や行


※やぎ だいすけ※

◎八木大介 『青年重役』 徳間文庫、1984年

◆総合商社。低成長期下にある1976年頃を時代背景として、日本の企業組織のなかで個人の意志・理想の実現化はどこまで押し通せるのかをシュミレーションすること、をめざ して書かれた作品。個性派のサラリーマンも、大企業ならともかくも、「中小企業へ行くと、やんちゃ坊主じゃ通してくれない」ということで、次第に角が取れていくプロセスが浮き彫りにされている。初刊本は、81年に日本経済新聞社から刊行。81年に実施された日本経済新聞社主催の第二回懸賞経済小説の受賞作。

◎八木大介、許斐義信(このみ よしのぶ)『ベンチャー・キャピタル 小説形式のビジネス書』 マネジメント社、1997年

◆本来、小説には解説が不必要なものであるが、新しい経営書のあり方を模索した本書は、そうした小説の原則から外れた作品、「小説形式を借りた経営書」になっている。1部が「小説ベンチャー・キャピタル」、2部が「小説ベンチャー・キャピタルを読む」の二部構成。1部が八木、2部が許斐によって書かれている。著者が小説形式のビジネス書にチャレンジしたいと思った理由は、以下の点である。これまで静態的、平均的な状態における経営の原理原則や基本を書いた「経営書」はたくさんあるが、現実の経営問題には必ずしも対応できていない。そこで、経営の動態的な応用問題に切り込み、経営問題と真正面から取り組み、生きた人間によってつくられている経済現象を描くのには、小説形式のビジネス書が最適のものとなる。本書は、ベンチャー精神の旺盛な主人公があるベンチャーを立ち上げ、事業を軌道に乗せたところで、身を引くというストーリーになっている。

※やぎ ひろゆき※

◎八木宏之原案、佐々木徹作 『小説 借りたカネは返すな!』 アスコム、2009年

◆累計70万部を記録した『借りたカネは返すな!』シリーズの小説バージョン。前作までのノンフィクション、企業再生を目的とした実用書とは違い、ビジネス小説として作り上げられたもの。駆け出しの経営コンサルタント・企業再生屋の卵である片桐草太が主人公。経営者やサラリーマンにとって円滑な営業活動・対人関係をもたらすためのノウハウが詰め込まれている。主に三つの出来事から構成され、それぞれに解説が付けられている。

※やじま まさお※

◎矢島正雄(脚本)、小林雄次(脚本、ノベライズ) 『監査法人』 TAC出版、2010年

◆会計監査。ジャパン監査法人には、ふたつの大きな意見があった。ひとつは、不況に苦しむ企業を救うためには、多少の粉飾も見逃そうという「ぬるま湯監査」。もうひとつは、不良企業は切り捨て、いかなる不正も認めないという「厳格監査」。同監査法人に勤める若い公認会計士の若杉健司は、理想として厳格審査を信じているが、切り捨てられる企業や社員の痛みを感じるたびに、自らの姿勢に疑問を抱いていく。健司が発見した大手食品会社の粉飾は、財界を巻き込んだ大スキャンダルに発展する。NHK土曜ドラマ『監査法人』の原作。

※やすだ じろう※

◎安田二郎 『兜町崩壊』 廣済堂文庫、1986年

◆同じ明治11年に開設されたにもかかわらず、東証に比べて地盤沈下が激しい大証。そこで、新しいアクションを求めて行動する、中堅の天王寺証券東京支店長、五代信一郎が主人公。

◎安田二郎 『黒い兜町』 天山文庫、1988年

◆証券評論家であった安田清臣を父に持ち、「小学生の頃から株をやっている怪童」とか、「株の天才少年」と言われた著者の手による短編小説集。全部で六つの短編が収録されている。

◎安田二郎 『小説国際マネー・ハンター』 廣済堂ブルーブックス、1985年 

◆証券業界。独立して外国銀行の運用資産のマネージメントを請け負う「ファンド・マネージャー」の三原健一と、通信社の辣腕記者の井上大介が主人公。株式市場の実態と、その背景となる国際情勢の絡み合いについて描かれている。巨額の資産運用を国際市場で行っているバチカンは、「地下の世界銀行」でもあり、「多国籍企業」と言われるような機能を果たしていること(=「黒い相場師」)、同様に莫大な資産の運用を行っているクレムリンの存在(=「赤い相場師」)、日本の証券市場における上場審査基準は、大学入試と同じで、入るのは非常に難しいが、一旦入ってしまえば特権でもあるように保護され続けること(外国企業が参入しにくい閉鎖性を特徴とする)、地下数百メートルにある大金庫に膨大な資産を金銀財宝の形で保管し、預金や信託財産を無限責任保障するスイスのプライベートバンクの存在、1997年に予定されている香港返還が国際金融市場に与える影響などが指摘されている。

◎安田二郎 『相場が燃える日』 廣済堂文庫、1986年

◆ある日、戸塚にある国際射撃場で、主人公北條文男が準大手に肉薄する実力を有する名門平和証券の社長林富蔵に出会う。そして、腹違いの弟でもある監査役の大谷恒夫を補佐役につけるので、絶対に儲かる情報をつかんで欲しいという依頼を受ける。

◎安田二郎 『マネーハンター』 講談社文庫、1983年 

◆証券業界。証券会社の活動、大蔵省との確執、大手証券会社の暗部などが描かれている。主人公は、株の予想屋・アナリスト・コンサルタントをやっている工藤直人。著者の安田は、「通称シマと呼ばれる証券業界を老舗の中小証券が結束(し、秘密結社のような「闇のシンジケート」を組織)する旧勢力と四大証券を中心とする新興勢力との対立」の構図で見ている。「新興勢力」という意味は、コンピュータによる顧客管理・株価管理を採用しているからである。そして、「相場師が活躍する時代」ではなく、1960年代の後半から始まった、大手の証券会社がコンピュータを駆使して、顧客と情報を管理し、大がかりに株価の操作を行う時代の到来を浮き彫りにしている。初刊本は、80年に『兜町の狩人』という題名で亜紀書房から刊行。

※やまぐち ひとみ※

◎山口  瞳 『江分利満氏の華麗な生活』 角川文庫、1996年

◆主人公の江分利氏の半生を描きながら、戦後復興期から高度成長期にかけての庶民の生活ぶりがよく描かれている。初刊本は、1968年に新潮文庫から刊行。

◎山口  瞳 『江分利満氏の優雅な生活』 新潮文庫、1968年

◆大正15年生まれの東西電機の宣伝部員である35歳の江分利氏を主人公として、高度成長期(1961年頃)のごく平凡なサラリーマンの生活・考え方を描いた作品。雑誌や新聞のコラムにいくらでもありそうな話がつづられている。62年下半期の直木賞受賞作。

※やまざき とよこ※

◎山崎豊子 『華麗なる一族』 全3巻、新潮文庫、1980年

◆都市銀行の合併が成立する場合、当然のことながら、合併によって預金量を増やし、ランキングをアップさせたいという銀行経営者の思惑が第一に考えられる。しかし、金融行政を統括する大蔵省や大蔵大臣等の意向・思惑とも密接に絡み合わなければ、その成功はありえない。銀行合併を仕切ることが大きな勲章になる大蔵官僚の思惑とは、銀行間の熾烈な競争を巧みに活用しながら、合併推進という勲章をひっさげて、自分のキャリア・アップを実現することであり、政治家の思惑とは、金融再編成を推し進めたという政治的業績に留まらず、より太い資金源を確保したいという期待感である。そうした三者三様の思惑と野心をダイナミックなスケールで描き上げたのが、73年に太陽銀行(元日本相互銀行)と神戸銀行が合併して誕生した太陽神戸銀行をモチーフにして書かれたこの作品である。初刊本は、『週刊新潮』で2年7ヶ月にわたって連載された後、73年2月に新潮社から刊行。

◎山崎豊子 『沈まぬ太陽』 全5巻、新潮社、1999年

◆「組織の一員として、自分の信念を客観的な判断に基づいて云うべきことを具申し、正すべきところを正したことによって疎まれ」て、「島流し」の如く、中近東のパキスタン(カラチ支店)、イラン(1966年にテヘラン支店に赴任)を経て、さらには、アフリカの地(1969年にケニアのナイロビ営業所=ワンマン・オフィスに赴任)へとたらい回しされる。後に東京へ呼び戻され、組織改革に尽力したにもかかわらず、再度アフリカに追いやられてしまうある人物の壮絶な生き様を、ものの見事に描いた大作。その男の名前は、国民航空(日本航空がモデル)労働組合(組合員数3000名)の委員長を務めた恩地元。

◎山崎豊子 『不毛地帯』 全4巻、新潮文庫、1983年   

◆総合商社。11年間にも及ぶ過酷なシベリア抑留生活を終え、1956年に帰国した、元大本営参謀の主人公壱岐 正は、繊維問屋から総合商社に急成長した「近畿商事」に、社長の薦めで入社する。そして、航空機の売り込みや石油商戦などの激しい競争のなかで、純粋な心を持ちながらも非情に生き抜き、異例の昇進を果たして、同社のナンバー3となる。と同時に、これまでは巨大な「個人企業」にすぎなかった同社の、組織化・近代化を実現していく。本書は、かかるプロセスを雄大なスケールで見事に描いている。シベリアの捕虜収容所での過酷な生活ぶり、商社の業務活動、すさまじい国際商戦の中身、総合商社の経営内容など、興味の惹かれるストーリーと情報が満載されている。主人公の壱岐は伊藤忠商事の瀬島龍三、鮫島辰三は日商岩井の海部八郎がモデル。戦時中から高度成長期に至る日本経済の歩みを、一つの側面から描き出した大歴史ロマンでもある。初刊本は、1976−79年に新潮社から刊行。

※やまざき ひろき※

◎山崎洋樹 『小説バンカーズ ぼくが銀行をやめた理由』 日経ビジネス文庫、2001年

◆入行当時、「これが日本を代表する銀行か」と呆れ返った幼稚さは、その後も変わっていないという感想を持つ著者。「もしバブルがなければ、あのまま銀行という組織は、もっとうまくいっていただろうか?僕には、そうは思えない。バブルは、銀行の歪みを極端な形で具現化しただけのことである」。銀行に入って以来、やめることばかり考えていたにもかかわらず、6年の歳月が流れた。結局、30歳を前にしてF銀行をやめるまでに銀行内で起こったこと、感じたことをまとめた作品である。「フィクションの部分もあるが、事実を誇張したり、捏造したりするようなことは一切していない」。初刊本は、1992年にJICC出版局から刊行。

※やまざき ようこ※

◎山崎洋子 『ホテルウーマン』 講談社文庫、1995年

◆主人公の神尾しゅう子は、ニューヨークにあるコロンビア大学のビジネススクールでMBA(経営管理学修士号)を取得。未婚の母となり、熾烈な競争を繰り広げる東京の高級シティホテルであるホテルタカトオに就職する。本書は、病にかかった子供の世話をしながら、ホテル・ウーマンとして歩んでいく彼女を軸にして、ホテルのさまざまな断面を垣間見せてくれる。初刊本は、91年に毎日新聞社から刊行。

※やまだ しんや※

◎山田真哉 『女子大生会計士の事件簿』(DX1〜3) 角川文庫、2004〜05年

◆天真爛漫な女子大生の公認会計士である藤原萌実(もえみ)と、弱気な29歳の会計士補・柿本一麻が主人公。公認会計士の活動を通して、経理業務の奥深さ、監査のスリリングさ、会計トリックのミステリー的要素、会計のおもしろさなどが軽快なタッチで描かれている。いわば「会計」小説。

※やまだ ともひこ※

◎山田智彦 『解雇 男たちのリストラ』 小学館文庫、1998年   

◆バブル崩壊後のリストラを扱ったもの。主人公は、50歳前後の五人のサラリーマン。それぞれ、鉄鋼メーカー、外資系の大手コンピュータメーカー、中堅ソフト会社、新聞社、家電メーカーの管理職。

◎山田智彦 『銀行合併』 講談社文庫、1994年

◆「東京相和銀行の銀行マンでもある著者」による銀行の合併劇描写。各銀行の首脳たち、大蔵省銀行局のエリート官僚、政財界に睨みを利かす大物フィクサーなどが、それぞれの思惑を持って事態に関与してくる様子が描かれている。

◎山田智彦 『銀行消失』 講談社文庫、1997年

◆頭取のもとで、拡大路線を推進してきたが、バブル崩壊のあおりを食って、膨大な量の不良債権を抱え込んだ中位の都市銀行である栄和銀行。そこには、長野原公平頭取、菊田雄一総合企画部長、青田泰昭秘書課長、頭取の息子でもある長野原公一郎常務を軸とする頭取派と、大蔵省出身の石黒良太郎専務と秘書役の平間勝重を中心とする専務派という二つの派閥が存在した。栄和銀行の内輪もめと業績の悪化に乗じて合併吸収しようとしていたのが、都銀上位行の第一豊倉銀行頭取梨田精吉と、日本慶洋銀行会長小松原政行であった。 そんな折り、長野原頭取が失踪するという事件が起こった。本書に関して特筆すべき点は、次のことである。本書の初刊本は1994年に講談社から刊行されたが、初出誌は、1991年11月から翌年12月の『週刊現代』である。つまり、著者は、その時点で、5年後に起こることになる、銀行の消失を含む現在の金融業界の再編の一端をある程度予測していたと言っていいだろう。具体的には、それまでの「再建型」ではなく、「清算型」の処理が適用された、96年11月の阪和銀行の業務停止を契機として、「倒産・消滅時代」が開始されたのである。

◎山田智彦 『クレムリン銀行』 角川文庫、1984年

◆銀行。ソ連のモスクワ・ナロードニイ銀行をモデルにしたシンガポールに拠点をおく「クレムリン銀行」と、華僑の大物実業家である啓伝虎による思い切った融資・事業拡張を軸に、日本の二つの大手都市銀行間の激しい競争が描かれている。

◎山田智彦 『ザ・マーケット』 全3巻、講談社文庫、1986年   

◆百貨店業界。高度成長の末期であるオイルショックの前夜から物語が始まり、低成長期における百貨店業界の再編を扱っている。ただし、話のメインは、70−80万品もの商品を扱う百貨店の内部に肉薄するというよりも、名古屋の百貨店に吸収・合併される横浜のある「ぬるま湯のような雰囲気」の百貨店に勤務する三人の中堅社員の転職および恋愛の あり方を描いた部分であろうか。大学を出てから十何年、ちょうど人生の転機とも言うべき30代半ばの中堅サラリーマンの心情に焦点が当てられている。初刊本は、83年に日本経済新聞社から刊行。

◎山田智彦 『支店長室の六人』 新潮文庫、1985年 

◆100万円の紛失事件が起こった海洋銀行大船支店の六人の幹部たちをめぐる5つの話が「連作」という形で盛り込まれた作品。100万円は支店長によって取り戻され、犯人は極秘の内に処理され、本店にも報告されていない。事件はもみ消されたのである。しかし、その事件には、ウラがあった。その真相が解明されかかるが、結局は出世というエサを目の前にぶら下げられて、ムヤムヤのうちに終わってしまう。出世コースを歩むエリート支店長の自己防衛の見事さのみが浮かび上がる。初刊本は、1982年に新潮社から刊行。

◎山田智彦 『重役室25時』 角川文庫、1980年

◆中位の都市銀行である和光銀行総合企画部に勤務し、頭取の命令でカリフォルニアの銀行を傘下に収めるための調査を任じられた広江洋一郎が主人公。銀行内部に存在する矢野原史郎頭取派(やや上位にある旧財閥系の都市銀行である海洋銀行との合併を画策。合併を有利に展開させようとして、預金量を増やすために、カリフォルニアの銀行を吸収しようとする)、野々村澄男専務派(経済界に隠然たる影響力を有した怪人物の石牟田丙作および、自分の長女と結婚した久我山守二取締役と連携)、井波源太郎常務派(加藤五十八前頭取・現会長と連携)という三つの派閥間の抗争を見事に描いている。そうしたドラマの背景には、銀行の実力がもっぱら預金量の大きさによって計られていたという実情が存在した。「銀行の経営者にとって、最大の関心はこの預金量の伸張率にあった。何故なら、銀行業界にあっては、預金を制する者がすべてを制すると言ってもよいくらい」であった。初刊本は、77年に角川書店から刊行。

◎山田智彦 『頭脳集団』 廣済堂文庫、1997年

◆「コンピューターと言えば、ハードだと思っている人が多い」がそれを動かし、自由に使いこなしているのが、さまざまなプログラムを開発し、コンピューターを自由に操作するソフトウエアマン(SE、プログラマー)なのである。ソフトハウス会社(=ソフトウエア会社)に勤務する主人公の活躍ぶりが描かれるなかで、ソフトの重要性が浮き彫りにされている。初刊本は、86年にサンケイ出版から刊行。

◎山田智彦 『東京・マネーマーケット』 上下巻、文春文庫、1995年

◆銀行。オモテとウラを含めて、三つの銀行間での激しい競争が浮き彫りにされている。本来的な銀行業務(融資業務)が「逆ザヤ」で赤字になった今、外国業務・財テク・不動産投資を三本柱とする業務に変質しつつある銀行業務の一端が理解できる。そして、そのために必要な、為替ディーラー、資金ディーラー、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどの人材確保がクローズアップされている。本書では、特に、ロンドン、ニューヨーク、東京を軸に展開される為替投機の実状や、「 ハイリスク・ハイリターン」を旨とする為替ディーラーたちの活動ぶり(大きなリターンを得るためには「神がかり」的な要素が必要なのか、という疑問も出るが)、優秀な人材確保をめざして、「ヘッドハンティング」に精を出す人々がよく描かれている。初刊本は、90年に文藝春秋から刊行。

◎山田智彦 『頭取の首』 文春文庫、1995年

◆銀行。歴史小説にも幾つかの著作を有する山田は、その手法を生かして、1956年から30年にもおよぶ時の流れをベースにして、収益率日本一の三京銀行の中枢部を舞台に、権力への欲と執着に明け暮れる男たちの興亡の様を描いている。物語の下敷きとしてイトマン・ 住友事件がある。バブル期の銀行の動きにも言及されている。初刊本は、1992年から文藝春秋から刊行。

◎山田智彦 『ヘッドハンター』 講談社文庫、1992年

◆人材スカウト業。定年が55歳から60歳に延長されつつあるのに対して、窓際族の増加、出向制度の促進、関連子会社への転出などは逆に早まり、終身雇用や年功序列が少しづつ崩壊に 向かって進展しつつある昨今。本書では、「人材スカウト会社」(かつては「人材銀行」と呼ばれたが、今では「ヘッドハンター」=「サーチ」といった名称が与えられている)という業種が登場している。それは、転職を希望する人をほかの会社に紹介斡旋するのではなく、企業にとって必要な人材を発掘し、引き抜いていくところに特徴がある。かつては、中高年層や役職者が対象であったが、今後はもっと若い層にも拡大するだろうと言われている。本書には、銀行に勤務する三人の男がヘッドハンティングによって転職するかどうかという話が描かれている。原題は、87年にサンケイ出版から刊行された『人材銀行』。

※ゆうき しろう※

◎結城史郎 『インターネットの死角』 WAVE出版、1996年

◆「ウエーブネット」という、情報システムのコンサルティング会社(スタッフ12名)の社長を務める矢吹賢一が主人公。コンピュータやインターネットを駆使した幾つかの斬新なニュービジネスを展開する様子が描かれている。

※ゆうき まこ※

◎結城真子 『ハッピーハウス』 河出文庫、1993年

◆主人公は、「会社が生んだ史上最強の営業ロボット」と揶揄されている、アパレル会社の女性課長高沢優子。28歳。彼女の好きだった曲は、80年代初めのスージー・アンド・ザ・バンシーズの「ハッピーハウス」。そのなかに、「ここじゃあ、みんなハッピー。ここにいれば楽しくて仕方がない。わたしたちは夢うつつ。自分自身のことは忘れて、すべてがうまくいっているふりをするのよ」という歌詞がある。初刊本は、89年に河出書房新社から刊行。

※よこた てつじ※

◎横田哲治 『ビーフマフィア− 牛肉汚職の黒い霧』 ダイヤモンド社、1979年

◆「涙ぐましいまでの畜産農家保護のために、日本の牛肉はなぜ高価でなければならないのだろうか」。牛飼いの体験を踏まえて『農業保護』の意味を問い直してみると、保護されているのは「農林議員、高級官僚、外郭団体」などではないだろうか。巨額の「調整金」はどこに消えていくのか。各種の外郭団体は、いったいどんな業務を行っているのか? 「ドキュメントノベル」という説明に示されるように、この作品は、ドキュメントタッチで、そうした疑問を追究していく。

※よこた はまお※

◎横田濱夫 『外資系バトラー氏の駐留日記』 角川書店、1999年

◆主人公は、アメリカの大手銀行であるホライズン・ステート・バンクの第二業務開発部長である41歳のマービン・バトラー。下っ端ではないが、とびきりのエリートというわけでもない。年俸32万ドルの「張り出し部長」クラス。そんな彼が、破綻し同社に買収された旧かみかぜ銀行、新しいホライズン・ステート・バンク・ジャパンの副社長として赴任するところから物語が始まる。社長は、ほかの大手米銀から引き抜かれたコバヤシ。バトラーに課せられた業務は、リストラを推進(マスコミの批判や監督官庁にも配慮したために、2年間は雇用を保障することになっていた)し、収益率を上げて(アメリカの本部からは、二年以内にROE、つまり株主資本利益率を現在の3.1%から19%に引き上げるという命令が出されている)、株価を高めることである。それらの業務をうまくやれば、帰国後の昇進が可能になるかもしれないという期待を抱きながら、妻のジョアン、長女のクリス、長男のデイビッドをアメリカにおいての単身赴任である。その間、バトラーはIR会社に勤務するヨーコと恋に陥り、半同棲生活に入り込んでいく。他方、妻のジョアンは、趣味のヒーリングにのめり込み、家庭崩壊の危機に陥る。本書のおもしろさは、彼の目を通して見た日本の銀行マンの勤務ぶりや考え方が浮き彫りにされている点である。「実績数字がすべて」であるアメリカの銀行で育った彼にとって、日本で経験するすべてが「カルチャー・ショック」であった。

◎横田濱夫 『はみ出し銀行マンの家庭崩壊』 角川文庫、1997年

◆銀行。『はみ出し銀行マンの勤番日記』に対する読者からの手紙のうち、銀行員の妻たちからのものを素材にして書かれている。万引き、家庭内暴力、脱糞、動物虐待などのクセを有した多くの銀行員の生態が確認できる。原題は、1992年にオーエス出版から刊行された『銀行マンの妻たちは、いま』。経済小説ではないが、同じような感覚の内容になっている。

◎横田濱夫 『はみ出し銀行マンの左遷日記』 角川文庫、1996年

◆銀行。横浜銀行に12年間勤務し、暴露本を刊行したことで左遷され、ついに辞職するに至った著者によるシニカルタッチのエッセイ。彼によって「コネと毛並みとオベンチャラの世界」と評された銀行内部のさまざまなエピソードがコミカルに描かれている。その本が店頭に並んだ次の日には、7000名の行員を有する横浜銀行中に知れ渡ってしまったらしい。初刊本は、93年にオーエス出版から刊行。

◎横田濱夫 『はみ出し銀行マンの珍事件簿』 角川文庫、1998年

◆銀行。本書の解説を書いている宮本政於によれば、最近の日本経済の停滞の原因は、「集団主義」にあるとされる。出る杭は「集団の和」を乱すということで、自分の意志をできるだけ控えるようにするのも、そのためである。そこから解放されない限り、これからの荒波には立ち向かえない。しかしながら、本書で浮き彫りにされた銀行の実態は、ぬるま湯の一言に尽きるだろう。初刊本は、95年に東京書籍から刊行。

◎横田濱夫 『はみ出し銀行マンの乱闘日記』 角川文庫、1996年

◆銀行。銀行で働く人々の習性がよく描かれている。支店の連中は、客にはケツを向けつつ、本部の方を向いて仕事をし、会長・頭取は大蔵省の天下りが通例の「港の見える丘銀行」(横浜銀行がモデル)では、本部は大蔵省の方を向いて仕事をしているらしい。著者によれば、日本的経営の核心は、みんなが組織に対する帰属意識と忠誠心で固められ、「一人一人の人格」まで否定し、同じ価値観を持つことを強要されるという点にある。テーラーは、「作業の標準化」を提唱したが、日本の会社は「人格の標準化」までしようとしている。初刊本は、92年にオーエス出版から刊行。

※よしむら のぶひこ※

◎吉村喜彦 『ビア・ボーイ』 新潮社、2006年

◆1980年代のビール会社で花形部門の宣伝部から、まったく畑違いの営業マンとして再出発するはめになった主人公の上杉朗。彼は、営業成績がワーストという広島支店に飛ばされる。業界トップのライオンが圧倒的な強みを持っており、新規開拓には高いハードルがある。しかも、初対面の人は苦手ときている。が、愛嬌がある。数々の失敗をしでかすものの、直属の上司である柴忠義や担当した地域の酒屋などにも可愛がられて、旧態依然の営業活動を改革し、一人前の営業マンに成長していく。上司の部下に対する接し方も学べる作品だ。キャッチフレーズは「本邦初のザ・営業成長小説」。