CD Review

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●最近出かけたライブ、買ったCD

  • アイルランド出身のミュージシャンには個性的な人たちが多い。U2、エンヤ、シンニード・オコーナー、そしてヴァン・モリソン。サウンドはそれぞれにずいぶん違うが、彼/彼女らの誰もが、アイリッシュであることを表に出す。だから、アイルランドが政治や宗教、そして民族といったさまざまな問題を抱えた国であることが否応なしに自覚される。
  • 数年前にU2のコンサートに行ったときに、ボノが「今夜はみんなアイリッシュだよ」と言った。ぼくはそのことばにちょっと違和感を感じた。「ここはファー・イーストだよ。『血の日曜日』という曲は知ってても、アイリッシュの心に共感したくてコンサートに来たヤツなんていないだろ」。そう、ぼくにとって、アイルランドは遠いなじみのない国。だから、彼や彼女らの音楽にはたまらなく惹かれる気持ちを持っても、そこにいつでもつきまとう「アイリッシュ」には、できれば脇に置いておきたいという感じを持っていた。
  • 先日BSでアイルランドを訪れる番組を見た。黒ビールとパブとケルト人の遺跡を訪ねるのがテーマだった。ほとんど木が生えていない土地。というよりは、岩盤の上にわずかに堆積した土だけでできている土地。そこにしがみつくようにして生きてきた人たち。そんな土地からも追い出された人たち。そして、アメリカに逃げた人たち。アイルランドはアメリカに一番近いヨーロッパである。そのアメリカにはアイリッシュの子孫が数千万人も住んでいる。
  • 長田弘は『アメリカの心の歌』のなかでヴァン・モリソンにふれ「内なる土地」ということを書いている。生きるには厳しすぎる環境、だからこそ、かけがえのないものとして育まれた独特の文化。そんな土地からの追放という歴史が、自らの文化への愛着を持続させる。アイルランド人は心の中にもうひとつの土地を持つ。「内なる土地」は「どこでもない場所であるすべての場所」、「精神の国」。U2が僕らに言ったのはその場所、その国のことだったはずだが、ぼくにはそんなことはわからなかった。だとしたら、その時ぼくは、U2の音楽に何を聴いていたのだろうか?
  • ヴァン・モリソンは「ゼム」のリーダーとして「ビートルズ」や「ローリングストーンズ」と同時代にロック・ミュージシャンとしてデビューしたが、1968年にソロ・シンガーとしてはじめてのアルバム『Astral Weeks』を出した。『T.B.Sheers』(1973)『Wavelength』(1978)などの初期のものから『Irish Heartbeat』(1988)『Avalon Sunset』(1989)などを経た最近の『Too Long in Exile』(1993)に至るまで、歌のテーマもサウンドもほとんど変わっていない。変わったことがわかるのはアルバム・ジャケットで見る彼の外見だけである。
      ここにまた俺がいる
      この街角に戻ってきた
      いつも俺はここにいた
      すべてが同じ
      何も変わっていない
      この街角に戻ってきた
      癒しのゲームの中で
  • 『The Healing games』は今年出た彼の最新のアルバムである。歌詞の通り、何も変わっていない。けれども、いつも新しい。というよりは新鮮と言うべきだろう。彼の歌にはいつでも、僕らがとっくになくした、あるいはいまだ手にしたことがない「ハートビート」が確かにある。



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