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![]() ・雨宮処凜(かりん)の『生きさせろ!』によれば、現在、フリーターと呼ばれる人の数は200万人をこえ、その若年層の平均年収は106万円だという。これではアパートを借りることもむずかしい。自宅で暮らせなければ、ネットカフェをねぐらにする人がいても無理はないというわけだ。この本には著者自身の体験もふくめて、非正規雇用のひどい実態が書かれている。企業に、経営者に、いいようにこき使われ、使い捨てられる人たちがこれほど大量にいるのに、社会はそれを自己責任だといって突きはなす。そして「フリーター」と呼ばれる人たちは、じぶんの現在の境遇が社会によってもたらされたと強く言えないし、同じような状況にいる者たちが連帯して声を上げるといった行動にも、なかなか出られなかった。彼女はいわば、そんな従順で孤立した若者たちの代弁者として、この本を書いている。 ![]() ・この本には、そんな主張を真に受けて本気で反論した人たちを批判する部分もある。戦争の悲惨さを知らない者の無責任な発言とか、現在の生きにくさを一番感じているのは若者以上に中高年の世代だといった意見に対してである。実際僕も読みながら、そんなことをついつい口走りたい衝動に駆られた。けれども、よく読めば、著者が言いたいことはもっと別のところにあることがわかってくる。 ・この本にくりかえし出てくるのは、景気が回復した現在でも、フリーターを正社員として雇用する気のある企業は、わずか1.6%しかないという現状だ。つまり、正社員の採用は高校や大学の新卒者が基本であって、そこからはずれた者は雇わないとする慣行が厳然と立ちはだかっている現実である。やり直しを許さない社会なら、社会自体をぶちこわした方がいい。そのことを「戦争」でというから刺激的で、多くの反論が浴びせられたのだが、この本には、そうでも書かなければ誰も注目しないだろうという必死さや、それを計算したしたたかさも感じられる。 ![]() ・言われてみればまったくその通りと思わざるをえない。しかし、このような現状を突きつけられると、なぜここまで、放置されたままできたのだろうか、という疑問も湧いてくる。言いたいことを社会に向かって言えない若者たちの従順さや、互いに孤立して、一緒になって悩みを共有したり、問題をさがしたりすることができないこと。職がない、収入がないとは言っても、親に依存し、寄生(パラサイト)していれば何となく生活できてしまうこと。価格破壊で驚くほどの安い値段でいろいろな物が売られていて、生活に苦しむ人がいることに現実感がもてなくなってしまったこと。もちろん、定職をもち、それなりの収入を確保できている人にも、そんな状況がいつ破綻するかわからないといった不安感も小さくない。そんな中でがんばっていると感じている人には、職がない人は努力をしない人だと判断されがちだろう。 ・けれども一番の問題は、政治的、経済的、社会的強者が生き残るために弱者を犠牲にしてきたということだし、その事実を、弱者の責任に転嫁してきたことにあるのは間違いない。そのおかげで業績を回復させた大企業や、公的資金によって再生できた銀行、そして何よりピンハネをビジネスにする人材派遣会社の急成長と、それを野放しにしてきた政治の責任をもっと追及すべきだが、若い人たちは、そのことで連帯して声を上げ、行動できるのだろうか。あるいは、パンクやヒップホップがそうであったように、自らの境遇から、新しい文化を創り出すことができるのだろうか。 |
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