CD Review

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●最近出かけたライブ、買ったCD

  • ゼミの学生だった足立君は今、神戸のパン屋さんで働いている。それがどういうわけか、仏師になりたいと言い出した。で、知り合いを通じて紹介してあげて、弟子入りすることにきまった。もう20代も半ばだから、見習い修行としてはちょっと遅い。いったいものになるまで続けられるのかどうか、実は非常に心配なのだ。
  • そんな彼が、ジェフ・バックリーの大ファンで、ぼくに聴かせたくてCDを何枚かもってきた。けれども、あまり関心を示さなかったので彼はものたりなかったようだった。ちょっと気になったから、あらためて自分で買って聴き直すことにした。しかし、何度か聴いた印象はやっぱり同じだった。悪いとは思わないが、何とも印象が薄い。足立君には悪いが、やっぱり好きにはなれそうにないなと思った。
  • ジェフ・バックリーは去年死んでいる。デビューから3年しかたっていなかった。川でおぼれたということだが死因はよくわからないようだ。実は、ジェフの父親であるティム・バックリーも67年にデビューしたシンガー・ソング・ライターで、やっぱり20代で死んでいる。原因はアルコールと麻薬のようだ。親子がともにミュージシャンで、同じように20代で死んでいる。そこがちょっと気になった。
  • ティムがデビューしたのは、メッセージ性の強いフォークソングが下火になりはじめて、ロックが巨大なマーケットを作り始めていた時期だった。ディランは潜行していたし、ビートルズもコンサートをしなくなって、サウンドに凝りはじめていた。そんな時代に登場したシンガーとして今聴いてみると、時代には合わないシンガーだったことがよくわかる。デビュー・アルバムでは、その声はあまりにきれいな高音だし、それ以後にはジャズを取り込もうとしていたり、プログレッシブ・ロック的なサウンドが聞こえてきたりする。苦労している様子はよくわかるのだが、他人とはちがう自分自身の声、サウンド、あるいはメッセージといったものが印象として残らない。
  • 親子のアルバムを聴き比べて気づくのは、まず顔と同じくらいによく似た声だろう。しかし、それ以上に思うのは、いろいろと音楽的な試行錯誤をやったんだろうなと感じられるサウンドの多様さである。繊細で豊かな感受性、音楽に対する真摯な姿勢、あるいはきまじめさ。それらがかえってアルバムに一貫性を感じさせなくさせ、印象の薄いものにさせている。二人に共通して感じられるそんな特徴は、あまりに早い死にも関係しているのだろうか。だとすれば、音楽や歌というのは残酷なものだという思いをあらためて感じてしまう。
  • 足立君は写真の勉強をするといって大学をやめた。それが家庭の事情で難しくなって、パンやさんで働いてきた。で、今度は仏師だという。自分がいったい何になりたいのか、何ができるのか、どれくらいがんばれるのか。そんなことを真剣に考える風潮は、今の学生たちからはあまり強く感じない。もちろん漠然とした不安としてもっていて、それが決して小さくないことはうかがうことができる。けれどもそれは半ば潜在化していて何とも頼りない。
  • 足立君はたぶんそんな状況から一歩抜けだそうとしているのだと思う。そんなことを考えると、彼がジェフ・バックリーを好きな理由もわかるような気がするし、熱心なファンがいるのも頷ける気がする。



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