメデスは、王冠をこわすことなく、それが純金か、混ざりものかを明らかにせよという宿題を王様から受け、日々悩み、考え続けていた。あるとき、風呂で疲れた頭を休めようと、湯船にザボンと入ったとき、「エウレカ」と叫び、素っ裸のまま走って家に帰ったという。今週の一冊“えうれか”は、中、高生に数学を教える轟先生が、数学を通してみえてくる風景を書き綴った数学通信のタイトルである。本の内容は、“えうれか”というタイトルに名前負けすることなく、発見に満ちている。数学は、狭く特殊な世界であると思われがちだが、轟先生が展開される数学を通したものの見方は、数学に根ざしながらも、そこにとどまることなく、私たちが生きていく人生と重なってくる。「自分の知っていることよりも、もっと深いものが世の中にはあるようだ」という思いを根底にもち、自身が数学のよき探究者であるから、一つひとつのエピソードが実に伸びやかであり、開かれている。そうであるから、読んでいて、楽しくて仕方がないのだ。よき学び手であり、その学問を通して自らのものの見方を膨らませつつ、それを後進にわかちあっていく強烈な願いをもつ轟先生のあり方は、21世紀の教師像を示しているように思われるのである。