『CLIP!』というフリーペーパーがある日届いた。B51枚の小さな新聞だが、なかなかシャレている。三つ折りするとシステム手帳にリフィルできるのもいい。センスがいいなと思ったら、ぼくのゼミの卒業生が作ったものだった。やっぱり、いい師と巡り会うことは大事だ、とつくづく思った。いや、これは冗談!!
この新聞は柳原裕志君と平川美紀さんが出している。ぼくのゼミを一昨年の3月に卒業した。就職難の年で、二人とも卒業時点では行き先が決まっていなかったが、4月には柳原君がビデオ・ゲームの業界紙、平川さんはイベント企画の会社に落ちついた。とりあえず安心したが、数カ月後に二人でぼくの家に遊びに来て、「結婚するかもしれません」といった。ゼミから生まれたはじめてのカップルである。とりあえずはおめでたい。けれども、経済状態を考えるといつになるかわからないと言う。ちょっとあぶなっかしいなと思った。そしたら、今年の春に、柳原君が仕事を辞めると言ってきた。
「ちょっと考えるためにバリ島に行ってきます。」と言う。いい気なものだ。美紀ちゃんの身にもなってみろ。働き過ぎで体をこわしたそうじゃないか。と言いたかったが、彼には彼なりの悩みがある。それにそんなことは彼女からずいぶん言われているらしい。
で『CLIP!』だが、創刊号の日付は1996年10月になっている。最新号が8号だから、月刊のペース。内容は本やCDのレビュー、気にいった店やイベントの紹介、バリ島旅行日記などもある。ぼくのホームページとほとんど同じ時期に出発しているし、品揃えも似ている。やっぱりぼくの影響かな?それともぼくが影響された?Trainspottingの映画評を少し引用してみよう。
「この映画を90年代的だと思うのは、結局主人公たちの抱える問題は、生活を送る場所がたとえエジンバラであっても大阪であっても、"今"の時代を生きる場が僕たちにとってはどこにでもある、もう逃れようのないものであるからだ。
毎日の決まりきった行動。それから逃れるためのささやかな努力。乾いた笑い。恋人とのわずかな幸せ。またやってしまった同じ失敗。そして確実に来るあの毎日。
それを少しでも忘れたいがために、または少しでも良くしようなんて思って色々なことを試してみる。でもそれは、結局自分自身や身の周りにあるものを再認識することで終わってしまって、最悪の場合あらためて絶望を味わってしまったりして........まぁ上手くはいかない。そして、こういうときの気持ちもまた上手く言い表すことができない。ボーっとした頭で何を考えるわけでもなくスピーカーから流れる音楽を聞き流す。それ以上のことはなかなかできなかったりして........これって本当になんて言えばいいんだろう。」(Vol.05)
あー、なかなかいいとこおさえてる。ひいき目ではなく、本当にそう思う。卒業してからずいぶん文章も上達した。
で、ぼくは「『CLIP!』をホームページ化しろ!」としつこく催促しているのだが、「紙の良さは捨てがたいので」などと屁理屈をこねている。ぼくのホームページには更新が少ないとか、レイアウトだけでごまかしまして、と文句をつけるくせに、けしからん。だから、ぼくも「老眼の始まった目にはちょっと小さくてつらいから、拡大コピーしてから読んでやる」と皮肉を言ってやった。そうしたら最新号から字が大きくなった。そのせいか紙も倍の大きさになった。「また紙のむだづかいして」と憎まれ口をたたきたくなったが、これって、彼らのやさしさなのかなと思ったら、何となく顔がほころんだ。彼は、新しい仕事を始めたようである。「君たち、どうせ一緒になるなら、早い方がいいよ!大嫌いでやったことないけど、君たちなら仲人やってもいいからさ!!」
自分ながら、つくづく、口うるさいオジサンだとうんざりしてしまう。
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