・プロ野球がやっと始まった。とは言え、しばらくは無観客で、試合はテレビで観戦するしかない。台湾は既に客を入れて試合が行われているし、韓国でも1ヶ月以上前に始まっている。日本よりも感染者数も死者数も多いヨーロッパでも、既にサッカーのドイツのブンデス・リーグやスペインのラ・リーガ、そしてイタリアのセリアAも行われていて。イングランドのプレミア・リーグも始まったが、それらももちろん無観客だ。
・無観客でも試合ができるのは、テレビで大勢の視聴者が観戦して、リーグやチームには放映権料が入るからだ。ヨーロッパのサッカー・リーグは世界を市場にしているから、収入の多くがテレビの放映権になっている。日本のプロ野球は、最近では、地上波ではめったに中継されていなかった。BSやCSで多くの試合を中継していたが、その放映権料は決して高くはないだろうと思う。試合数も少なくなったから、当然、収益減になるのだが、選手への報酬をどうするかという話は進んでいないようだ。とりあえず試合を始めて、お金については、後から決めようというわけだが、選手はいったい、どこまで納得しているのだろうと疑問に感じている。
・他方で、アメリカのMLBは選手会との交渉が難航して、開幕出来るかどうか危ぶまれている。当初は7月4日の独立記念日からシーズンを開始するといわれていたが、それ以前のキャンプや練習試合の期間を考えると、既に不可能になっている。一体、シーズンを何試合にするのか。選手の報酬をどうするのか。感染を恐れて出場を辞退する選手をどう扱うのか。そういったことがなかなか決まらないのである。MLB、各チームのオーナー、そして選手にとって、何より大事なのは、どれほどの収入が確保できるかだから、銭闘などと皮肉られてもいる。もちろん、経済的な事情はチームによってさまざまだし、選手がもらう報酬も、格差はあまりに大きなものである。
・MLBの各チームはそれぞれ、全米各地の小都市に4つか5つのマイナーチームを持っていて、若手の育成や、地域のファン獲得に努めている。経済的な負担から、その球団を縮小しようという動きがあったのだが、コロナ禍で、マイナーの選手を解雇した球団が続出した。あるいは解雇はしないまでも、報酬を払わないところもいくつかあった。マイナーの選手の年俸は100万円にも満たなかったりするようだが、それさえ払わないというのは、あまりに現金だというほかはない。
・他方で、一流選手の年俸は高騰が続いている。たとえば大谷選手が所属しているエンジェルスのトラウト選手は昨年、12年で479億円の契約をした。毎年40億円というのは。試合数で割れば2500万円になる。同じ野球なのに、シーズン通して100万円しかもらえない選手との格差には驚いてしまうが、野球にかぎらず、一部のエリート選手にお金が集中する傾向は、どんなスポーツでも変わらないようだ。もちろん、多くのスター選手がマイナーの選手やスタッフ、あるいはコロナ関連で多額の寄付をしている。しかし、格差そのものを疑問視する声は少ない。
・プロ・スポーツが無観客でもシーズンを開始できたのは、テレビの放映権料が入るあてがあったからである。実際それは、入場料収入よりもはるかに大きな額になっている。ただし、MLBのマイナー・リーグでは、入場料以外の収入は得られないから、今シーズンはなしということになった。そこは1部、2部を入れ替え制にしている世界中のサッカーリーグとは違うところである。小都市にある小さな球場で、将来、メジャーに上がるかもしれない選手を応援する。我が町の我がチームを支えているからこそのメジャーなのだが、それが壊れてしまいかねない状況なのである。
・コロナ禍でプロスポーツとテレビの関係が改めて浮き彫りにされたが、スポーツがテレビに左右されるのは、オリンピックの真夏開催でも明らかになっていて、そこにも巨額な放映権料という問題が立ちはだかっている。テレビでいろいろなスポーツを楽しむことができるのはいいことだが、テレビによってスポーツがむしばまれていることを目の当たりにすると、何とも矛盾した思いに捕らわれてしまう。スポーツを金のなる木に変えたのはテレビだが、そのスポーツをダメにしてしまうのもテレビなのである。