桜井文庫は、朝鮮関係の書誌研究者として著名な故桜井義之氏の旧蔵書であり、1975年以来、東京経済大学図書館で順次公開されてきたものである。その一部を成す朝鮮関係錦絵コレクションは他に類を見ないものであり、貴重な歴史史料といえる。
明治期の錦絵は江戸時代のものと違って、現代のニュース写真のような役割を果たした面を持つ。しかしその題材は、当時の庶民が歓迎したグロテスクな、あるいはドラマチックな場面が誇張されており、景色や風俗も現実の朝鮮に取材したものとは限らない。したがって、これらの錦絵の内容は明治期日本人の朝鮮観をうかがう材料と考えるべきであり、これがそのまま当時の事件の実相を伝えるものではないことに留意していただきたい。
そうした歴史的意味をふまえて眺めるとき、このコレクションは数多くの興味深い論点を浮かび上がらせてくれるだろう。