『ブラック・ティー』

山本文緒(角川文庫、1997)



 先週に続いて女性作家の短編集。時々、電車の中で誰かが置いていった本を手にすることがある。忘れたのか、捨てていったのか、文庫本が網棚の上にある。こうして手にする本は、何だか新鮮である。自分が買う本は、最初から自分の枠にあてはまる本であるが、拾った本は自分の枠をこえることがあるからだ。この『ブラック・ティー』は、こうして電車のなかで誰かから譲り受けた1冊である。本の裏表紙に、「胸に手をあててみれば思いあたる軽犯罪、約束をやぶったり、借りたものを返し忘れたり…そんなちょっとした罪にかきたてられる自分のなかの不安、他人への不信感。誰だって純真でもなく、賢くもなく、善良でもないが、ただ懸命に生きるだけ。ひとのいじらしさ、可愛らしさをあざやかに浮き彫りにし、心洗われる物語の贈り物」とある。男女の関係を中心として、ごく普通の人間の細やかな心の揺れが描かれている一冊。