・ジャクソン・ブラウンが6年ぶりにアルバムを出した。タイトルは"Standing in the Breach"(難局にあたる)でジャケットの写真はハイチ地震の際に撮られたもののようだ。そのアルバムタイトルになった「難局にあたる」は次のような歌詞で始まっている。
この地球が揺れて、土台が崩れたとしても
私たちは集まって、もとに戻すだろう
生きている人たちを助けようと駆けつけるし
難局にあたって一緒になって世界を作り直すだろう
・社会に目を向けて、メッセージとして歌を作る姿勢は相変わらず健在だ。”If I Could Be Anywhere"(どこにでもいることができるとしても)は、永遠に続くものはないと言っても、プラスティックはずっとあって、目をつぶったって消えはしない、と歌って環境汚染を訴えているし、"Which Side?(どっちの側か)は「ウォール街を占拠せよ」の抗議運動を支援するために作られた歌である。
・ジャクソン・ブラウンはいつでも、悲惨なことや不当なことから目を逸らさないが、彼の歌には必ず光がさしている。「厳冬に生きる人がいれば、常夏に生きる人もいる。幸運に恵まれた人と、それとは無縁な人。しかし、壁を作る人がいても、ドアを開ける人もいる」("Walls And Door")というように。そんな姿勢は彼の歌い方にも現れている。「壁と扉」はジョン・レノンの「壁と橋」を思い出させる題名だが、社会学の巨人であるジンメルにも「橋と扉」というエッセイがあって、言わんとするところはよく似ている。人はもともと結合しているものを分離したがるくせに、分離しているものは結合したがる奇妙な生きものだ、という点である。
・U2の"Songs of Innocence"(無垢の歌)はiTunesに公開されてAppleのデバイスに自動的にダウロードされて問題になったアルバムだ。ぼくのiPadには残念ながら入らなかったからAmazonで買うことにした。やはりこれも6年ぶりの新作で、U2にとっては満を持しての発表だったのだと思う。だからこそ、iTunesで多くの人に聴いて欲しいと考えたのかもしれない。けれども、これまで彼等のアルバムのすべてを聴いてきた者としては、一番印象が薄いと言わざるを得ない。確かにU2らしいサウンドにはなっているが、それだけに昔の焼き直しといったふうにしか聴けなかった。
・実際、彼等はどうだったのだろうか。自信があったからiTunesで無料で聴けるようにしたのか、あるいは自信がなかったからなのか。僕は後者だったのではないかと思う。ボノには音楽以外のことでエネルギーや時間を費やさなければならないことが多すぎるのかもしれない。 |