Back | Next |
---|
●最近見た映画 |
『コーヒーとシガレット』 |
05月22日 |
![]() ・こういう情報に最近まったく疎くなった。映画はもっぱらBSで、それもほとんど行き当たりばったり。おそらく、『ブロークン・フラワーズ』も、「見たいな」で忘れてしまったかもしれないのだが、Wowowでたまたま『コーヒーとシガレット』に遭遇した。それも途中からで、アメリカによくある古びたあか抜けないコーヒー・ショップのテーブルにイギー・ポップが一人でいてタバコを吸ってコーヒーを飲んでいた。モノクロ画面で直感的にジム・ジャームッシュと思ったが、そこにトム・ウェイツがやってきておしゃべりをはじめたからさらに確信した。 ![]() ・イギーがトムにタバコを勧める。トムは「タバコはやめた」といって断る。しかし「やめたんなら吸ってもいいじゃないか」と言われると「そうだな」といって吸い始める。タバコをやめたからもう吸わない、ではなく、やめたんだから吸ってもいい。変な理屈だけど一理ある。買わないけれどたまにはもらいタバコを楽しむ人は、まわりにもいる。 ・トム・ウェイツは酔いどれ天使などと言われてタバコと酒がトレードマークになっていたが、最近では田舎にこもって奥さんのキャスリン・ブレナンとつくったアルバムをだしている。イメージはずいぶん変わったけれど、映画には昔のままで登場している。この二人の会話はまったくかみ合わない。そこが何ともおもしろい。イギーがトムに店のジュークボックスに「君のレコードがない」というと、トムは「この店、気にいらないか?」と聞き返す。いいドラマーがいるけどどうか聞くと、「俺のバンドのドラムは駄目か?」と聞き返す。そのたびにイギーは、そんなつもりでいったわけじゃない、と弁解する。 ・いつ壊れてもおかしくないやりとり。そこをかろうじて、タバコとコーヒーが取り持っている。もちろん、イギーの我慢強さということもある。イギーは待ち合わせがあるといって席を立つ。トムは一人残って、もう一杯。最後にジュークボックスを確かめて「何だ、イギーのもねーじゃねーか」。コーヒーショップのジュークボックスに自分のレコードがないのは、ミュージシャンのこけんにかかわる、ということか。 ・もう一つおもしろかったのはケイト・ブランシェットが二役で演じたシーンだ。大女優とそのいとこの売れないロックミュージシャンがホテルのカフェで話をしている。携帯が鳴ったりして忙しい大女優に最初は同情的ないとこも、自分の売れない境遇と比較して、愚痴を言い始めたりする。大女優がいとこに高級ブランドの化粧品のプレゼントする。ありがとうといいながら、「もらいものでしょ?」と聞き返すのも忘れない。さらに「金持ちはただでもらって、貧乏人が金を出して買う。それっておかしいくない?」などとからんでくる。大女優はスケジュールがあるからと退席するがロックミュージシャンはしばらく居座ろうとする。で、タバコをくわえて火をつけようとすると「禁煙です」の声。 ・どこもかしこも禁煙になって、タバコを吸いながら雑談、なんていう状況設定がだんだんとりにくくなった。レストランはもちろん、喫茶店もカフェと名前を変えて禁煙といった具合だから、もうタバコは憩いの道具ではないのかもしれない。第一今は、「憩う」ではなく「癒す」のである。ストレスなどで心身共にまいっているのに、万病の元のニコチンでさらに体を痛めつけるな、ということだろうか。そう言えば、カフェもテイクアウトがおおい。エスプレッソやカプチーノと気取っても、ゆっくり時を過ごすゆとりがないのかもしれない。 ・ポール・オースターの『スモーク』と『ブルー・イン・ザ・フェイス』はブルックリンのたばこ屋が舞台だった。その『ブルー・イン・ザ・フェイス』のほうにジム・ジャームッシュが登場して、たばこ屋の雇われ店主のハーベイ・カイテルとタバコ談義をするシーンが印象的だった。それを見たときに書いたレビューには、ジャームッシュはそこに最後のタバコを吸いに来たと言ったと書いてある。 ・『コーヒーとシガレット』は何年にも渡って撮りためた短編集のようである。その割にはトーンが一定で、最初から、後でまとめるつもりだったように思われる。タバコが吸えた時代、タバコが人々の間に介在して、間を持たせ、空気を和ませる役割を認められていた時代の記録。そんなことを考えてしまうほど、昨今の禁煙の波は激しい。それも、グローバルな傾向だから、どこに行ってもスモーカーには逃げ場がない。やれやれ……。 ・ところで、『ブロークン・フラワーズ』はどうしようか………………。 |
感想をどうぞ |
---|