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●最近聴いたCD

Elliot Smith


エリオット・スミスはすでにこの世にはいない。2003年の10月に死んでしまっている。まだ34歳で、死因は自殺のようだ。そんなことを最初に知ってから聴いたせいか、どれを聴いても死の影が感じられてしまう。歌声はか細く、音程も不安定で、何とも頼りない。
1994年にソロ・アルバム"roman candle"を出している。翌95年にでた無題のアルバムとあわせて、納められた曲の大半にドラッグが登場してくる。ジャケットにはビルの谷間に落ちてくる二人の人影が描かれている。その最初の曲名は「干し草のなかの針」。探しても探しても見つからないものを必死で求めているのか、あるいはドラッグに関係があるのか。歌詞カードも判読不能の手書きのもので、内容もわかりやすくはないが、次のような、情景をありありと描きやすい描写もある。
彼の腕に手をかける
首まで埋もれた干し草の山と戯れる
からだは薬で衰弱しているが
金を借りようと友達に電話をする
予想はしていたが、やつは黙ったままだった
エリオット・スミスが注目されるきっかけになったのは、映画『グッド・ウィル・ハンティング』のサントラに使われたからだった。小さい頃の親からの虐待が原因で自分をだめな人間だと思いこんでしまった少年が、同じような境遇を経験した精神科の医師によって、自分に向き合い、その才能を自覚していく話だ。出演はマット・デイモンとロビン・ウィリアムスで監督はガス・ヴァン・サント。アカデミーの9部門にノミネートされ、この映画のために書き下ろされたエリオット・スミスの歌"Miss Misery"も主題歌賞にノミネートされた。ぼくは見たはずだが、ほとんど記憶がない。ネットで探したら、彼の友達が書いた次のような文章に出会った。
アカデミー賞を見るために、僕は友だちと集まった。エリオットが賞を争うことになった他の曲は、どこか別の世界のものだった。大袈裟な、ストリングスにひっぱられたアレンジと、こけおどしのアクロバチックなヴォーカルがステージを支配していた。エリオットが真っ白いスーツを着て、古びたヤマハのギターを抱え、恥ずかしげに歩み出てきた時、彼の声はまるで一迅の新鮮な空気だった。それはリアルで、心の底からでてきたものだった。エリオットはそれを心から歌っていた。勿論、彼はオスカーを取らなかった。
(ファン・サイト"between the b@r"から引用)
エリオットは自分のために歌を作っている。湧き起こるイメージや心にたまるわだかまりを吐き出さずにはいられない。精神安定剤としての音楽、そしてドラッグ。メジャーに移籍する前のアルバムは、ほとんどひとりで作り上げている。多重録音してはいるが、歌うのも演奏するのもただひとりであるのがほとんどのようだ。きわめて自閉的で自罰的な歌ばかりで、オスカーの舞台とはかけ離れている。有名になること、金儲けをすることなどまったく考えてもいなかったかのように聞こえてくる。だとすれば、メジャーのミュージシャンになってしまったことは、彼にとっては良かったのか、悪かったのか。

死後に出された遺作の"from a basement on the hill"に載っている写真の顔はひどくむくんでいて髪の毛も伸びている。サウンドにも凝って聴きやすくなっているが、歌詞はやっぱり、必死で救いを求めているかのようだ。英語がすっと入ってきたらとても聴けない歌ばかりかもしれないが、耳には心地よくて、繰り返し聞きたくなる曲が多い。
ぼくを照らしてよ、ベイビー 
心には雨が降っているから
太陽がゆらゆら、ぎらぎらとあがってきて
雨が落とした酸が空中を漂っている
自由になるためには今、ゆがんだ現実が必要なんだ
"a distorted reality is now a necessity to be free"



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