これはあくまでハードロックのサンプリングに関することで、扱う試料の違いによりいろいろ手段には変化があります。
柄の長い玄翁について。
通常ホームセンターなどで入手する.ヘッドの重さは1.5-5kgぐらいまであろうが、一般的日本人男性の体力から見れば3kg程度のものが扱いやすいであろう。これは破壊力抜群でハードロックの効率的なサンプリングには不可欠といえよう。特に後に鉱物分離などを行う必要があり大量の試料をとりたいならばなおのことである。しかし、採石場などで石工のおっさんが使っているのはこのようなものではない。ヘッド自体はそんなに重くなくともヘッドのエッジが尖ったままの物が良いらしい。そのような道具については現在研究中で、もし入手できたら使用感を報告する。
その他良く使われているEstwing社のハンマーについて
総重量が900g程度のピックハンマーが広く用いられているが,あまり破壊力は無く,これのみでハードロックのサンプリングは無理である.上記の大型玄翁は有効だが,柄が長く持ち運びには困る.その様な場合にはEstwingのクラックハンマーを用いるのが良いであろう.なかでもヘッドが1.8kg,全長が40cmほどの大型のものが役に立つ.なおよく注意されるようにピックハンマーの尖った部分をたがね替りにしてはいけません.
岩石の跳ね返りにご注意!
岩石を割っていると特に堅い岩石の場合その小片が顔面に跳ね返ってくることがあります。これは大変危険で、口に入れば歯が折れることがあり、鼻に入れば激しい鼻血を招きます。私の眼鏡はそのせいで傷だらけであり、前歯は過去2回欠いています。私は眼鏡を掛けているので経験がありませんが、目に入ればとんでもないことになるかも知れません。安全ゴーグルが売られていますので、使用した方がよいでしょう。なお、叩く露頭の位置が高い場合や、柄が短い割に破壊力の大きいハンマー(例えばエスチングのクラックハンマー)を用いるときは特に注意する必要があります。追記:周囲にいた人に破片を飛ばしてしまったことがあります。
国立公園や国定公園でのサンプリング
ここらは本来無許可ではサンプリングはできません。それぞれ管轄が違うのですが、国立公園は環境庁の国立公園事務所に、国定公園は都道府県のどこかに問い合わせる必要があります。また林道などを自動車で通行したい場合には所轄の営林署に便宜を計ってもらう必要があることがあります。
苦労してとった岩石もきちんと処理してやらないとなんにもなりません。今までの粗割の経験で気づいたことについて述べたいと思います。
追記(2005年1月)
以下に述べた中で,ジョークラッシャーの全岩分析用試料作成への利用については,異論があるようです.その辺機会があれば記述したいと思います.
私の個人的に推奨する粗割方法(全岩用粉末試料作成)
特殊な元素、同位体を分析する場合のことは知りません。
A:サンプル量が大量にあるとき
(1)トリマーあるいはハンマーで数cm角まで割る。風化面など混入を避けたいものはここでなるべく除外する。石のサイズや形によってはカッターで切断した方が楽かもしれない.カッターを利用すると切断面に刃の金属が付着していることが多いので,嫌なら軽く研磨して落とす.
(2)ジョークラッシャーで上記の岩石を砕く。粉砕そのものは極めて簡単であるが、ジョークラッシャーで問題なのは掃除である。歯の部分が開放できるものとできないものがあるが、開放できないものは掃除が面倒でかつ前に砕いた試料のコンタミネーションの恐れが残る。既にあるものを使うときはやむを得ないが、新しくジョークラッシャーを導入するならそういう間抜けな器械を買わないようにしましょう。ジョークラッシャーでつぶしたものをふるいでふるって適切なサイズのfraction(これは岩石の粒度に依存し,鉱物の分別が起こらない程度に大きくないといけない)を次の洗浄・粉砕にまわすのが良いでしょう。化学分析用の粉を作るのに、ジョークラッシャーでできた粉を使うのはまずいでしょう。
(3)集めたものを篩い、水洗する。
水洗についても様々な流儀があり、当然どのような分析を行うかにも依存する。一般的には、岩石のチップを適切な大きさのビーカーに入れ水道の流水下でよく洗い細粒物を洗い流す(その時の細粉を含んだ水は下水にそのまま流さない)。その後水道水で超音波洗浄にかける。できれば濁りが発生しなくなるまで、水を替えながら何回か行う。その後イオン交換水で、同様のことを行う。さらにアセトン特級(3l@3000円程度)でリンスまたは超音波洗浄を行いヒートランプなどの下で乾燥する。あるいは、先に水洗したサンプルを乾燥器で水を蒸発させてから、アセトン洗浄を行う。
(4)粉砕
これにもいろいろな方法がありますが、
・ボールミルを用いた粉砕
・振動ミルを用いた粉砕
・自動乳鉢を用いた粉砕
が一般的でしょう。留意点は2点あります。
・ミルの素材からの混染
・ミルに適合した岩石チップのサイズ
〈ミルの素材からの混染〉
ステンレス:しばしば手つぶし用の乳鉢に用いられているがCr、Niなど一般的な岩石学で必要となる元素の混染を招くので使用すべきではない。
タングステンカーバイド:手つぶし用の乳鉢のほか振動ミルなどの素材としてよく用いられる素材。W、Ta、Coなどの混染をまねくが、普通の分析にはあまり差障りがない。ただし微量のLaの混染を招くことがあり、MORB組成に近い岩石などLa含有量の少ない岩石の希土類分析には向かないという。また中性子放射化分析を行う場合、Wは捕獲断面積が大きく単寿命の放射性核種をつくり、いろいろなエネルギーのγ線を出すので、データ解析の邪魔になることがある。
アルミナセラミック:自動乳鉢や振動ミル、ボールミルなどの素材として利用される。特にボールミルの場合Alの混染が気になることがある(主成分であるにも関わらず!)。また、多数の微量元素(Li、B、Ti、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Zr、Ba)の混染の原因となるという。
メノウ:自動乳鉢や振動ミル、ボールミルなどの素材として利用される。当然SiO2の混染は避けられないであろうが、通常の岩石で最も多い成分なのであまり気にしない。むしろ気をつけるべきは破損しやすいことである。
(ミルに適合した岩石チップのサイズ)
振動ミルの場合放り込むチップのサイズはそれほど神経質でなくても良いでしょう。用は中身が引っかかって詰まりさえしなければ良いと思います。ただしミルの素材がメノウやアルミナなど壊れやすく(かつ高価な)ものの場合、破壊の恐れを考えてサイズに留意すべきです。タングステンカーバイドのミルならば大概乱暴なことをしても問題ないでしょう。
ボールミルや自動乳鉢の場合はジョークラッシャーで作ったチップをさらに乳鉢で前もって手で粉砕して最大2-3mm径にしたものを使う事がミルや乳鉢の破壊を避ける、および粉砕効率を高めるために不可欠でしょう。手つぶしには上記の混染の可能性を考慮して、鉄乳鉢を使い、なるべく乳棒で摺るような操作を避けて、乳棒で突く(叩く)ことで粉砕すべきでしょう。
そんな訳で、
ならジョークラッシャー→タングステンカーバイドの振動ミルの組み合わせがもっともお手軽か?特に後者は大概のことで破損することがないという大きな長所があります。
ならジョークラッシャー→鉄乳鉢→メノウ自動乳鉢の組み合わせが最もお手軽か?ただし自動乳鉢は「石川式」に限ります。
B: サンプル量が少ないとき
上記の鉄乳鉢に到るまでの過程を臨機応変に変更する.
その他の注意
「音響(性)外傷」にご注意
大きめの岩石カッターで石を切るときには,必ず耳栓の類をしましょう(イアウィスパーとか).音響性外傷の恐れがあります.なりやすさには個人差がある(ミトコンドリア遺伝子に基づく)という話も聞きますので,他人の「そんなの大丈夫」を単純に信じてはいけません.私も最近(しばらく大カッターを使っていなかったので)ついつい耳栓を忘れて石切りをして,切断後1日ほど耳がおかしく,焦りました(幸い復活しました).
粉砕時の元素の混染などについて触れた資料
三宅 康幸・武蔵野 実(1991):中性子放射化分析用試料の粉砕に際して混入する元素とその量について.島根大学地質学研究報告,島田いく郎教授退官記念論誌集, 10, 31-34.
Ramsey, M.H. (1997) Sampling and sample preparation. in Gill R. ed. Modern analytical geochemistry. Longman, Harlow. 12-28.
Saheurs, J.P.G, Sherwood, W.G., and Wilson, W.P. (1993) Sample preparation in Riddle, C. ed. Analysis of geological materials. Marcle Dekker, New York, 65-122.