Book Review

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●最近読んだ本



  • 夏休みに入ってちょっとのんびりしている。とはいえ、そんなに遊んでばかりいるわけではない。大学の教員もなかなか忙しくなって、まとまった休みは夏だけというのが現状である。だから論文を書いたり、長い原稿を頼まれたりすると、それだけで休みは終わってしまう。今年は井上俊さんから「メディアとスポーツ」という宿題を課された。ロック論の続きも、去年の夏に書いて以来ストップしたままになっている。「大学の先生は休みが多くていいな」などと言われるが、それはとんでもない誤解なのである。
  • そんなわけで、ここしばらくは、スポーツの本ばかりを読んでいる。大半はアメリカやイギリスのスポーツの歴史や現状をテーマにしたものだが、改めて、そのメディア、とりわけテレビとの関係の深さを認識させられた。
  • 清水諭さんは筑波大学の体育学の先生である。若手の研究者だが、その彼から『甲子園野球のアルケオロジー』という本をいただいた。副題には「スポーツの『物語』・メディア・身体文化」とある。これは役に立つかもしれない。そんな気持ちで読み始めた。
  • ぼくは高校野球はあまり好きではない。というよりは高校野球のテレビ中継が嫌いである。理由は何より、「青春」とか「勇気」「友情」、あるいは「郷土愛」などを強調しすぎるところにある。第一、高校生の実態をとらえているとはとても思えない。それは自分が高校生の時にも感じていたことだが、校内暴力やいじめが問題になってからは、その中継の仕方の空々しさに、嫌悪感さえもってしまうようになった。
  • 『甲子園野球のアルケオロジー』には、そのような趣旨の物語づくりが、アナウンサーや解説者の語る言葉のなかに、あるいは、映し出される映像に、どのようにして描き出されているかが分析されている。「さわやか野球」で話題になった池田高校の取材、さらには「青年らしさ」の物語の起源を歴史的に求めた章と、この本を読んでいくと、「甲子園」と「若者」の物語が、大人が願う青年の理想像として創造され、メディアによって広められてきた経過がよくわかる。
    「朝日新聞社と日本高等学校野球連盟、さらにNHKの中継によって作られる甲子園野球の「物語」は、純真で、男らしく、すべてに正しく、模範的な『青少年』がスポーツマンシップとフェアプレイの『精神』で地方の代表としてはつらつたる妙技をみせるもの」であり、詰まるところそれは、理想の「青年」、「若者」像を提示している。p.250
  • ぼくの子どもは高校に入って、去年一年間野球部に所属したが、今年はもうやめて、夏休みはマクドナルドのバイトに励んでいる。クラブでできた友達との関係はともかく、監督を尊敬する気など最初からなかったし、愛校心などといった気持ちとも無関係のようだ。実態とイメージとの間にあるずれ。その距離は限りなく遠い。子どもを通して高校野球の実態を垣間見て思うのは、何よりそんな学校教育の現実である。
  • 「子どもらしさ」や「青年」「青春」といったイメージがとっくに消滅してしまっていることを、大人達はなぜ、もっと素直に見つめようとしないのだろうか。そのずれの中で居心地の悪い思いをしているのは、誰より若い人たちなのだから。


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