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●最近読んだ本

10月26日

南京と広島,加害と被害

ジョン・W.ダワー『容赦なき戦争』平凡社ライブラリー
加藤典洋『戦後入門』ちくま新書


中国がユネスコの「世界記憶遺産」に南京大虐殺の資料を申請して,登録が認められた。安倍政権はさっそく抗議をし、ユネスコに払っている分担金(37億円)を停止すると発言して、国の内外から批判を浴びている。当の事件については30万人説から捏造説まで多様にある。しかし、数はともかく実際にあったことは間違いなかったとされているのにである。

dower.jpg ジョン・ダワーの『容赦なき戦争』は第二次世界大戦における連合国と枢軸国、とりわけアメリカと日本の間で,実際に行われた戦闘と情報戦争について、「人種差別」を基本にして考察したものである。つまり、第二次世界大戦は「人種戦争」だったというのが,本書の結論である。

日本のアジア侵略には、欧米によって植民地化されたアジアを解放するという大義名分があった。しかし現実には、日本は植民地の独立ではなく,領土拡張をして新たな宗主国になった。この戦争の過程の中で日本軍が行った捕虜や民間人に対する虐待や虐殺は、南京だけでなく香港やマニラ、シンガポール、そしてタイやビルマでくり返しおこなわれている。

日本にとって連合国は「鬼畜」として敵視されたが、アメリカにとって日本は、真珠湾を奇襲した卑劣な国、天皇のために死ぬことを厭わない狂信者の国、そして民間人を無差別に殺す国としてイメージされた。そこにはもちろん、白人の黄色人種に対する差別意識があって、日本人は猿同然の劣等人だから、戦争に勝つだけではなく,日本人全体を絶滅させなければならない、といった論調で強化されていくことになった。

ダワーは、アメリカ軍による日本の多くの都市の空爆や、広島・長崎への原爆の投下を実行した裏には,こんな考え方があったと言う。ドイツに対しては「良いドイツ人」と「悪いナチス」といった区別があったのに、日本に対しては「悪いジャップ」しかなかった。それは日系米人だけを収容所に隔離した政策にも明らかだというのである。

tenyo1.jpg それではなぜ日本は国として、敗戦後にこのような人種差別を訴え,広島・長崎への原爆投下について、アメリカに抗議をしてこなかったのだろうか。加藤典洋の『戦後入門』には、その理由が詳細に検討されている。
本書が問題にするのは連合国が日本に降伏を迫った「ポツダム宣言」(1945)と「サンフランシスコ講和条約」(1951)の違い、つまり連合国ではなく、アメリカ単独で結ばれた「日米安保条約」の存在である。「ポツダム宣言」のままであれば、日本は1952年には独立して、占領状態が終わっていたはずなのに、「日米安保条約」によってアメリカ軍の駐留が続き、独立が曖昧なままになった。そして、この状態は60年、70年に改訂されて今日に至っている。

この曖昧さは、交戦権はもちろん武力の保持も禁じた「日本国憲法」と自衛隊の存在、戦争に対する加害者としての責任と被占領国への謝罪、そしてアメリカ軍による原爆投下と大規模な空襲に対して被害者として行うべき抗議、さらには戦争で命を落とした人への態度の有り様など、あらゆる点に及んでいて、ほどけない糸のように絡まり合い,いくつものねじれを生じさせている。

加藤は現在の安倍政権を「対米従属の徹底と戦前復帰型の国家主義の矛盾」と捉えていて、その破綻が目に見えている今こそ、それに代わるオプションが必要だと言う。つまり、「戦後の価値に立った自己をはっきりと国際社会に宣明することからはじめて『対米自立』して、『誇りある国づくり』をめざし、平和主義を基調に新たに国際社会に参入する」と言うのである。

僕はこの提案に諸手を挙げて賛成する。もちろん、これを実現させるのは容易ではない。しかし、沖縄の辺野古基地に反対すること、可決してしまった戦争法案の破棄に向けた動きに賛同すること、南京事件や慰安婦問題に真摯に対応すること、そして「日米地位協定」の見直しをアメリカに提案することなど、やるべきことはいくつでもある。


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