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●最近読んだ本 |
2月9日 |
心と身体 ジル・ボルト・テイラー『奇跡の脳』新潮文庫 山鳥重『脳からみた心』角川ソフィア文庫 『「わかる」とはどういうことか』ちくま新書 |
![]() ・山田規畝子の『壊れた脳 生存する知』は三度の脳出血という自らの経験を、医者として分析的に綴っている。彼女に現れた主な症状は世界が二次元に見えてしまうということだった。地面の凹凸がわからない。目の前の階段が上がるのか下がるのかわからないなど、わからないだらけの世界になる。あるいは直前の記憶がなくなってしまう。だから自分が今どこにいるのか、何をしているのかわからなくなることもしばしば起こったという。しかし、絶対に元通りになるという強い意志と、症状の記録や分析をおこなうことで、これまで何冊もの本を書いてきている。その不屈の心には恐れ入るばかりだ。 |
![]() ・人間の脳は主に右が感性を、左が知性を司る。彼女は左脳に大出血をして、その多くが壊れてしまった。だからリハビリは左脳の働きの再活性化にあったのだが、右脳が意識の前面に出たことで、人格に大きな変化があったことを肯定的に捉えている。過去に学んだことに基づき、くそまじめで理性的で未来志向的な左脳に比べて、右脳は現在の瞬間的な豊かさを基準にする。その今まで抑えてきた右脳を自分の個性の基本に据えて作り直そうとしたのである。 |
![]() ・脳卒中によって壊れた脳の部分は、当然、それまでおこなってきた働きをしなくなる。しかもその部分は傷が癒えるようには回復しない。だから、機能を回復させるためには、別の部分に新たな回路を作って同じ仕事をさせるようにしなければならない。それは、赤ん坊が独り立ちして歩けるようになったり、物事を認識し、ことばを喋りはじめるようになる成長の過程をもう一回くり返すことに他ならないのである。 |
![]() ・記憶したものには当然、時間的なつながりがある。「その歴史性と意味カテゴリーつまり状況性の両面から体系化されてはじめて生きた記憶になる。」しかし、この体系が崩れれば、記憶は時間と無関係に現れることになる。このような事例をもとに、著者はいったい「わかる」とはどういうことなのかという疑問を提示する。 ・彼によれば「わかる」仕組みの基盤には、それまでに蓄積された記憶がある。それは常識や習慣となり、また思想やイデオロギーとなって、今を判断する尺度になる。ジルは左脳が壊れたことで、「わかる」仕組みを生き残った右脳を主にして作り直そうとした。それはそれで大変な努力を要することだったが、逆に、当たり前すぎて無自覚に「わかってしまう」ことをなぜ、と疑うことの難しさはどうだろうということが気になった。先入観や固定観念に凝り固まった「わかる」仕組みを壊して、新たな「神経回路」を作ることは、その気になっても簡単ではない。と言うより、脳卒中のリハビリより難しいことではないのかと思ってしまった。 |
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